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銀河戦記/拍動編  作者: 神崎理恵子
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第一章 Ⅳ フレデリック第三王子

 Ⅳフレデリック第三王子



 地球人類が太陽系を脱出した数百年の間に、生息域を広げていった結果、銀河系渦状腕の中のオリオン腕と呼ばれる領域にほぼ行き渡った。

 宇宙航行術や航続距離などの問題で、星のない渦状腕間隙を越えて渡ることが出来なかったからである。研究者たちは、すぐ隣にあるペルセウス腕に渡るための宇宙航行術の開発競争に明け暮れていた。



 その中にあって、三つの国家勢力が栄えていた。

 母なる地球のある太陽系連合王国、六光年離れたプロキシマ・ケンタウリ星系にあるケンタウリ帝国、四十光年離れたTRAPPISTー1星系にあるトラピスト星系連合王国である。

 ケンタウリ帝国皇帝アウゼノンは、覇権を求めて周辺国家への侵略を開始した。

 隣国のバーナード星系連邦を勢力下に置いたのを皮切りに、ティーガーデン惑星国家(12光年~太陽)、ウォルフ惑星国家(14光年)、グリーゼ諸国連邦(22光年)、そして太陽系連合王国も支配下に置いた。

 次なる目標は、トラピスト星系連合王国だったが、四十光年という遠距離にあり、補給の問題から攻略に苦慮していた。

 そんな中トラピスト女王クリスティーナの命を受けたネルソン提督率いる解放軍が、ケンタウリ勢力下の各地に出没して抵抗を続けていた。ちなみに帝国では反乱軍と称している。


 クリスティーナ女王の第三王子フレデリックも解放軍に参加して奮戦していた。

 広大な宇宙をアムレス号が進んで行く。

 艦体外壁に大きな損傷があり、航行というよりも漂流に近かった。

 艦橋内は整然としており、損傷は内部までには至らなかったようだ。

「まもなくアンツーク星に着きます」

 エダが報告する。

「そうか……。何とかたどり着けたな」

 パネルスクリーンに投影されたアンツーク星を見つめるフレデリック。

「着陸態勢に入ります」

「よし」

 アンツーク星に着陸しようとするアムレス号。

 岩山に近づくと岩盤の一部が割れて、船は地下基地へと進入する。


 基地内にある子供部屋。

 ゆりかごに赤子が眠っており、それを揺すっている母親のリサがいる。

 その表情は優しく赤子の顔をじっと見つめている。

 そこへロボットが入ってくる。

「フレデリックサマガ、オ戻リニナリマシタ」

 合成音声でフレデリックの帰還を告げた。

「本当に?」

「ハイ」

 リサは立ち上がって、

「ロビー。アレックスを見ててね」

 ロビーに子守を任せて、出迎えに走った。


 基地内ドックにアムレス号が着艦しており、乗降口からフレデリックとエダが降りてくる。

「エダ。早速だが、船の修理を頼む」

「ええっ! 今すぐですか? 帰ったばかりですよ」

「つべこべ言わずに、言われた通りにしてくれ」

「分かりました」

 後ろ向きになり立ち去りながら呟く。

「まったく人使いが荒いんだから……」

「今、何か言ったか?」

 フレデリックに聞き咎められてしまう。

「いえ、何も!」

 スタスタと元来た道を戻ってゆくエダ。

 正面の扉が開いて、リサが現れる。

「あなた!」

 二人駆け寄って抱き合う。

「あなた、会いたかった」

「寂しかったかい?」

「ええ……」

 見つめ合い、二人ともしばらく動かない。



 情報センター。。

 立ち並ぶ計器類、明滅するランプ。

 宇宙の各地区に仕掛けてある隠しTVからの映像と音声が流れている。

「バルカン星区はどうか?」

 フレデリックが尋ねる。

「そこも駄目です。解放軍はほぼ壊滅です」

「グリード星系パストラール、ヨリ入電デス」

 ロビーが伝える。

「ビデオパネルに出してくれ」

「リョウカイシマシタ」

 地球より22光年離れたグリーゼ667C星系にある惑星国家パストラールは、今まさに帝国軍との最前線に位置していた。

「おお! フレッド無事だったか」

 相手は、パストラール大統領ベルフォールだった。

「久しぶりだな、ベルフォール。どうだ、そちらの戦況は?」

「思わしくない。ここはオリオン腕の中心に位置していて解放軍の最大拠点だ。帝国も全勢力を上げて大艦隊を送り込んでいる。。パストラールの全機能を振り絞り、かつまたトリタニアからの多大なる援助を受けて、何とか死守してはいるが、いつまで持つかは時間の問題だ」

「そうか……。トリタニアにとっては最後の砦だ。頑張って欲しい」

「それは分かっている。ところで、クリスティーナ女王様から、君について尋ねられるが、どうお答えしたらいいかな?」

「済まない。母上には、まだ秘密にしておきたいのだ。とにかく君の方も大変だろうが、私も私なりにやっているつもりだ」

「分かった。女王様には適当に答えておこう」

「済まない」

「時間が来たようだ。これから私も戦列に加わって指揮を執らなければなれない。そういうわけで、君ともっと話していたいがそうもいかない。では、君も頑張ってくれたまえ。私は行く、宇宙のどこかでまた会おう」

「ああ、宇宙のどこかでな」

 パネルの映像が消える。

 ため息をつくフレデリック。

 その次の瞬間、胸を押さえて倒れる。

「フレデリック様!」

 エダが駆け寄る。



 プライベートルーム。

 椅子の背もたれに身体を預けて、苦しそうに目を閉じているフレデリック。

 その側で看病しているエダ。

「エダ……」

「はい」

「いいか。私の病気のことは、リサには内緒にしておいてくれ」

「分かっております……」

 エダ、暗く押し黙っている。

「どうしたエダ? いつもの君らしくないぞ」

「私は……私の力のなさが憎い……」

「何を言う……」

「私は、フレデリック様がお生まれになられた時から、ずっとお傍にお仕えしておりました。お守り役から始まって遊びのお相手をしたり、本を読んで差し上げたり、さらには勉強のお手伝いをしました。最後には、ロケット工学・コンピュータ工学の手ほどきを、私の持てるすべての知識を、フレデリック様にお教え致しました」

「そういえばそうだったな……その事に関しては、私も深く感謝している今日の私がいるのは、すべて君のおかげだ」

 エダ、瞳を潤ませている。

「エダ、泣いているのか? 涙が……」

「え? 涙……?」

「そうだ、涙だ。涙を流さないはずの君が涙を流している」

「フレデリック様のご病気のことを思うと……。自分がもっとお身体に注意していればこんなことにならなかったのに……。そして、どうすることも出来ない自分の無能さが歯がゆくて……拭っても拭っても涙が……」

 フレデリック、エダの両肩に手を置いて、

「もう何も言うこともない。ありがとう、エダ」

「フレデリック様……」

 エダ、フレデリックの胸の中で泣く。


 アレックスの眠る揺り篭を囲んで話し合うフレデリックとリサ。

「よく眠っているわ」

「ああ……。世の中では醜い戦いが起こっている事などまるで知らない。幸せな眠りだ」

「戦争が終わり、本当の幸せが来るのはいるかしら……。私たちが死んで、この子だけが生き残ったら、一体誰がこの子の世話をしてくれるというの?」

「何を言うんだ、リサ!」

「あなたこそ、私に隠していらっしゃる事があるのではなくて……?」

「リサ!」

 見つめ合ったまま黙り込んでしまう二人。

 時間だけが静かに過ぎてゆく。


「気づいていたのか……」

「ええ……。あなたの妻ですもの。あなたが無理して不通を装っていることぐらい、私には分かります」

「そうか……」

「それで、どうなんですの?」

「宇宙線病だ。正直言って手の施しようもなく、そう長くはないらしい」


 医療センター。

 ベッドに横たわるフレデリックと、すぐ傍で看病を続けるリサ。

 その脇では、エダがアレックスを抱いている。

 エダの顔に悪戯するアレックス。

「リサ……」

「ここにいるわ。あなた、しっかりして」

「アレックスをここに……」

 エダ、黙ってアレックスをフレデリックの顔の前に差し出す。

 アレックス、一瞬ポカンとしていたが、やがてフレデリックに向かって、

「パーパ、パーパ」

 と、その小さな手で顔を撫でまわす。

「アレックス……リサやエダの言うことを聞くのだよ……」

 アレックス、首を傾げる。

「リサ、アレックスを頼む」

 エダに向き直って、

「後のことはすべて君に任せる。私の指示した通りにうまくやってくれ」

 エダ頷いて、アレックスを再び抱え上げる。

「リサ、愛しているよ」

「あなた……」

「リサ……そして私の……」

 静かに目を閉じるアルフレッド。

「あなた!」

 リサ、アルフレッドに覆いかぶさって泣き崩れる。

 アレックス、その姿を見てポカンとした表情をしている。


 椅子に腰かけて放心状態にあるリサ。

 目の前には、アルフレッドの遺体が収容された冷凍カプセルがあり、その下側の周りでアレックスが遊んでいる。

「マーマ、マーマ」

 アレックスが這ってリサの足元からスカートの裾を引っ張る。

「アレックス……。パパがいなくなって、ママはどうしたらいいの?」

 抱き上げるリサの頬に涙が流れる。

「アレックス……」


 扉が開いて、ロビーがワゴンを押しながら入ってくる。

「オ食事ヲオ持チシマシタ」

「食べたくありません」

「デモ、モウ一週間モ召シアガッテイラッシャイマセン。オ身体モ弱ッテイラッシャイマス」

「食べたくないものは、どうしようもないのです。下がっていなさい」

「シカシ」

「これは命令です!」

「ハイ、カシコマリマシタ」

 ロビー、ワゴンを押して退室する。


「どうでしたか?」

「ダメデス。王女サマハ、生キル気力ヲナクサレテイマス」

「そう……お可哀そうに……」


 ベッドにリサが弱々しく横になっている。

 目は虚ろで視点が定まっていない。

「エダ……」

「はい」

「アレックスをお願いします」

「分かりました」

「ありがとう、エダ……」

 そう言うと、静かに目を閉じた。

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