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ショートショート通信  作者: 小林小話
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彼女の仕事は何でしょう?

 ねえ、ちょっと。

 そうよ、そこのあなたよ。ちょっとこっち来なさいよ。一緒に飲みましょう。一人で飲んでたってなんにもおもしろくないでしょ? ちょっと私に付き合ってよ。

 え? わたしの方こそ一人じゃないかって?

 そうなのよ、ほんと困っちゃう。友達と待ち合わせしてたんだけど。その友達に急な用事が入っちゃってさ、取り残されちゃったってわけ。まあしょうがないんだけどね、彼女、そういう仕事なんだから。

 あ、そうだ、クイズしましょうよクイズ。

 問題! わたしの友達の仕事は何でしょう?

 なによ、そんなあからさまにめんど臭そうな顔しなくてもいいでしょ。どうせあなたも暇なんでしょ。デキる男なら、女性の話には付き合うものよ。

 だからやめてって、その顔、本気で嫌いなんだから。ああ思い出しちゃう。別れた彼氏もいっつもそんな顔してた。私が何か話すたびに、うんざりとした顔でこっちを眺めるの。本気で嫌いだったわ。もうあいつと会わなくなって、心底清々してるんだから。

 そうそう。そう言えばあの時、友達に助けられたんだったわ。

 その友達に会うのは、本当に久しぶりだった。小学校以来だったかしら。彼女、中学校から別のところに行っちゃったからね。頭良かったから、そういう子が集まる私立に行ったんじゃなかったかな。彼女の仕事初めて聞いた時は聞いたときはびっくりしたけど、ちょっとだけ、やっぱりって思うところもあったの。小学校の時から優しい良い子だったし、それでいて、どこか他の子と違ってた。わけのわからないセンスしてたけど、それだけじゃなくて。なんて言うんだろう、うまく言えないけど、この子は普通の人生にはならないんだろうなって、そんな予感があったわけ。

 わたし? わたしはいたって普通よ。普通すぎて、逆に普通じゃないくらい。普通に高校出て、普通に小さな会社に就職して、彼氏とはこの前別れちゃったけどさ。彼女とは真逆だわ。でも、仲はいいわよ。ま、これと言って自分の人生に不満があるわけじゃないんだけど。分相応って言うの? 結局、その人に見合ったものになるのよね。わたしは彼女みたいな特別な人生を歩めないけど、彼女も、私みたいな普通な人生は歩めないの。良くも悪くもね。

 それから、彼女、すごく美人なの。そんじゃそこらのモデルなら、勝負にならないくらい。あら、急に食いついてきたわね。紹介しろって? ダメよ、あんたみたいな冴えない男じゃ、彼女となんて釣り合わないんだから。ただ、彼女は仕事中ずっとマスク付けてるのよ。折角の美人がもったいない。でも美人過ぎるのか、男がハエみたいにうるさく寄ってくるから大変だって言ってたな。美人は美人なりの悩みがあるのよね。あなたもどうせハエにしか見られないんだから、彼女に近づこうなんて思わないほうがいいわよ。ハエたたきで叩かれるかも。

 ハエ叩きよりも、ハサミね、ハサミ。あんまり彼女を怒らせると、あなたの大事なところ、ハサミで切られちゃうかも。うわー、痛そう。

 そう。彼女、ハサミを使う仕事をしてるのよ。ジョキジョキ、切っちゃうわけ。こう言ったら物騒に聞こえるかもしれないけれど、彼女は悪い人じゃないのよ。むしろ、人助けを仕事にしてるんだから。

 彼女が言うには、「良い」って言うのは、悪いものがないことを言うんだって。いくら素晴らしいところがあっても、悪いところがだめなら全然駄目だっていうの。だから、悪いものを取り除く仕事をしてるんだって、生き生きとした顔で語ってくれたことがあったっけ。まあ当然よね。いくら顔が良くて金持ちの男でも、DVだったら耐えられないもの。

 わたしも彼女に助けてもらったのよ、半年ぐらい前だったかな。その頃が、さっき言った彼氏と別れる別れないで揉めに揉めてた時でね。ほんとあの時は大変だった。同棲してるとさ、うまくやれてる時はいいんだけど、駄目になったら最悪よね。家に帰るたびに喧嘩喧嘩の毎日で、精神的にも参っちゃったし、悪いことは重なることでさ、なんて言ったっけ、七転び八起き? 違うか、七転八倒か、この二つって紛らわしくない? なんでもいいんだけど、腸のあたりに悪い腫瘍ができてさ、それもどうにかしなきゃってなって、ほんと大変だった。

 そんな困ってた時に彼女に会って、助けてもらったのよ。だから、彼女は私の親友でもあるし、命の恩人でもあるの。彼女には感謝してもしきれないわ。だから、約束すっぽかされたことぐらいで一々腹が立ったりしないわ。だって、彼女に急な仕事が入ったってことは、彼女の助けを必要としてる人がいるってことなんだもの。わたしも彼女に助けられたのに、そのことに文句言えるはずないじゃない。むしろ、今この時も誰かを助けてる彼女を誇らしく思うぐらいだわ。

 で、どう? 彼女の仕事は分かったかしら?

 

 残念。不正解。せっかく、あれだけたくさんヒントを出したのに。ま、しょうがないけどね。わたしも彼女の仕事聞いた時は、びっくりしたもん。

 正解はこちら。

 これ、彼女の名刺。あなたも、相談したいことがあったら連絡してみるといいわ。小学校の頃から、相変わらず変なセンスしてるんだけど。

『正義の味方 ハサミ女

 虐げられる弱者の味方

 小さな悪から大きな悪まで、どんな悪事も、ハサミ片手にジョキンと裁く』

 この「裁く」っていうのが、ハサミの意味と裁判の意味でかけてるんだってさ。おもしろいでしょ。気になったら、ここに電話してみて。綺麗なハサミをもった彼女が、あなたの悩みを解決してくれるはずよ。

 わたしも、彼女のおかげでもう彼氏と会わないで済むんだから。

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