表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

プロローグ

 その時、咆哮と共に竜の頭の一つが青白く光るのを見た。

 閃光と共に襲ってきた風圧で立っているのもやっとな状態、それでいてどこか冷静な部分があった俺はブリーフィングの時にユウ(アイツ)が言った言葉を思い出す。


 「今回貴方に戦ってもらう怪獣、九頭竜の主な脅威は九つの頭からそれぞれ放たれる線上の光です。事前に収集したデータに拠りますとこの光は反物質でできた一種の(ぜつ)のような器官であると考えられており、触れた獲物を対消滅させ、生じた膨大なエネルギーを吸収します」


 改めてアイツに例えを交えて教えてもらうまで理解に苦しんだが……。要するにあの光線に触れたものは何であろうと消えてしまうもの、らしい。

 ともすると俺はこのまま消えてしまうのだろうか。今まで幾度となく怪獣を封じてきた俺に言わせれば封印とは怪獣にとっての消滅、即ち死だ。怪獣に人間と同じような意識があるとするならば死を前にして何を思ったのか。そもそも怪獣が何のために顕れ、街を破壊し殺戮の限りを尽くすのかすら分かっていない俺たちにそれを知る術はないのだが。


 風圧が始まって何秒経ったのだろう。さっきから自分を取り巻く時間がとてもゆったりとした流れに感じる。データリンクの副作用でないとするならこれが世にいう走馬灯なのか。

 暴風は止まない。それどころか益々強くなるばかりだ。狩衣の筋力向上機能のおかげで何とか踏ん張れてはいるがあまりの暴風に過呼吸になる。

 息ができない。


 「貴方のそれは風恐怖症の典型的な症状です」


 アイツならあの時と同じくそういうのだろう。


 「兄もそうでしたから」


 五年前の怪獣「弥五郎」が吹き飛ばしたビルの中でアイツの兄は死んだ。俺の親父も死んだ。俺はこの国で唯一の陰陽師となった。

 あの日を境に俺は一層だらしがなくなった。今思い返すと親父が死んで自暴自棄になっていた。どうしてあの時親父を助ける事が出来なかったんだ。「あの状況ではどうしようもなかった。仕方ない」どこか冷静な自分は言った。でも、もう一人の()()()()()()()()自分はそう居直る事はできなかった。親父と二人でなら、もっと早く封印出来て、被害も少なくてアイツの兄も死なずに済んだかもしれないのに。


 風圧が少し治まったように感じてふと我に返る。幸いにも俺はその光線を喰らってないようだった。

 そりゃそうだ。俺が死んだらこの街はどうなる。近所のコンビニの店長は? そしてアイツは……?

 まてよ。ユウはどうなったんだ。確か俺の真後ろのビルの中で走査の準備に移っていた筈だ。

 振り返るとビルの腹には大きな穴が開いていてひどくグロテスクな鉄筋と配線と焦げ跡が内臓のように垂れていた。


 「ユウ!!」


 俺は九頭竜の事など忘れてビルに走った。

 もう見殺しにはできない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ