アルヴィス
アルヴィスと姿の見えない声との
出会いから、1ヶ月が経とうとしていた。
「相変わらず暇そうにしてるわね」
声からして、相手の方も暇なのだろう。
アルヴィスは、
「暇だが相手しないぞ」
「あら、相変わらずつれないのね」
この声と出会ってから、
色々と分かったとがある。
まず、声はアルヴィスにしか聞こえていないこと。
次に、絶対に姿を見せないこと。
最後に、年上の女性であること。
この3つしか分かっていない。
アルヴィスも声に対して質問するが、まともな答えが
返ってくることは無かった。
声の主のこと考えていると、ドアをノックして
老婆がやってくる。
「アルヴィス、お客さんだよ」
しわがれた声でアルヴィスを呼び、
手招きする。
(誰だ、一体…)
アルヴィスの覚えてる限りでは、自分宛のお客さんは
初めてだ。
「ほら、お入り」
とある一室に案内され、部屋に入る。
そこには、スーツを着た大柄の男が座っていた。
「ここに、おすわり」
アルヴィスは男の目の前に座らされる。
歳は見たところ、30代後半といったところか。
「単刀直入に言う、俺はお前の父親だ」
その男は口を開くとそう言った。
当然信じられる訳もなく。
「な、なにを言ってるんだ
俺には親は居ない」
そうキッパリと男を突き放すように言う。
「仮にも父親だとして、今更何しにきやがった」
アルヴィスの態度に、その男は動じる様子もなく。
「迎えに来るのが遅くなっただけだ
俺と一緒に帰るぞ」
アルヴィスは立ち上がり、
「うるせぇ!俺はお前とはいかねえ!」
そういって部屋から飛び出す。
後ろで騒いでいるような声が聞こえた気もするが、
そんなのもう、どうでもよかった。
(俺のいるべき場所は…どこにも無い…)
夢中で走り、部屋に隠れる。
その時、聞きなれた声が語りかけてくる。
「あらあら、そんなに慌てて、
私に会いたくなったのかしら」
ふふっと声は笑う。
しかし、アルヴィスにそんな余裕はなく。
「うるせぇ、俺の居場所はどこにもねえんだ…」
ドアに寄りかかるように座り込む。
「居場所がないなら、私が作ってあげましょうか?」
その声は、耳元で囁くような甘い声で聞いてくる。
「そんなこと、できるわけねぇ」
脳に残った甘い声をかき消すように、
「できるわけねぇんだ…」
「私と契約しなさい、そうすれば貴方の望むものを
全てあげるわ」
その言葉に心臓を掴まれた。
(どうせ、出来やしない
それでも…)
息を飲み、アルヴィスは決意する。
「分かった、契約してやる
その代わり望みを叶えろ」
アルヴィスの瞳は力強く虚空を見つめる。
まるでそこに誰かが、いるかのように。
「契約成立ね」
その言葉を最後に、アルヴィスの視界は暗転する。
その後、アルヴィスは変わり果てた姿で
部屋から見つかった。
犯人は今でも捕まってないという。
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