4-24 ヘイテン戦後
「ふぅ……きつかった!」
「ウィー!」
ダンは腰に手を当て、伸びをして纏わっていた白いオーラを解除した。
すると、ダンの隣にウィーが出現し、ウィーも前足をぐーっと伸ばしてお尻を突き上げ背中を反らす。
ダン達の目の前には仰向けになったヘイテンの姿が。
口から泡を吹き、白目を向いて気絶していた。しばらくは起きることはないだろう。
「倒したぞー。レン」
ダンがそうレンに向かって笑みを向けているのを見て、レンも安堵の息を漏らした。
だが、レンははっと我に返ったように徐にスリングショットを構えると、
「――イダッ!!」
ダンの額目掛けて一発当てる。
「なにするんだよ? 命の恩人に向かって」
額に手を添えながら、眉を顰めて近づいてくるダン。
だが、レンは悪びれる様子もなく、
「うん。それはありがとう。でもね――」
「あん?」
「作戦の指示が雑なんだよ!」
とダンに怒鳴る。
それはダンがリオトとレンをヘイテンの砲撃から守った時。
『レン、ヘイテンが構えたら4発撃ってくれ!』
たったそれだけ。
たったそれだけをレンに指示して『作戦開始』と言ってしまったのだ。
それでヘイテンを倒せたのだから結果オーライなのだが、もう少し説明が欲しかった。
「剣の兄ちゃんも何も聞かずにアジトの中に行っちゃうしさ」
リオトもダンの雑な作戦内容を聞くと、顎に指を乗せ『なるほど』と呟く。
意図を理解している素振りだから、レンはダンの作戦の詳細をリオトに聞こうとしたが、
『じゃあ俺はアジトに向かう』
と一言。
ダンの作戦内容で困惑している中、リオトもそんなこと言うもんだから『へっ!?』とレンは驚嘆する。
『レンがここにいるということはステラは別行動を取っているんだろう? なら誰かがステラのフォローに行った方が良い。ここはダンとレンだけで充分そうだ』
『そうだな。じゃあ――作戦開始だ!』
ダンよりかは優しいリオトはちゃんとレンに説明をしてくれたが、どこにステラがいるのかは聞かず。
ダンの掛け声と同時にアジトの中に侵入してしまった。
結局わけも分からずヘイテンの反芻鉄棍にスリングショットを放つ役目を任されるのみ。
レンが不貞腐れているのも無理はない。
「あいつのギフト、4発目が必ず高威力だったんだよ」
なるほど。
思い出すと、確かにそうだったかもしれない。
レンを追いかけてきた時も、ダンが検証している時も、4発目が必ずクレータが出来る程の衝撃だった。
そして高威力の一撃を一発で放とうとした時は3発軽く地面に当てていたような気がする。
だから、スリングショットの弾を撃った時、4発目で暴発したのか。
その暴発がダンの狙い。ヘイテンを困惑させることで場を支配したかったのだろう。
と、ダンの説明に納得しかけたが、
(――ん?)
すぐに我に返り、
「今更説明されても遅いよ!」
「イダッ!」
とダンに向かって突っ込みの代わりにとスリングショットをお見舞いする。
「それに――」
痛がっているダンをよそにレンは腕組みをしてジト目で見ると、
「いつあたしが兄ちゃんの仲間になったって?」
「へ?」
レンの言葉にダンは目を丸くする。
それは最初にヘイテンに向かって言ったダンの言葉。
『そいつは俺たちの仲間なんだ』
その言葉はレンにとってはかなり不本意な言葉だった。
しかめっ面のままダンを睨みつけると、
「あたしはたまたま行く方向が一緒のただの同行人だから!」
勘違いしないでよ、とレンはぷいっとそっぽを向く。
そんなレンの様子をぼーっと見ていたダンではあったが、
「ハハ」
と急に吹き出すと、
「そうかそうか。じゃあそれまでは仲間だな!」
「ウィー!」
「ちがっ! 兄ちゃん達、喧嘩売ってんの!?」
ダンもウィーも意に返さず。レンの抵抗は笑って流されてしまう。
「それより、アジトの中で何があったんだ?」
しかも大して重要なことでもない風にすぐに話題を変えてくるもんだ。
これ以上反論しても効果がない……。
レンは諦めたように「はあ……」とため息をすると、
「そのことなんだけどさ――」
アジトの中であった事情をダンとウィーに伝えた。
「――なるほどね」
ダンは考えるように腕組みをする。
「つまりステラはレンが止めるのを聞かず1人で先に進んじまったのか」
「うん。そうなんだ。奥に……どんな危険があるのかもわからないのに――」
「全く勝手な奴だぜ」
「兄ちゃんが言うな!」
「イダッ!」
そう鼻息をもらすダンにレンはスリングショットで突っ込む。
「――とにかく姉ちゃん達を追いかけないと」
「あぁ。リオトはともかく、ステラは心配だ」
いてて、と額を摩るダンの言葉にレンは真剣に首肯するが、
「あれ?」
と何かに気付いた様子で寝そべっている野盗達を眺めた。
「そういえば、リーダーっぽい人は?」
「へ?」
「ウィー?」
レンにそう聞かれ、ダンとウィーも目を丸くしながら辺りを見渡すと――確かにいない。
昨日やアジトの中で、仲間に叫んでいた語尾がカタコトの奴の姿が見えない。
「そういえば、ここにはいないな……」
「ちょっとやばいかも」
その状況を把握して、ダンとレンは顔を見合わせる。
「急ごう!」
「あ、待って!」
ダンは叫び、アジトへ向かおうとしたところで、レンが急に止めるもんだから、思わずコケた。
「なんだよ!? レン」
と振り向いて抗議しようとすると、レンは右目を抑え何か考える素振り。
そして、すぐに――考えがまとまったのか――ダンの方を見ると、こう宣言した。
「あたしに考えがある!」