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第五話 傭兵団の鍛え方

「手枷の鎖が付いたままでどうやって食べるんですか?」

「鎖は魔法で遠隔操作されてる。食事、労働、そして運動時間のタイミングで勝手に消えるんだ」


なんて便利なんだこの世界の魔法は。

暫く鎖を眺めていると、手錠の中に吸い込まれるようにして鎖が消えた。


「よし、ついてこい」

「はい」


 長い階段を降りて食堂に繋がる廊下に出た。無表情の看守が10m間隔で立っている。

「カズ、看守に聞こえんよう小声で喋るぞ」

「分かりました」

「ここには悪人だけじゃなく政府の策略で牢獄に来た奴が大勢いる。俺とお前みたいな人間がな」

 テレーズの顔が浮かんで不快な気持ちになった。

「俺がいつも行動を共にしている者は基本的にこっち側だ。仲良くしとけ」

「……頑張ります」

 初対面の、しかも異世界人と仲良くできるかは分からないが脱獄の為になるかもしれない。なんとかするしかないか。


 食堂に入り食べ物を載せるプレートを持って長蛇の列に並んだ。配られた食事は意外とまともな内容と量だった。食べきれるか怪しいくらいだ。

「俺らの席は中央の列の真ん中だ。覚えとけ」

「決まってるんですか?」

「暗黙の了解って奴だ」

「なるほど」


「おいトキ、新入りかそのガキは」

 俺の頭のはるか上から声がした。トキさんの知り合いだろう。計測スキルを使って大男を改めて見たら、身長218㎝、体重 143.9㎏と出た。

 バスケの選手でもこんなに大きい人、中々居ないぞ?一体どうやったらこんなに大きくなるんだ?

「デレク、声を潜めろ」

 トキさんが鋭い目でデレクと呼ばれた大男を睨んだ。デレクさんは色々と察したようで、トキさんと同じ表情をして席に着いた。


「紹介する。元傭兵団団長のデレク・ダンディリオンだ」

「よぉチビ助。お前も俺達と同じか?」

 あなたが言ったらほとんどの人がチビでしょう。

「は、はい。太刀山一志です」

「デレク、こいつが希望になるかもしれん」

 デレクさんは長い金色の髭を撫でた。

「……本気か?」

「ああ、大マジだ。カズを仲間に加える」

 

デレクさんは俺の頭と胴体、手や腕をまじまじと観察した。やめてください、俺の体はインドア趣味のせいでスマートすぎる仕様になっているんです。

「んで、俺にカズを鍛えろってか」

「話が速くていいぜ」

 こんな筋骨隆々な人に鍛えられたら殺されてしまうんじゃないか。俺は生唾を飲み込んだ。試しに俺の身長体重を計測してみたら、165㎝、47㎏と出た。

「トキさん、俺……大丈夫ですかね?」

「なにがだ?」

「いえその、俺は大きい方じゃないし、細いし……」

「まだ十代だろう?心配するな」

「そうだぞチビ助、俺の手にかかれば身も心もでっかくなるぜ。ククク」

 トキさんを計測したら183㎝、96.4㎏と出た。大男二人が飯を食べながらニヤニヤと笑っている構図は誰が見ても恐ろしいだろう。

 

 食事時間が終わりを告げると、今度は運動時間になった。俺達は頑丈なフェンスで囲われただだっ広い中庭に通された。

 本当に運動をする者は少なく、九割が雑談かカードゲームをして過ごしている。俺達はなるべく看守の目を盗めるような位置にある建物の壁に寄りかかった。

「デレク、決して驚くなよ」

「ああ」

「カズの手枷はただの鉄だ。スキル封じの効果が無い」

「……!!」


 デレクさんは大きく目を見開いたが、大声を出すのはぐっとこらえた。

「く、詳しく教えてくれ…!」

「ああ、カズは――」

 デレクさんに俺の身の上話をした。すると彼は獲物を狙う肉食獣のような目でニヤリと笑った。

「トキ、神様はまだ俺達を見捨ててねぇみたいだな」

「待った甲斐があったよ。俺は未だに現実感が無い」

「チビ助、取りあえず腕立て伏せしろ」

「え、今ですか?」

「もちろんだ。運動時間だぜ?」

「は、はぁ……」

 地面に手をついて姿勢を取ったら、デレクさんが正しいフォームになるようにアドバイスをくれた。

 俺は強くなってここから出るんだ、全力でやってやる。


「5回か」

「貴族のお坊ちゃんみてぇな体だから、まぁそんなもんだとは思ってた」

「く、悔しい…!」

 六回目に挑戦するときに体が潰れてしまった。呼吸を整えてもう一度挑戦してみよう。

「おっと、今日はもういいぜチビ助」

「も、もういいんですか?たったの5回じゃ……」

「やめとけ」

「でも、俺は速く強くならなきゃいけないんです、ここから出なきゃ!」

「お前みたいなモンが量こなせるわきゃねーだろ」

「うぐ!」

「やる気は買うがよ、速く強くなりたいんなら頭を使わなきゃいけねぇ」

 デレクさんから賢そうな言葉が出てくるとは思わなかった。流石は元団長だ。


「焦って無茶苦茶やって怪我でもしてみろ、前より弱くなっちまうぞ?」

「た、確かに」

「いいか、やるべきことを必要な量やるんだ。覚えとけ」

「分かりました」

 どうやら焦りで視野が狭まっていたみたいだ。俺が脳筋になってどうするんだ。

ここから出るためにやるべきことやる、そういう意識で行動しよう。


「カズ、俺達は明日から刑務作業だ。適当に体を休めとけよ」

「はい。刑務作業ってどんなのですか?」

「農作業、まぁ力仕事だな」

 腕立て伏せ5回が限界の俺が、農作業?想像するだけで筋肉痛になりそうだ。



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