5.抱きつかれる転生ヒロインの暗殺者、蚊帳の外の推し
スランプに陥ってこの後の展開はどうしようか悩みに悩んだ挙句、5話を大幅に変更しました。内容もかなり変わっています。
前の内容を読んでくれた方はごめんなさい(ノД`)
文字数は1000文字ほど短くなりました。
なんだろうか。
もしかして、ネオも私も短剣で戦ったのが珍しいのだろうか。
すると先生がやってきた。
「・・・ネオさんもシャロンさんもいい試合でしたが、魔術も使ってやりましょうね。剣術だけのコースではないんですから」
その一言で静まっていた周りが騒ぎ出す。
「あの二人って短剣使いなんですね。早すぎて見えませんでした」
「そうだね。体術がとても綺麗だった。特に蹴りも軌道がとても美しい。同じところで学んでたのかな。どちらも剣筋が似ていた」
「そこまで見えたんですか。さすがリンスです。
殿下の側近のひとり、侯爵家のジェルドが驚いている。
ジェルドは呼び捨てにするほど殿下と仲が良いらしい。殿下も気にしていない。
幼い頃から一緒にいるのだろう。
「・・・あぁ! すみません。いつもの癖で魔術を使い忘れてしまいました」
「そうだなぁ。普段は短剣だけで手合わせだもんな。魔術はあまり使わないからな」
魔術は暗殺訓練ではほとんど使わない。
魔術に頼らず、短剣と体術だけで相手に勝てるように私たちは訓練するのだ。
それだけでは相手に勝てない、という時に使うのだ。いわゆる、緊急用の攻撃手段である。
ただし、私の場合なら相手の地面を凍らせて転ばせる、ネオならつむじ風を起こして、相手の目や足に向かって放つなど、相手からの攻撃の足止めが目的ならば魔術の使用は許可されている。
「いつも? 普段? 二人は普段から一緒にこうしていたのですか?」
先生が疑問をぶつけてきた。
やばいやばい。いつもの感覚で話してしまった。これ以上、深入りされるのはあまり良くない。気を引き締めないと。これはあくまで潜入調査だ。思った以上に自分でも新しい生活ということに浮かれていたらしい。
私たちは暗殺者を目指す以上、表の世界には立てないのだと覚悟する必要がある。
国家暗殺部隊は国の裏の顔である。そこに所属するということはすなわち、国王ひいては国を裏から支え、忠誠を誓うと言ったも同然なのだ。
犯罪になり得るような酷い待遇や恐怖支配されてるわけでもなく意外とホワイトじゃん。しかも来る依頼をただこなしているだけ。それなのにもらえる報酬はかなり多い。それはおかしい。
以前、そんなことを訴えた重鎮が一人いたらしい。
私たちが依頼の報酬を多くもらっているのには、理由がある。
上級依頼などの腕の立つ相手がターゲットの場合は自分が死ぬ可能性もある。初級依頼でも万が一にも何があるかわからないため、報酬は多い。つまり、キミたちは依頼失敗で死ぬ可能性もあるんだ。だからそうならないよう頑張りなさい、ということだ。私たちのモチベーションを上げるためだろう。報酬を多くあげる代わりに命の危険もある依頼をやってほしい。賄賂と似たようなものだろうか。
少し考えればわかる、すでに国家暗殺部隊を知る者の中では暗黙の了解であるこのことを知らずに訴えたその重鎮は後に国庫横領の罪で、鉄壁の要塞の異名を持つ修道院へ送られた。彼が訴えたそもそもの理由は、国家暗殺者に払う報酬なんてもったいない、報酬を減らせばその分、自分の取り分が増える、などという浅はかな考えからだろう。ちなみにその重鎮は、暗殺ではなく、国家暗殺者が潜入して横領の証拠を押さえてから正当な手段で裁かれた。まあ、この話は二十年以上も前の話なので私たちには関係ない。
「俺とシャロンは赤ちゃんのときに捨てられて孤児院で暮らしていたのですが、俺たちは戦うことが好きで、大きくなってからはよく訪問してくれていた騎士様が自分たちに向いているだろう剣、短剣をくれたんです。
魔術の方もその人に教えてもらっていたのですが、どうも苦手で・・・・。そしたら魔力量が多いことが分かって、せっかくだから学園で学びより鍛えると良いと、その人に紹介状を書いてもらいこの学園に入学することになったんです。だからついこの間まではよく二人で手合わせをしていたんです」
おっと、思考に耽ってしまっていた。ネオの言葉で我に返る。
しかし、危うくボロがでるところだった。そうしたら潜入調査の意味がなくなってしまう。
でもネオが部隊長の用意してくれた仮の身の上話を話してフォローしてくれた。さすがネオ。機転が利く。
「・・・そう、なんですか。辛いことを思い出させてしまってごめんなさい。魔術が苦手ということですが、それはこれから練習すればどうにでもなりますから、頑張りましょう」
「はい」
「あ、もうそろそろ終わりですね。少し早いですが、キリもいいですし休憩にしましょう。休憩が終わったらそれぞれ次の授業に行ってくださいね」
授業は一限50分なのだが、あっという間に終わってしまった。
すると、外が騒がしくなってきた。
「あっ、待ってくださいクリスティーア様! そんなに急がなくてもっ・・・!」
「だめよ! 今すぐに確認しなきゃならないの! 私にとっては大事なことなのだから!」
「ティーア・・・!?」
ティーア?
もしかしてクリスティーアのことか!?
え、なんで悪役令嬢がこっちに来てるわけ!?
「もしもし、シャロンさんはいらっしゃいますの!? もしいるなら急いでこちらに来てちょうだい!」
なんでそんなに急いでるんだ?
しかもゲームの中の印象と違い、なんだかしっくりこない。
ゲームでの彼女はもっと、禍々しく、そして凛と咲く毒薔薇のような雰囲気だった。
今は全く雰囲気が違う。
「ティーア! 何を急いでいるんだ? シャロン嬢という今日から編入してきた生徒ならいまちょうどいるぞ?」
しかもリンス殿下が親しそうに話しかけている。さっきも驚いていたし、婚約者なのか?
でもゲームではそんなシナリオではなかったはずだ。
悪役令嬢クリスティーアは誰の婚約者にもなることなく、エンディングでは、断罪されるわけでもなく一切登場しないのだ。よくわからない設定だと思ったのを今でも覚えている。
「そう! シャロンさんよ! リンス、連れてきてちょうだい!」
こちらも愛称呼び。
・・・なんだかテンションがとても高い人だな。
ついていけず、現実逃避をしていると、殿下が私を連れていくまでもなく、私の目の前までクリスティーア様が来ていた。
「ちょっとこちらにいらして! と、そこの赤髪のあなたも!」
「あ、は、はあ・・・。いいですけど・・・」
ネオも彼女のテンションについていけず、困惑している。
私はもう、なされるがま、あだ。
そして、学園内にあるティールームの個室まで連れてこられた。つまりは貴賓室である。個室以外もある。
ここは高位貴族しか入れないはずなのだが。
「あのすみません。ここに私たちは入れませ・・・ぐっ!?」
最後まで言えなかった。クリスティーアが私の胸に突進してきたからだ。そしてかなりの力で抱きしめられる。
む、胸が潰されて、苦しい・・・ッ
「ど、どうしたんですか急に・・・・」
「・・・・・・」
この状況は一体、なんなのだろうか?
ああ、視界いっぱいに広がる彼女の金髪が眩しい。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
高貴な公爵家の御令嬢を無理やり引き剥がすわけにもいかず、じっとされるがままでいること、数分。
なぜか、ネオは顔を背けている。あれ、うっすらと顔が赤くなっているような・・・・
「ぷはぁッ!」
やっと顔を上げたクリスティーア。
苦しくなかったのか?
「そ、そろそろ俺は戻っていいですかね・・・? 気まずいし・・・」
私の胸に顔を埋めたまま動かないクリスティーアl
どうすればいいかわからず、じっとされるがまま黙っている私。
そして完全に蚊帳の外のネオ。
・・・・そりゃ、気まずいわ。
コンコン
とちょうどその時、ドアがノックされた。
「お嬢様。リンス殿下がお呼びです」
どうやらこの学園専属の使用人が知らせに来てくれたみたいだ。
「そう、わかったわ。ありがとう」
クリスティーア様は一言返事をすると立ち上がった。
「ごめんなさい。もうちょっと話したかったけれど、リンスが呼んでらっしゃるみたいだからこれで失礼するわね!」
それだけ言うとクリスティーア様は嵐のように去っていった。
「なんだろう。本当、嵐みたいな人だったね」
「そうだな」
ネオと二人で頷き合う。
まぁこの後もまた話す機会くらいあるだろう。
ネオが何に赤面したのかは、ご想像にお任せします!
(追記)
もしかしたら、あらすじも大きく変えるかもしれません。
面白い、続きが気になるという方はブクマと評価をつけてくれると嬉しいです!