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第十五話 力、目覚める時

ブラスモンキー、奴はチンパンジーとマントヒヒを混ぜ合わせた様な見た目をしている。

 でもサイズはゴリラより大きく、最悪なことに殺人を楽しむ知能と凶悪性を持ち合わせている。

「ホッホッホッホー…」

奴は陽気に吠えながら俺達を見回すと、犬歯をむき出しにして笑った。

「だらぁ!!」

 デレクさんが鉄槍で突き刺したがあっさりと回避された。


 そして、俺の方に飛び掛かって来た。


 「あっ」

 眼前に迫る奴の右手がスローモーションに見える。

 俺が一番弱そうだから、おやつ代わりに殺してみようとか思ったのかな。こんなことを考える余裕があるのに、体は全く動かない。

 トキさんが必死の形相で奴に剣を振ろうとするのが見える。俺なんかのために、すいません。


「ウキャァ!」

 これまでの疲労のせいで俺の膝がガクッと曲がった。

「うぐっ!!」

 頭部に激痛。吹き飛ばされ地面を転げまわって、最後は木に衝突した。

 脳みそをミキサーにかけられたような気分だ。体中からミシミシと音が聞こえる。

「くたばりやがれ!!」

 トキさんの剣が地面に当たった音が聞こえる。躱されたか。

「チビ助!生きてるか!?」

 指が一本も動かない。顔を横に向けることすら重労働に感じるし、景色が何重にも見える。

「死んじゃいない!掠っただけだ!」

「俺が何とかして引き付ける!おめぇはチビ助を――」

 そうか、膝が曲がったから奴の狙いが外れたんだ。


 攻撃が空気を裂く音と、ブラスモンキーの笑い声が聞こえる。まさか猿に殴り殺されるとは思っていなかったな。

 そもそも、異世界なんかに行ってる時点で全てが予想外だ。でも、一つも楽しくない学校に毎日通って、誰からも認められず、歯車になって死んでいくはずだった日本での暮らしより、まだ笑える結末だろう。

「あ、はは、は……」

 そうさ。クラスメートに馬鹿にされ、転移した先でも馬鹿にされ、牢屋に入れられても馬鹿にされ。ホームシックにならなかったのは、多分親にも認められてなかったからだろうな。

「ぜん、ぜん……わらえ、ないなぁ……」


『自分の命のために他の命を奪う、それが生きるということだろう!』

 

 シェイクされた俺の脳内で、不意にトキさんのセリフが再生された。


「俺は、俺は……」

「ぐぅおあ!!!」

 デレクさんの叫び声と金属がぶつかり合った音が聞こえた。奴が金属化のスキルを使ったんだろう。

 こちら側に向かって来る足音は、恐らく人間の物じゃない。奴だ。

「もっと、生きたかったなぁ……」

「グギャアア!」

 ぼやけた視界に奴の拳が映った。

「なに寝てやがる!」

 耳障りな音と共に火花が飛び散った。

「ト、トキさん」

 額から血を流した彼は猿の拳を受け止めている。しかし、奴の力の方が強いみたいでどんどん押し込まれているようだ。

「逃げ、て……」

「お前、俺の前でまた綺麗ごとを言ったな?」

「はやく…」

「良し、決めた!」

 どう見ても限界だ。なぜ俺を置いて逃げないんだこの人は。

「俺はこのクソ猿をぶった切って、その後お前をぶん殴る。約束、忘れたとは言わせねぇぞ…!!」

「あ…」

 そういや最初に会った時に言ってたな。あの時俺は今みたいに全てを諦めていた。

「すいません、忘れてました」

 そしてトキさんのお陰で思い出せたんだ。理不尽に対する怒り、奪われる事への怒りを。

「思い出したか?」

 

「はい、ありがとうございます」

 生きて、脱獄して、そして。

「復讐してやる!!!」

「良く言った!」

 獰猛に笑ったトキさんは猿の股間を思い切り蹴り飛ばした。

「ギャワアアア!!!」

 奴は人間と構造が近い。狙いやすいところに急所があって良かった。


「時間はもう稼げない。あとはお前のスキルにかかってる。なんとかしろ!」

「了解です」


 俺のスキルは出来ると思えば出来るんだ。半年間新しい能力は発見できなかったが、そんなことは今考えるな!

 トキさんとやりあっているブラスモンキーの動きをよく見ろ。勝利のために何が知りたい?何を計測すればいい?

「ギャワ!」

「くそっ……」

 トキさんが今のひっかき攻撃を避けきれなかったのはなぜだ?そんなの決まってる、奴のスピードがトキさんより速いからだ。

 後ずさりしたトキさんは落ちていたナイフを奴の顔目掛けて蹴り上げた。

 そして、奴の視界が塞がった一瞬の隙を逃さず剣を振るった。

「おらぁ!!」

「グギャ……!」

 金属化のせいでまともなダメージは入っていないが、クリーンヒットだ。今のはなぜ当たった?

「予想外、だから……」


「ウキャアアアア!!!」

 奴は心底イラついたのか、体を滅茶苦茶に振り回した。

「ガキか貴様は!!」

 奴の乱打を防御し続けた剣は耐えきれず砕け散った。

「ちくしょう!ぐお!?」

 避けきれず被弾。もうまともに戦えないトキさんをじろりと睨んだ猿は、俺の方にゆっくり歩いてきた。

「フーッ、フーッ、ホホゥ……」


 相変わらず気色悪い笑顔だな。俺は腰に差した手斧を一本抜いて構えた。

「来いっ!」

「ギャアッッ!!!」


 昔、ネットで見た。着ている服や履いている靴で性格が推測できると。細かい仕草、視線の動きで他人の心を読める人がいると。

 なら、頭の中身すら計ってやるよ。俺にはそれが出来るはずだ。

「やってやる……!」

 計測発動、目標は相手の思考。


 また世界がスローモーションになった。落ち葉を蹴飛ばしながらじわじわと奴が迫ってくる。

 もう少しで何かを掴めるはずなんだ。あと三秒もあれば……!


「よぉエテ公、死の抱擁だぜ」

「ギャギャ!?」

 

 デレクさんだ!草陰から飛び出し奴の首を絞めた!

「ウギャギャ!」

「マジかーっ!?」

 猿め、デレクさんを体から引きはがし、真上に5mはぶん投げやがった!でも、お陰で掴めた。


「デレクさん!ナイス時間稼ぎ!」

「ハハハ!!やっちまえ!!!」


「ウキャアーー!!!」

 頭、噛みつき。

「うお、っと」

 しゃがんで回避。

「ウキキ……?」

 困惑。投石で様子を見る。

「ほい」

 横にジャンプして回避。

「ギ!……ウギギ!!」

 舐めやがって。金属化した右腕の大振り。

「貰った!」

 奴のわき腹の位置を予想し、事前に斧を振っておいた。

「グフッ」

 命中、めり込んだ感触あり。

「どうやら、スキルを腕に集中した分、別の位置は柔らかくなってるみたいだなぁ?」

 

奴はわき腹を抑えてバックステップした。そして、血みどろの手の平を確認するとうつむいて動かなくなった。


「お前の頭の中を読めば、予想外の攻撃なんてやりたい放題だよ」

 奴の耳がピクリと動いた。

「だってお前、人間様よりバカだから」

「ギャワアアーーー!!!」



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