迷い人
「しずか...」
山頂に向かう自動リフトに乗った最初の感想はそんなつまらないものだった。
もちろん後ろのリフト乗り場にはスキーかスノーボードを装着して順番待ち中の人達がひしめき合っている。加えてはるか下の方では時折雪をかき分けて他の来場者が楽しそうに滑っている。この施設は北海道の中でも有数のスキー場で、幾畝もの山を含む広大な土地をリゾートとして開場している。今は動いていないようだが、夏の間は隣のエリアも開放して遊園地としても営業しているそうだ。
はるか上の降車場まで続く支柱の数々はさながら整列した巨神兵だった。その巨像どうしを緩くたわませたワイヤーがつなぎ合わせ、リフト達はそのワイヤーを伝って雪にかすんだ山頂に消えていく。そしてゆくゆくはぼくもそのうちのひとつになる。
眼下に広がる白銀の大地はたしかに綺麗だが恐ろしくもあった。この恐怖は高さによるものではないということをぼくは感覚的に理解してた。目を凝らすと誰かが歩いたらしい足跡が消えかかっている様子が見えた。
きっと明日もここを通るだろうが同じ景色を見ることはもう二度とないだろう。降車場につき、リフトを降りてしまえば自分の足とスキー板だけが移動手段だ。途中で分岐点があるとはいえ、そこからは麓まで一方通行の滑走路になっている。
次は上手く滑れるだろうか...
スキー板をハメっぱなしの両足がリフトの座席部分につかえてずっしりと重たい。しかし心はとても踊っている。今はこの恐怖と冷たささえも心地がいい。
修学旅行で北海道スキーに行ったころの記憶を辿って書きました。スキー研修コースは複数あるコースのうちの一つだったのにも関わらず70人を超える大所帯となりました。十名以上のインストラクターさんや何人もの引率教員の方々に支えて頂きましたが、この書き物にはぼく以外の登場人物は出てきません。滑走と滑走の間にあるリフト乗降時の虚無的な時間を切り取ったからです。なぜよりによってこの場面を描き出してしまったのか自分でもわかりませんが自己満足なのでご容赦ください。