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1.ヒロインのはずの少女はシナリオから外れる

私は、狩谷希美だ。

普通のOLをしていた。


なぜ過去形かというと、私はすでに死んでしまったからだ。


そんな私には、ハマっているゲームがある。


それは、「愛の祝福をあなたに 〜 bless you with my kiss〜」という乙女ゲームだ。

この題名は、ゲームの最後で見られる、自分の選んだルートのヒーローへヒロインが愛のキスで祝福を送るというスチルから付いた名前だろう。


しかし、徹夜でプレイしたため、朝会社へ向かう途中、道路で向かってくる車に気付かず、撥ねられ呆気なく死亡。


そして気が付くと、ハマっていた乙女ゲームのヒロインの赤ちゃん時代に転生していたのだ。



乙女ゲームの大まかな内容は、ヒロイン、シャロンが12歳でサンディル王国の侯爵家に養子として引き取られ、15歳で学園に入学するところから始まる。そして、5人の攻略対象者と共に絆を深めていく。

それぞれのルートには、悪役令嬢、クリスティーアが存在する。公爵令嬢である彼女は、ポッと出の小娘に男が群がるのが許せず、ヒロインへ面と向かって嫌味を言う。

最終回では、彼ら攻略対象者は18歳で勇者、騎士、魔術師、神官、ヒーラーとして、学園生活最後の年に復活した魔王をヒロインと共に討伐しに行く。

そして魔王討伐をクリアすると、サンディル王国に学園に戻ってきて、6人の帰還を祝うスチルが出てくるのだ。

ここで注意しなければならないのは、ヒロインが、攻略対象5人が魔王討伐に苦戦しているときにただ守られているだけだということだ。ヒロインは、攻略対象の一人であるヒーラーが張った結界によって守られるのだ。

それに比べて悪役令嬢は、動機は不純だが嫌味で正々堂々と自分の意見を主張する。

私は、元から正々堂々としている方が好みだったので、この悪役令嬢のことが大好きだったのだ。つまりは推しである。逆に、守られるだけで自分からは何も行動しない、それが当たり前だと思っているヒロインのことが大嫌いだった。



私は、その嫌いなヒロインに転生してしまったのだ。


でも私は絶対、攻略対象とは関わりたくない。何より、守られるだけは嫌なのだ。


そうすると私、この現実世界でのヒロインは、だいぶ本来のヒロイン像とはかけ離れていることになる。でも、それでいいのだ。


そして侯爵家の養子なんてものは、それこそもっての外なのでそれも避けたい。

これだけは何としてでも避けなければ。

そうしないと、完全には乙女ゲームのシナリオからは脱却できないからだ。




私は悪役令嬢推しだが、もう一人推しがいる。

それは、攻略対象の隠しキャラである暗殺者、ネオだ。

彼は、ただただ容姿が好みドンピシャであったため、私の推しになった。

ただ彼は、本編ではなく番外編でしか攻略が出来なかった。番外編のストーリーは、本編で魔王を討伐しクリアすれば見れるようになる。

本編をクリアし、番外編で、彼の一つに縛った燃えるような赤髪と翡翠のような鋭い緑の瞳を見るたびに身悶えたものである。

また、彼の戦闘シーンはとてもカッコいいのだ。なので、私は暗殺者に憧れていた。

しかしそれを前世で友達に話すと、


「えーっ! 希美、暗殺者に憧れてるの!? 暗殺者って人を殺すんだよ? 希美ってサイコパスだったの?でもわたしは、カッコいい男の人に守られるヒロインに憧れるなぁ!」


と、言われてしまった。別にサイコパスなんかではないんだが。


・・・・・まぁ、ゲームについての説明はここまでにして。


これからのことについて考えなければならない。


だが私はまだ0歳である。

考えることはできるが、行動することはできない。


そこで、私は今生での身の上について改めて考えてみる。

思い返してみれば、ヒロインがゲームに登場するのは侯爵家に引き取られる12歳からで、ゲーム中でもヒロインの身の上については、ヒロインが8歳の時に母が亡くなり、孤児院で生活しているところを父だと名乗る男が来て引き取られたという事しか語られていないのだ。


しかし、母はまだ死んでおらず、私のことも慈しんでくれている。

確か死因は、お針子の仕事に行く途中に魔物に襲われてしまうんだったか。


通常、魔物は人間の街には出ないはずなのだが、それが強制力というものである。


なのでまず、8歳になる前に私が働きに出て、母にお針子の仕事を辞めさせようと考えた。

では、働きに出るといってもどこで働けばいいのか。


まだ0歳でそういうことを考えるのは早いという人もいると思うが、子どもが赤ちゃんから幼児に、幼児から少年・少女へと成長するのは案外早いものなのだ。

そもそも普通の0歳児は物事を考えることなどできないのだが、あいにく私は日本という異世界からの転生者であり、向こうの世界では立派な成人女性だったので意識もあり、すでに大人の思考回路を持っているのである。



話を戻すと、私は5歳になったら将来暗殺者になるために、推しのネオ様も所属している国家暗殺部隊の本部へ、いっちょ出掛けようと思う。だが出掛けようにも、5歳児の足では限界がある。


ここは王都の外れにある貧民街で、王城の近くにある暗殺部隊本部までは大人の足でも丸一日はかかる。

そんな遠距離を5歳児が徒歩で行ったらどうなるか。到着するずっと前に力尽きてしまうだろう。


しかしこの世界には、電車やバスといったものの代わりに馬車があるのだ。

平民用の乗合馬車ならば、15km銀貨一枚である。

その馬車でなら、目的地まで銀貨一枚ちょうどで行けるだろう。

銀貨一枚ぐらいならば、母の稼ぎでおそらく10枚は貯金してあるので使っても大丈夫だ。


もし行くのならば、暗殺部隊の本部へ行くとは母には言えない。下手に暗殺などという言葉を使って怪しまれたら困るからだ。通常、5歳でそんな言葉を知っている子どもはいない。

なので母に話すとしたら、親孝行のためお針子になって早くお金を稼ぐために、王都の中心にお針子見習いとして出稼ぎに行く、と説明するしかない。

母に嘘を吐くことは正直心苦しいが、母を死なせないためにはしょうがないのだ。





ーーーーーー


そうして、年中考えごとばかりしているうちに5年が経った。


ついに、暗殺部隊本部へ向かう日が来た。


「じゃあおかあさん、いってきます。わたしがかせげるようになったらしおくりをするから、そうしたらもう、おかあさんはしごとをやめてね。おかあさんがはたらきすぎでたおれたらわたし、とてもかなしいから・・・」


我ながら迫真の演技だと思う。伊達に幼児を4年間演じてはいないのだ。


「そう・・・そうね。分かったわ。・・・・本当に気を付けるのよ? あなたは本当に美人に育ったのだから」


そう。そうなのだ。


この世界の舞台であるあの乙女ゲームはなぜか、ヒロインが妖艶な美女で、悪役令嬢が庇護欲唆る可愛らしい美少女という設定になっているのだ。


最初スチルを見た時はおかしいだろ、と当然ながらに思った。

しかし、そういうおかしな設定もずっとプレイしていると気にならなくなるものなのだ。


そして、現在の私の容姿は、というと。


まだ5歳ながら将来有望なことが分かる、しっとりとした濡羽色の髪に血のような深紅の瞳をしている。


正直言って自分でも驚いている。


自画自賛ではないが、こんな美少女ならたしかに襲われてもしょうがないと思うくらいの、本当に美しい容姿をしているのだ。


だから母の言うことは、もっともである。



と、話が逸れてしまった。


私は母と一時のお別れをして、我が家から外へと出る。

しばらくこの家ともお別れかと思うと、なんだか寂しさを感じた。


本当に、いつまた会えるのかは分からない。


だが私は母を死なせないために、そして私自身の未来のために、この家を一旦離れる。


「偶には手紙も送ってちょうだいね。・・・・じゃあ行ってらっしゃい。本当に気を付けて」

「わかった。ひとつきにいちどはてがみをおくるようにするね。・・・いってきます。おかあさんもからだにはきをつけてね」

「ありがとう。ほら、もう行きなさい! お母さんに親孝行、してくれるのでしょ?」

「はい! こんどこそ、いってきます!」


歩いていって一旦振り返ると、母の姿はほとんど見えなくなっていた。

手を振ってみたら、微にだが、母の振り返してくれた手が見えた気がした。


乗合馬車に途中で乗り、座り心地は悪いが、ドアから吹き込んでくる風が気持ち良い。


そして揺られること、約5時間。

馬車を降りて、少し歩く。



今、私の目の前には、巨大な暗殺部隊本部の建物がある。



「・・・すみません! わたしはあんさつしゃになるために、ここにきました。ここで、はたらかせてください。どんなことでもします。とにかくわたしを、あんさつしゃにそだてあげてくださいっ!!」



すると、中から眼光の鋭い赤髪の少年が出てきた。


その瞬間。


時間が止まったように感じ、目の前の少年しか目に入らなくなった。


「なんだ? まだ、ちびっ子じゃないか。・・・・で、どうしたんだ?」




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