4-22 好奇心馬鹿の検証
「おい、デカブツ!」
ギロッと睨みつけるヘイテンに怯まず、ダンはそのまま突進し、ある所で跳躍する。
そして、そのままヘイテンの顔を殴りかかろうとするが、
「――――ッ!!」
ヘイテンは棍棒を乱暴にダンの拳にぶつけ、攻撃は防がれる。
だが、ダンはそれを予測していたかのようにニッと口角を吊り上げると、
「さっきよりも弱いじゃん。もしかして、もう力尽きたのか?」
「あぁ?」
「案外弱いんだな」
「――――!!」
ヘイテンの顔は更に歪み、棍棒を強引に振り切った。
ダンはそれを受け流しふわりと近くに着地する。
「さんざんコケにしやがってぇ……!」
寝起きざまにレンの煽り。そしてちょろちょろと逃げられて、ようやくやり返そうとしたところで、この男に防がれた。
そのダンを潰せるチャンスがやってきたと思えば、また別の男が邪魔しやがる。
そして今の煽りと来たもんだ。
ヘイテンの怒りは臨界点を突破していた。
「もう許さねぇ。お前ら全員、ぶっ潰してやるぅ!!」
そう怒鳴ると、ヘイテンは反芻鉄棍を持ち上げ、そのまま振り下ろす。
「さっきよりも早い!」
レンが叫んだ。
身体が完全に覚醒したのか、怒りでリミッターが外れたのか、あるいはそのどちらもか。
棍棒の振る速度は速く。ともすれば、地面にぶつかる運動量は当然ながら上昇する。
『ギアラ』
激しい衝撃音と共に大量の破片が散乱する。
その破片は、もちろん、リオトやレンがいる方まで。
「下がって、レン!」
1歩、前進。リオトはレンを守るように剣を構えると、高速で飛翔する破片を丁寧に撃ち落とす。
破片のスピードに負けず劣らずの剣捌き。
金属音が鳴るのと同時にリオトの前には岩や石がボトボトと力なく落ちていった。
そうして降りかかる破片を全て払ったおかげで、リオトはもちろん後ろで頭を抱え屈んでいたレンにもダメージを負うことはなかった。
「た、助かったよ……剣の兄ちゃん……」
「無事ならよかった。――ダンは?」
「兄ちゃんも無事みたいだよ」
ダンは――今度は破片を受け止めることはしなかった。
わざわざ二度も喰らってやるつもりはない、と言わんばかりに、棍棒が地面に叩きつけられる直前にはその場から離れ、ヘイテンの後ろに回り込んでいた。
それでもある程度は破片が飛んでくるが、持ち前のスピードと動体視力を活かして、全て避けると、
「これでも喰らえ!」
と隙が出来たヘイテンの背中を蹴る。
「何しやがる――ッ!」
だが体重差があるからか、ヘイテンの身体はそんなには動かず、怯まない。
攻撃があった方向にグルンと身体を回転させ、棍棒でダンを薙ぎ払おうとする。
『ルーメン』
――ガキンッ!!
今度は受け止める。二の腕にオーラを集中させ防御力を上げていた。
吹っ飛ぶことも怯むこともない。
その事実にダンの口角は自然と上がる。
「検証1つ目」
「何、ぼそぼそ言ってやがるぅ!」
ヘイテンは受け止められた棍棒をもう一度振り上げると――、
「……消えた?」
目の前にいるはずのダンがいない。
「ここだ」
声がする方を向くと、大分遠いところに奴はいた。
いつの間にか手にしていた石を確認するように軽く投げ、キャッチすると同時に大きく振りかぶって、
「検ッ証ッ! 2つ目!」
とヘイテンに向かって投球する。
スピードは思ったよりも速くなく、だけど避けるには大変という絶妙な力加減。
「ならば、打ち返すまで」
ヘイテンは棍棒を両手で持ち構えると、タイミングを合わせてスイング。
『ハチノス』
振り切ると、石はダンの頭上を越え遥か彼方へ。
振り切った勢いでリオト達がいるところまで突風が吹いた。
そしてダンはまた姿を消す。
「ふざけやがって!! どこ行った!?」
「ここだ」
「――――!!」
反射的に声がする方に棍棒を振るが、空振り。
だが、それによりチャンスが巡ってくる。
ダンは避けるため軽く跳躍した。つまり空中で身動きが取れない状態だ。
いくら鈍くても、それを見逃すヘイテンではない。
すぐに棍棒を構え直し、地面に叩きつけるように振り下ろす。
『センマイ』
ダンは腕を十字に組み、ガードする。
棍棒がぶつかり軽く後ろに吹っ飛ぶが、怯まない程度。
「検証3つ目」
その事実にニヤリとほくそ笑むが、
「あめぇぞ」
ヘイテンもまた不気味に口角を歪ませていた。
ダンを殴った棍棒の勢いを止めることなくそのまま地面へ。
『ギアラ』
強力な一撃がまた繰り出された。
地面はクレーター状に抉り出され、破片がまた飛来する。
「――――!?」
だが、今回はリオト達の下まで到来することはなかった。
再度、撃ち落とそうと剣を構えていたリオトの更に一歩手前で、破片は白いオーラに遮られた。
――ダンだ。
「検証完了」
一言そう呟くと、オーラをバリア状に展開したまま、後ろを振り向いて、リオトとレンに不敵な笑みを見せる。
「あのデカブツを倒すぞ」