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超短編

おにぎりころりん、ありがとう

 雲ひとつない晴れ空。爽やかな初夏の風。瑞々しい新緑の香り。

 今日は転校して初めての遠足の日だ。目の前にはなだらかな山道が伸びている。

 

 今年の遠足は山登り。標高二百メートルほどの低い山の頂上まで登り、そこでお弁当を食べるらしい。

 周囲が楽しそうにする中、私はある決意を持ってこの遠足に臨んでいた。


 それは、仲良しの友達を作ること。


 何せ新しい小学校に来てから二週間しか経っておらず、まだクラスに馴染めていないのだ。友達作りのイメトレをしつつ、一歩一歩山道を踏みしめる。


 頂上に到着してお弁当の時間になると、あちこちで仲良しグループが固まってレジャーシートを広げ出した。私も、親切にも誘ってくれた加奈ちゃんたち三人グループの側にいそいそとシートを広げる。


 加奈ちゃんたちがお弁当を見せ合ってはしゃいでいる横で、私もそっとお弁当を出す。卵焼きや唐揚げなど定番のおかずに、アルミホイルに包まれた大きなおにぎりが一つ。母の握るおにぎりはいつも巨大だ。その中に鮭や昆布など数種類の具が入っている。


「いただきます」


 加奈ちゃんたちのお喋りを聞きながら、おにぎりを一口食べようとしたその時。手が滑って、おにぎりを落っことしてしまった。丸っこい形をしたおにぎりは斜面をころころと転がって、下にあった溝へぼとりと落ちた。


 私は呆然とした。

 主食がなくなってしまった。

 せめて二個あったらよかったのに。

 そもそも、おにぎりを穴に落っことすって昔話じゃないんだから……。


 私は内心焦りながらも平静を装い斜面を下りた。

 落としたおにぎりのお礼にご馳走とお土産でもてなしてくれるというネズミたちと出会うなんてことはなく、ただただ巨大なおにぎりが土にまみれて転がっているだけだった。

 おにぎりを回収し、悲しい気持ちでシートに戻ると、加奈ちゃんたちが心配そうな顔で声を掛けてくれた。


「大丈夫? 私たちのを分けてあげるよ」

「……ありがとう!」


 加奈ちゃんたちは、自分のごはんを少しずつ分けてくれた。それから「昔話みたいだね!」などと笑って楽しくお喋りした。お弁当を食べ終わる頃には、四人とも犬を飼っていることが分かって、すっかり仲良くなった。


 やった、お友達ができた!

 おにぎりには申し訳なかったけど、きっとこのために尊い犠牲となってくれたのだ。

 ありがとう、おにぎり。君の勇姿は一生忘れないよ……!


 私は心の中で「ごちそうさま」と手を合わせた。

なろうラジオ大賞2への応募作品です。

テーマは「おにぎり」。

実話を元に書いたお話です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] じ……実話、なの? おにぎりがッ! 唯一のおにぎりが……ッッ ――土まみれ(涙) あまりのことに呆然としてしまいました(゜□゜lll) でも加奈ちゃんたちとお友達になれて良かった! ほっ…
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