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頭いいヤツはバカの言うこと聞かなきゃいけないらしいよ  作者: 笙野ひいろ
中学生編 ~バカたちの出会い~
8/13

卒業と旅立ち

時は流れて3月15日。今日は中学の卒業式だ。朝から登校して、入場、卒業証書授与、と粛々と式は進み、現在


「———であるからにして、君たちは今日卒業するのです。これからは……」


絶賛校長先生の長い話を聞いている最中です☆

ねえ、なんで校長先生の話ってこんなに長いんだろうね。さっきから時計見てるけど、もう15分は喋ってる。でもまだ終わる気配が見えないのヤバくない?巷じゃPTA会長の話も長いって聞いたことあるけどさ。ウチの中学のPTA会長はそうじゃなくてよかった。だって、今日の挨拶「皆さん、ご卒業おめでとうございます!!先生方、今まで私たちの息子・娘のご指導をしていただきありがとうございました!」の二言で終わったからね。あれはびっくりした。だってマイクも使わずに会長さんの地声だけで体育館に響き渡るあの声量だったからね。うーん、校長先生とPTA会長とで時間のつり合いがとれてるって考えればいいのか…?


「———また、中学生の多感な時期というのは保護者の皆さまも……」


あー、まだ終わりそうにないな…。この体制保つのキツすぎる。去年までは在校生席だったから多少寝たって姿勢が崩れたって問題なかったけど、今年は違う。何てったって僕らは卒業生。3月の初めにある高校入試が終わってからというもの、毎日毎日座り方の練習してきたんだから!「起立、礼、着席」が揃わなくて何回やり直しさせられたか。座ってるときだって姿勢が崩れてると注意が飛んだし。今日は流石に注意なんかされないって知ってるけど、皆僕らのこと注目してる気がするから、この姿勢を保つしかないっ。


そんなこんなで校長先生の話を聞き流しながら座っていても、中々話が終わらないわけで。脳みそがとても暇だからか、僕は「あの日」から今日までを振り返るというしょうもない作業を始めようとしていた。だって、暇だし。何か他のこと考えてないとやってられん…。


--- --- ---


瑚翠の試考査前日だった「あの日」。あの日を境に僕の人生は絶対に変わった。…ちょっと中学生だからってませてるとか思わないでよ。本当だって。だってあの瑚翠高校に通うのと普通の高校に通うのとじゃ、これからの人生絶対違うでしょ。


父さんに背中を押してもらった次の日の放課後。僕は、前の日に貰った名刺の番号に電話をかけていた。「あなたの進路なんだから、私じゃなくて仁が自分で電話しなさい」ってお母さんが言ったからだ。名刺貰ったのってあれが初めてだったし、ほぼ初対面の人に電話を掛けるなんてこともしたことなかったから、受話器を耳に充てて呼び出し音を聞いている時、とても緊張したのを覚えている。そして、呼び出し音が1コールか2コールしないうちに「はい、私立瑚翠高等学校事務課です」って声がしたからびびったっていうね。


「あの、こんにちは。僕、風間仁って言うんですけど……」

「風間様ですか。昨日風間様のお宅に伺った者より聞いております。私、事務課に居り

ます、ハセガワと申します」

「ハセガワさん、ですか」


確か、こんな感じで電話が始まったと思う。それから、まあ電話の本題である瑚翠高校入学について、そのハセガワさんにお話したんだけど、


「一つだけ、風間様にお願いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

「…?はい。何ですか」

「風間様が瑚翠高等学校に進学するということを周りに悟らせないで欲しいのです」

「…ほかの人に言うなってことですか?」

「はい、その通りです。というのもいくつか理由がございまして……」


という感じで、僕は自分の進路を誰にも告げないでいた。もちろん、晃にだって。

理由をハセガワさんに話してもらって納得した。瑚翠の試考査は全国の中学三年生男子およそ30万人が受験するのに対して、実際に合格するのはたったの60人。確率どんだけなんだよって話だ。そして、そんな試考査を突破した60人はとっても分かりやすい『金の卵』って訳。その『金の卵』が近くにいるって知ったら、どうなるか分からないような人もこの世にいること。それらを電話で説かれると、僕はとてもじゃないけど口外しようっていう気にはならなかった。だって僕はその『金の卵』じゃないし。いいとこメッキなのにさ。


だから、僕は表向き「県外の全寮制私立高校」に受験して、進学することになっている。いや、合ってる。合ってるけども!絶対にみんなが思っている学校と違うよな~とか思いながら生活する僕の気持ち、考えたことあるかな?!嘘は一言も言ってないけど、いたたまれなさが半端ないんだよ。

そして、僕の進学先をこのように誤解しているのは同級生だけじゃない。担任含め、学校の先生も僕が「県外の全寮制私立高校」に進学すると思っているのだ。初めに聞いた時は、それって大丈夫なの?って思ったけど、ハセガワさんに


「何も問題ございません」


ってきっぱりあっさり言われちゃったら、「あ、そっすか」ってなる。絶対なる。


という訳で、僕は周りに本当の進学先を隠したまま入学準備やらなんやらをしなきゃいけないことになったんだけど、まあぶっちゃけ言うと、全く困らなかった!と言うのも、僕が用意しなきゃいけないのって生活用品位らしく。下着とか、パジャマとかそういうのね。それも別に学校で支給品がありますって言われたら、わざわざ揃えなくてもってなるし。まあ、流石に下着はこっちで買って持っていく予定だけどね。それに、僕らは対外的には特待生って位置づけらしく、学費も公立学校並。制服とか寮費とかの諸々いっぱいかかるであろう経費は全部向こう持ちだ。

だから、僕があれから今までにしたことって制服の採寸したくらいかな。それも、瑚翠御用達っていうお店の人が家まで採寸しに来てくれたから、別に全然大変じゃなかった。あれ、僕こんなんで高校行って本当に大丈夫なのかな?


--- --- ---


「———皆さんは、まだ蕾です。これから……」


ああっと、聞き流しているうちに、どうやら校長先生の話も終わりに近づいてきたみたい。先生の話が終わったら、もうあとは校歌を歌って卒業式は終わっちゃう。そうしたら、次の日、僕は家を旅立つのだ。誰にも、晃にも告げずに。



―これで、第59回~中学校卒業式を閉会します。一同、礼。……ご着席ください。……卒業生退場。皆さま、大きな拍手でお見送りください―

パチパチパチパチ



「じゃあ、仁も、晃もまたな!」

「おう!またな!」


そんな会話を元クラスメイト達と交わしながら、僕は晃と二人で校門から出ようとしている所。僕のお母さんも晃のお母さんも、先に帰っちゃった。僕らの家の方面は人が少ないから、帰り道は大体2人だった。今日もそう。いつもはあんなに煩い僕らなのに、今はおかしいくらい静かだ。晃がなんで喋らないのかは分からないけど、僕は晃を騙していることがいたたまれないんだ。僕は晃がちゃんと勉強を頑張って第一志望の高校に合格したことを知っている。なのに、僕は何も努力してなくて、挙句の果てに何も言わずにいなくなっちゃうからさ…。


家まであと500mといったところだろうか。とうとう僕たちの静寂の均衡が破られた。


「なあ、仁。明日遊べる?」


晃の口によって。遊べるって明日は、もう瑚翠に行かなきゃいけない日なんだけど。断らないと。…なんて言って断ればいい?「無理」って一言じゃダメだけど、理由を話すのはハセガワさんに言われたことを守れないし。……あ~、もう!いいや!


「ごめん……!僕…、ちょっと話したいことがあるから!!」


そういって、晃の手をつかんでずんずん歩く。晃は「えっ、ちょっと、仁?!」とか言ってるけど絶対気にしてなんかやらない。僕の家につくと、「ただいま」だけ言って、僕は2階の自分の部屋に晃を連れ込んだ。


「ちょっと、仁。どういうことだよ!いきなり「ごめん」って言いだしたと思ったら仁の家まで連れてきてさ」

「うーん…、あのさ。僕、晃にここ半年くらい隠してたことがあるんだよね」

「なにさいきなりww。……で?」

「僕の行く高校さ、瑚翠なんだよね」

「は」


あ、晃が固まった。うん、その反応が正常だよね。


「え…お前、県外の全寮制私立高校に行くって………!」

「だから、『県外』の『全寮制私立高校』に行くけど?」

「なるほど…ってなるか!」


いやー、いいツッコミありがとうございます。本当、行く前に晃に言えてよかったよ。お前、いきなり僕が消えたらびっくりするだろ?


「まあそりゃあ驚くけどさ。まあ、仁が元気になったみたいで俺はよかったよ」


え、気づいてたの?


「気づくもなにもお前バレバレ。まあ今の話聞いて大体想像ついたけどさ。仁さ、『俺だけ何も頑張ってない~』とか思ってるだろ」


え、図星。晃ってエスパーか何かだった?!すごいぞ僕の幼馴染。


「いや、お前が分かりやすすぎるだけだから。…でさ、仁。本当に頑張ってないんだったらお前俺と一緒に勉強なんてしてないから。分かってる?仁は受験勉強なんてする必要何もなかったのに俺に付き合ってやってくれたじゃん。それのどこが『頑張ってない』の?」


いや、でも、うーん……


「あー、お前普段はサバサバしてる癖に、こういうとこだけすぐナイーブになるのずっと変わらないな。俺が頑張ってるって言ったら、仁は頑張ってるんだよ。…はい、真面目終わり!」

「真面目終わりって晃wwww」

「俺だって普段の適当さで生きてきたいんです~」

「高校いっても適当にってか」

「そりゃあな、てかそろそろ帰るわ。母さん家で待ってる」


確かにもう家に帰ってきてからも結構な時間たってる。晃のお母さんも帰ってこないと心配になるかもしれないな。

晃の家まで送ろうか、とも思ったけど、そこまでする必要はないって止められちゃった。


「だって、もう二度と会えないわけじゃないだろ?」

「そりゃあもちろん。向こう言っても手紙とか、携帯もあるし。連絡する」

「俺のも楽しみにしといてよ」


んじゃあな。そう言って、玄関から出ていく晃を見送った。



そして翌日。


「風間様。お待ちしておりました。私、——と申します」


新たな出会いが待っているのだ!


ありがとうございました!

感想・評価していただけると嬉しいです

作者のモチベーションが上がります!


次回は 8月10日の20時更新を予定しています!


では。


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