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頭いいヤツはバカの言うこと聞かなきゃいけないらしいよ  作者: 笙野ひいろ
中学生編 ~バカたちの出会い~
6/13

関所を突破せよ

「――あ、仁。私は賛成したけど、瑚翠の方にお返事するのはお父さんに話してからよ。分かってるわね」


お母さんのこの一言で、和やかだった場が凍り付いたような気がした。

さっきまで「もう高校はここで決まり」っていう雰囲気だったのだ。でも、そうだよね。お母さんだけじゃ決められない。父さんがいるんだから、ちゃんと()()()()しないと。そういうことでしょ?


「そうよ。…という事なので、すみませんが前向きに検討するということで。返事は後日にしてもいいですか」

「はい、本日は提案という形で話をさせていただいたまでですので、是非前向きに検討して頂き、わが校への入学を決意していただければ幸いです」


そう言って、瑚翠の人は学校の説明資料を渡して帰っていった。


--- --- ---


さあ、どうしようか。父さんをどうにかして説得しなきゃいけないんだけど、そのビジョンが全く見えない。だって、絶対に「僕、瑚翠に行きたい!」ってだけじゃ納得してくれないし。何か理由をつけて、「それなら瑚翠で頑張りなさい」って言わせないといけないんだけどさ……。僕がいいね!って思ったところって、通学が簡単なことだからさ。(なお、そこに家からの距離は考慮に入れられていない)それだけじゃインパクトに足らないと思うんだよね。父さんの説得さえすれば、僕は瑚翠へ行くことができる。うん、最終関門だね。それが最難関なんだけど。


よし、作戦を考えるか。

その名も『さらっと言おう作戦』

話の流れの中で、自然と「あ、僕瑚翠に行きたいんだけど、いいよね」「ああ」と答えさせるこの作戦。「ああ」と言わせさえすれば、あとは「あの時『いいよ』って言ったでしょ」を突き通せる。父さんの口癖は「男に二言はない」だから、一回了承させればいけるはず。でもな~、どうやって自然にこの話を持っていくかだよな。いかに父さんに疑問を持たせずにこの話を持っていけるかにかかってるからな。「あの…父さん、」「急にどうした?」なんてぬっと来られたら緊張しちゃって自然にこの話ができる気がしない…!


じゃあ、これはどうだ?その名も『お願いお父様!作戦』

「お願いしますお父様!」をお目目うるうる付きで繰り出すというこの作戦。中学三年生になって普段可愛いところを見せなくなった息子が、可愛くお願いをしている…!という衝撃で「そこまでお願いされるなら…いいよ!!」と言わせようじゃないか。可愛くあざとく両手をグーにして、上目遣いで……、あれ、これ僕の中で何かが終わりそうな気がするのは気のせいかな。うん、気のせいじゃないね…。


な、ならこれはどうだ!その名も「だまし討ち作戦」

何か、署名が必要なものを用意しておいて、そこに父さんの署名を貰うんだ。その下には実はカーボン紙と「息子、仁の瑚翠高校進学を認める」って書かれてある紙が仕込んであって、父さんが署名したら、下の仕込んであった紙の署名欄にも父さんの名前が書かれるという作戦。うん、どんな形であれ許可をもらったっていう証拠があればいいよね。我ながら完璧な作戦では?……え、騙して書かせたのは証拠にならないって?そんな殺生な!これもダメか~。


ど、どうしよう……。僕が考えたどんな作戦でも成功しそうな気がしない。いや、2番目の奴ならワンチャンあるのか?でも、僕の羞恥心的に嫌だ。

ふう。落ち着け僕。まだ5時30分。いつも父さんが帰ってくるのは6時30分。まだ1時間もあるんだぞ。何か対策を考える暇はまだまだ――


ガラガラ


「ただいまー、帰ったぞ」

「あらあなた。今日は早いじゃない」

「いやー、今日は出先から直帰できたからなあ。ついてた」


僕にとっては最悪だよ!!!


--- --- ---


あれからあっという間に晩ごはんの時間が来てしまった…。

いつもは僕も含めて三人で一日のあれこれについて話すのに、今日はそうもいかない。なぜなら、まだ父さんへの説得術(言いくるめる方法)を考えられていないからだ。何としてでも今日中には言いたいところ。明日以降に持ち越すっていう戦略的撤退は許されないのだ!


「――ところで、仁は今日どうかしたのかい?」

「…え?特にどうもしないけど…」


どうしよう気づかれた?!


「だって、いつもより口数が少ないじゃないか学校で何かあったのか?」

「い、いや何もないよ!父さんの気のせいじゃないかなっ!!」

「そうかい?……そういえば母さん。12月のボーナスが――」


はあ。なんとか誤魔化せた、か?さっきのは流石に冷や汗でたわ。何も作戦考えられていないのに、話を切り出さなきゃいけないかと思った。あと、母さんがさっきから父さんと話しながら目線だけこっちに向けてくるんだけど、マジで勘弁してほしい。「早く言っちゃいなさい」って目線が語ってる。いや、分かってるんだって!でも、中々説得方法を思いつかないというか、勝利ビジョンが見えないというか、話を切り出しづらいというか……。


「そういえばお父さん。仁が何か話したいことがあるみたいよ」

「そうなのかい?仁、どうした?」


お母さん!!!!!!

なーんで話切り出しちゃったかなあ。え、仁が中々言い出さないからよ、だって?いや、食器を台所に片付けるときのすれ違いざまに小声で言わなくてもいいの!

もう!…えーい、ままよ。


「あのさ、今日家に帰ったら瑚翠高校の人が来てて。僕をスカウトしてくれたんだ。それでさ……僕、瑚翠に行きたいって思ってるんだよね」

「いいんじゃないか?」


まさかの即答?!


「え……?!」

「何をそんなに驚いているんだい?そりゃあ、息子が行きたいって言いだすんだから、応援するのが親ってものじゃないか」

「いや、でもさ……あの瑚翠だよ?」

「確かに、瑚翠高校と言ったら国内最難関の学校だな。でも、仁はそこに行きたいってちゃんと思ってるから父さんにこうやって言ってきたんだろう?じゃあ理由はそれで十分じゃないか」

「父さん……」

「お金とかのことは心配しなくても大丈夫だ。そういうことは大人が考えればいい話だから。だから仁、お前のやりたいようにやってみなさい」

「うん、分かった。ありがとう父さん」


意外とあっさり終わった。終わったけど!

絶対に言えない。僕が瑚翠に行きたい理由が通学時間だなんて…!


そんなことを思って安堵していた僕は、目を細めて「やっぱり僕の息子だなあ~」と言っている父さんと、一部始終を台所からビデオ撮影していたお母さんに気づかなかったのだった。


ありがとうございました!


今回「えーい、ままよ」が言いたかったんです。入れられて大満足!


感想・評価していただけると嬉しいです

作者のモチベーションが上がります!


次回は8月3日の20時更新を予定しています!


では。


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