彼らの朝
こんにちは。
笙野ひいろと申します。
完結まで頑張りますのでよろしくお願いします。
「風間はよー」
「おー、おはよ」
こう言って今日も僕の1日は始まった。僕は風間仁。ここ私立胡翠高等学校の1年だ。僕に話しかけてきたのは楢崎弦。7人しかいないクラスメイトの1人だ。コイツは中々変わった奴で授業に遅刻して来ない日はない、ともっぱらの噂になっている。そんな楢崎が教室に1番にいるなんて珍しいと思い、必死な顔をしてスマホに向かっている彼にちょっかいを掛けることにした。ちなみに今は7時40分。授業が始まる50分も前だ。
「楢崎がこんなに早いなんて珍しいじゃん。今日は雪でも降るのかな?」
「バカだろ風間。今は夏だぞ。見ろよこのミレイちゃんの水着姿、ヤバいだろ?あと今日俺が早いのは当り前さ。帰ってないんだから」
「え、お前昨日寮帰ってないのか?」
「しょうがないだろ。今アイドルステージもヤマ娘もポクモンWALKだってイベントしてるんだよ。帰ってる時間がもったいない」
「ほんとに楢崎はゲーム好きだな」
「そうじゃなかったらこの学校は行ってないって。お前もだろ?」
「まあそうかもね」
どうやら楢崎は一人学校に残っていたらしい。様子を見る限り徹夜したのだろう。あくびを一つして「シャワー浴びてくるって言っといて~、後寝るかも~。イベント昨日が最終日だったし~。よろしく~」…学校にいるからって遅刻しないわけではないらしい。学校にいて遅刻ってパワーワードすぎんか。
そんなしょうもないことを考えていた僕は、教室の後ろから聞こえてくる怨嗟の声に気づくのが遅れてしまった。そう、朝のすがすがしい陽気のはずなのにまるでお化け屋敷の中にいるような気分になるこの声は…
「陰之助?」
「――ああ今日もいつもと同じく授業前30分に来たのに仁君いるし、廊下でこの時間は絶対いないはずの楢崎君まで見かけたし……はっ、楢崎君がこんな朝早くから校舎にいるはずないよね。…ということは幽霊?もしかして楢崎君って本当は幽霊で僕にしか見えてなかったんじゃ…あぁもう。なんでこんなことに……人間と幽霊の区別もつかないなんて本当僕はダメだなあ…「陰之助落ち着けよ」…あ、仁君おはよう」
「ああ、って…僕ずっといたのに気付かなかったのか?」
「そんなことないけど……、じゃあ僕は仁君におはようって言わずにずっとここにいたのか…。はあ、なんで僕はこんななんだ、もう今日はダメだ……帰る……」
「えっっ陰之助、まだ朝なんだけ、ど…?」
陰之助はそういって教室からふらふらと出て行ってしまった。今日はより一層ネガティブだったなあ。いつもより教室からいなくなる時間が短かった気がする。あぁ、陰之助が教室から出て行くのはいつものことなんだ。ちょっと陰之助は打たれ弱いみたいで落ち込むことがあると寮に帰って一人反省会を盛大に開催するらしい。でも反省することが多すぎて授業が始まるまで教室にいたことがない強者だ。って、
「陰之助!そろそろ出席日数ヤバいだろ!!幾ら僕らだからって出席日数だけは稼がないとダメだって!!!……ちょっと陰之助!?速度上げないでくれる!!?」
「こんな僕に仁君の手を煩わせてしまうなんて…僕はどうしてこんなにダメなんだ。はあ、早く寮に帰ってこんな僕が醜聞を撒き散らかさないようにしなきゃ……」
----------(5分後)----------
はぁーーー、疲れたぁー。結局陰之助には追い付けなかったよね。アイツ超ネガティブなくせに足めっちゃ速いんだよ。ネガティブと足の速さは関係ないって?そんなこと気にしたら終わりでしょ。てか陰之助本当にそろそろ留年なんじゃないか…?
そんなこんなでそろそろ1限が始まるまであと20分。大体これ位の時間に奴はやってくる。
「そう、それは調所慧馬」
「ちょっと仁、何言ってるのバカなの?」
「そんなクールなのも慧馬だよねえ。うん、今日もごちそうさまです」
「だからバカになる薬でも飲んだの?それとも元々?」
「いやー慧馬なら大丈夫かなって」
「まあもう慣れたけどさ。仁はバカだって」
散々バカだと言い放った奴、もとい慧馬はそのまま自分の席につくと鞄からとても分厚い本?を出して読み始めた。…ん?それ
「広辞苑じゃん。まえ漢和辞典読んでなかったっけ?」
「それは一昨日読み終わった。昨日整理が終わったから今日から広辞苑。中々面白いよ。知らない単語がけっこうあるし。仁も読む?」
「いやいや結構です」
そう。慧馬の愛読書は辞書。普通の小説とか読まないのって聞いたことあるけど、「それでなんの知識が得られるの」だって。そんな貪欲に新しい知識を求める慧馬は授業の内容もすべて知識として頭に入っているらしく、教科書を買わないことを唯一許可されているらしいっていう真しとやかな噂が流れている。でも、それは多分本当だ。その証拠に今まで僕は慧馬が授業中に教科書を机に出している所を見たこともなければ、教科書がないと先生に怒られているところも見たことが無いのだ。
そんな慧馬は僕がこの学校に入学して初めて出来た友達なのだが、この話はまた後にしておこう。だって僕のクラスメイトは面白くて、まだ半分も紹介できていないもんね。
ということで、窓際に固まっている二人を見てみよう。といっても彼らが何かを喋っているとか、そういうことではない。じゃああの二人は仲が悪いかって?そんなことはない。なんで喋っていないかは一人が机に突っ伏して寝ていて、もう一人が黙々と何か作業をしているこの光景を見てもらえばよく分かるだろう。実は、彼らは僕が教室に入ってきたときにはもういたんだけど、何かやってる人とか、寝てる人に話しかけるのってちょっとやりにくくない?だからほかの人に話しかけてたんだけど、もう始業まであと10分切ったしそろそろいいかな。
「幸太おはよう。今日は何いじってんの?」
僕が話しかけたのは増根幸太。さっき言った二人のうちの作業してる方だ。さすがの僕でも寝てる人に突撃するのは悪いって分かってる。
「あぁ仁、おはよ。これはね、タカラッチさ。タカラッチの画面って結構粗いだろ?」
「そうだね。あれって僕たちが小学生くらいに流行ったやつじゃん」
「そうそう、そうなんだ。だから俺はその画質を良くしたくてだな、こうして触っているわけだ。それで、昨日の夜から始めたんだが、ここがこうで、あそこがあれで……」
「…ごめん、ちょっと難しいわ。ところで波多君は起こした方がいいの?」
「起こす?…あぁもうあと5分か確かにそろそろ起こすか。……おい、おい!波多!授業始まるぞ」
「…ん、じゅぎょぅ?ふわぁ~おはよう」
「おはよう波多君」
「おはよ~仁君、幸君もありがと~」
「ああ、別に気にしなくていい。隣の席が俺だっただけだからな。今日も良く入眠してた」
「ん~、ここすごい暖かいし、朝から快適だからねえ。本当ボクここ来てよかったあ」
そして幸太が起こしたのが波多君。波多悟朗だ。この波多君、席が窓側だからか大体いつみても寝てるやつだ。起きてるのって授業中か、お昼食べてるときくらいじゃない?あ、でも授業中も天気がいいと気持ちよさそうに寝てるの見えるから100%起きてるのって本当にお昼の時だけかも。
もうすぐ授業始まるんだけど、来てないヤツが2人。…あ、なんか声と足音が聞こえてきた。あいつら、今日はギリギリ間に合うかな?
「はあ、っはあ…、間に合ったか?」
「まだ先生来てない。セーフ!」
「2人とも今日もギリギリだったね。おはよう」
「「おはよ、仁」」
今時間ぎりぎりで教室に来たのが棚方蹴斗と梧泉匠翔だ。2人とも部活に所属していて朝練があるから、大体教室に来るのがこの時間になってしまうらしい。この教室が学校中で一番部室棟から近いのに、ギリギリになってしまうのなら、他の人は毎回遅刻なのかという僕のささやかな疑問は聞いたことはない。あと、2人は違う部活なのに教室に来るのがいつも同時なのも疑問だ。それについては前に聞いたことがあって、
「それは、蹴斗が、俺が教室に入るときにいつもいるから」
「ちがっ、匠翔のとこと朝練の終わる時間が一緒位なんだよ!たまたまだって、たまたま!」
などと供述しており、本当の所はともかく、僕らのクラスではこの2人はセットで扱われることが多い。よく先生にも『部活組』とか、『部活バカ』とか言われてる。実際朝に関してはあの2人が一緒にクラスに入ってこない日はほぼない。
あ、先生が入ってきた。今日の出席は5人。うん、いつも通りだね。
こんな感じで僕らの朝は過ぎていく。少しは分かってもらえたかな?…え、朝だけじゃ全然分かんないって?じゃあ、今日一日見てって欲しいな。そうすれば、この学園についてもう少し分かると思うから。じゃあ、授業始まるから。またね。
ありがとうございました!
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次回は7月17日の20時更新を予定しています!
では。