異変
いつもなら帰ってきてる時間に彼は居ない。
今夜は遅くなるらしい。
何故だろう、本来はいない彼を想い、
寂しがるべきなのだろう、しかし、今の私には彼に対する想いなど無かった。
もしかしたら、最初からなかったのかもしれない。
私は彼の居ない夕食を楽しみ、まるで、最初から
彼が居なかったと錯覚するほどに一人の時間を楽しんでいた。
(こんなに楽しいのはいつぶりだろう…)
胸が高鳴る、心が踊る、まるでよっているような感覚。
そうだ、酔っているのだ、普段では味わえない
この甘くて溺れてしまうほどの感覚。
(いつまでも溺れていたい…)
しかし、現実はそうよく出来ていない。
時計を見ると、夜がふける時間だった。
「あぁ、もうこんな時間、急いで片付けなきゃ」
私は、急いで片付ける。
明日も早いのだ、そろそろ寝なければ。
そう思っていると玄関が開く音がする。
どうやら帰ってきたようだった。
(もう帰ってきたんだ…)
私は、心の底からのため息を漏らし、玄関へと向かう。
「おかえりな…さい?」
私は目を見開いて目の前に起きた事に驚く。
彼は相当酔っている様だった。
「あぁ…」
かろうじて返事する彼に肩を貸しているのは、
一人の女性だった。
「あ、すみません、彼がお世話になって…」
慌てて女性に手を貸す、
「いえ、大丈夫ですよ?」
その女性は顔色一つ変えずに応える。
「重くなかったですか?」
私は不思議に思ったので聞いてみる。
「鍛えてますから」
女性は笑顔で応えると、
「部屋まで運びましょうか?」
そう提案してきた。
「あ、いえ、大丈夫です」
そう応えると、
「そうですか、じゃあ帰ります」
そう言って女性は離れ、帰ってゆく。
女性が離れると、私に彼の全体重が襲いかかってくる。
「う…んん……」
彼を引きずるように、部屋に運び、
彼をベッドに寝かせる。
(あとは薬と、お水…)
彼が起きた時に飲めるように、水と二日酔いの薬を
近くの机に置き、彼の部屋を後にする。
(まったく…)
ひと段落すると、今度は睡魔が私を襲ってくる。
(私も寝なきゃ…)
しかし、体が言うことを聞かず、その場に倒れる。
(意識が……)
意識が朦朧として、プツリと糸が切れたように、
私は暗く深い闇の中へと落ちていくのだった。
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