進路は突然に
仁「そう、あの頃は僕も若かったんだ」
慧馬「仁、それって半年くらい前の話だよね。若かったって…バカなの?」
突然ですが読者の皆さん。受験についてどういう風に考えてる?
僕は今、「なるようになれっ!!」って思ってる……。
いや、自己紹介もしないでごめんな。僕は風間仁。今年受験生の中3だ。これを聞いたらみんなどうして僕がさっきの質問しようとしたか分かるよね!ね、ね、分かるよね…!分からなくても察して!そう、僕は高校受験どうしようーって思ってるんだ。どうしようって言っても受験しないと高校生にはなれないから受験することは決定事項。流石に中卒は大変だってことくらいは分かってる。でも問題はさ、どこ受けようってことなんだよね。
いや、どこにも行けないほどバカじゃないとは思ってる。うん。でも、近くに手頃な学校ないんだよね…。めっちゃ簡単に入れるか、いやここ無理だろってとこが自転車圏内で、あとは電車に乗らないといけない。電車に乗るってなったら朝早いから嫌だし。はあ、本当にどうしよう。
「ねえお母さん。どうしたらいいと思う?」
「仁がそこまで電車乗りたくないんだったら、そのどっちかにすればいいじゃない」
「それが嫌か無理だから言ってるんだよ?!」
お母さんは適当だ。よく言えば「子供の自主性に任せる親」だけど。相談したってよっぽどじゃない限りあんな感じだから困っちゃう。
「でもね、仁。真面目な話、まだそこまで焦らなくてもいいんじゃないの。まだ10月で、本番までは5ヶ月あるんだし」
「んー、まあ確かに…?」
「それに今週末は『試考査』でしょ。考える材料にはなるんじゃないの」
「お母さん、僕が試考査に受かるとか全然考えてないでしょ」
「そりゃそうよ」
ま、そうだろうな。だって試考査だ。
『試考察』というのはあの瑚翠高校への入学を懸けたテストのことで、全ての中学三年生男子が受けることになっている。みんな瑚翠高校って知ってる?日本で一番頭がいい人たちが集まる学校で、その入学テストが試考察。ね、受かるわけないって思うでしょ?
でも、そのテストの難易度はそこまで難しくはない、らしい。東大に何人も卒業生を輩出している他の私立の超進学校の方がよっぽど難しい。そう先生が言ってた。だからか、試考察は入学試験という位置づけながら、模試のような扱いを受けている。
時は流れて金曜日。
「あー、男子は明日試考察だからな。会場は隣町の〇△ホテルだ。みんな場所分かるなー。いくら試考察だって言っても遅刻すんなよー。女子の誠麟の試考察は来週だからな。よし、今日のHRはこれで終わりだ。終わったら受験票配るから男子は残れなー」
「起立ー、ありがとーございましたー」
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「ただいまー」
あれ、ハイヒール?お母さんこんなの持ってたっけ…?
そんなことを考えていると、リビングの扉を開けて顔をのぞかせたお母さんが血相を変えて近寄ってきた。何かあったのかな。
「仁おかえり。ちょっとあんたにお客さん!!」
「え?僕に??」
「そうよ。仁、あんた一体何やらかしたのよ」
「別に、特には……?」
「そうよねえ」
「なんで僕がやらかした前提…。で、お客さんって――」
そう、小声でやり取りしながら廊下を進み、ドアを開けると、そこには……
「風間仁様でいらっしゃいますね。私、私立瑚翠高等学校のものでございます」
「え、瑚翠…??!」
なんか、明日受けるはずだった学校の関係者?が恭しくいるんだけど!?
え、築10年のちょっと壁に汚れが目立ってきた家が――なんということでしょう!ダイニングテーブルの上に乱雑に置かれていたものはどこからか取り出された箱の中へ。整然と整頓されています。もう置き場所にこまってテーブルの上を占領する心配はありません。ダイニングテーブルには真っ白のクロスがひかれました。そして、今、紅茶が注がれたそこは正にお城のサロンそのもの!わずかな時間でここまで変化しました。
なんて某番組で頭を冷やしても相変わらず目の前にその光景は広がっているわけで。え、どうしてこうなった…?
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「――という訳でございまして。風間仁様には、是非我が瑚翠へと進学していただきたいのですが」
「でも…、仁はこういっては何ですけど、とてもじゃないですが試考察に通るような子じゃないと思うんですけど……?」
母よ、よく言った!
「瑚翠に行ったら人生バラ色」って言葉をよく聞くけど、それは決して間違いじゃない。それだけの素質を持っている人が集められているからだ。これは最早常識と言ってもいい。そんなところに高校選びで迷ってるような一般生徒が進学できるわけないじゃないか。
「正直なところを申し上げますと、風間様は確かに学力面では我が校の基準には達しているとは言えません」
ですよね!知ってた!
「しかし、これは一般には公表していないのですが、瑚翠には『Sクラス』と呼ばれる特別クラスがありまして。Sクラスに所属する生徒は風間様のように我々が直接声をお掛けしているのですよ」
「じゃあ、うちの仁はそのSクラスに…?」
「はい。是非進学を検討していただきたく」
Sクラス?まさか僕が瑚翠からスカウトが来るなんて思ってなかった。でも、僕には譲れないものがあるんだ…!
「あのー、少し聞きたいことがあるんですけど…」
「はい、私でお答えできることでしたら何でもお聞きください」
「瑚翠なんて今まで考えたこともなかったんで全然知らないんですけど、どこにあるんですか?」
聞くとこそこなの?!と思ったであろう諸君。説明しよう。
だって遠かったら通学大変じゃないか!僕は今日家に帰ってくるまで高校どこを受けようか迷ってて、それが近場に手頃な学校がなかったからなんだぞ。もちろん電車に乗れば僕の実力にあう高校があるのは知ってる。先生にも散々言われたし。でもさ、前にも言った気がするけど本当に!朝早いのは無理なんだって。
自分でもしょうもない質問だってのは分かってる。でも、瑚翠の人はそれをちっとも感じさせずに答えてくれた
「瑚翠高等学校がどこにあるのかと言いますと、少し説明が難しいので簡単に言いますと…島です」
「島…、ですか?」
「はい。詳しい場所は入学が決定しないとお教えできないのですが、本州からフェリーで一晩くらいの距離でしょうか。そのため、寮が完備されており、生徒の皆さまへのサポートも手厚くなっております」
「寮ってことは…朝早く起きる必要はないってことですか?」
「そうですね…。少なくとも7時30分に起床されれば一時間目に間に合うかと」
よっしゃ。そこに決めた!
「ちょっ、ちょっと仁!本当にそれでいいの?」
「うん。だってお母さんだって分かってるでしょ?これが僕の中で一番の選択肢だってこと」
「そりゃあ…、仁は通学時間にこだわってたものね」
「そうだよ。ここで受けなきゃ電車通学で5時起きなんて耐えられない」
「全く…、仁らしいわ」
そういったお母さんは瑚翠の先生の方を向いてこう言った。
「ウチの子をよろしくお願いします」
よし、これで高校生になれるぞ。
「――あ、仁。私は賛成したけど、瑚翠の方にお返事するのはお父さんに話してからよ。分かってるわね」
なんてこったい!
ありがとうございました!
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次回は7月31日の20時更新を予定しています!
では。