4-21 好奇心馬鹿の癖
「喰らえぇ! ――『ギアラ』!!」
「――兄ちゃん!!」
大きな衝撃。リオトとレンの下まで突風が吹く。
飛ばされそうになるのをレンはリオトの後ろに隠れ防ぎ、リオトも腕で顔をガードする。
「――どうなった?」
リオトは風が止むのを待ち、砂埃が舞っている前方を見ると、白い光が大きく輝いていた。
ウィーのオーラだ。
球状に展開されたオーラは内側に岩や石などの破片を受け止めていた。
だが、その中心。ダンはというと――
「――――ッ!!」
ヘイテンの間に張っていたバリアは砕かれ、十字に組んでいた腕は弾かれていた。
更に衝撃を受け止めきれずに後ろに仰け反っていた。
そのダンの怯みが原因なのか、展開していたオーラは消え、破片はその場に音を立てて落ちた。
攻撃をもろに食らわせたことを実感したヘイテンは「へへっ……」と口角を不気味に上げると、
「もう一発喰らえぇ!! 『ルー……」
と棍棒を再び高らかに上げる。
――その一瞬の隙を彼らは見逃さない。
「――イダッ!!」
棍棒が高らかに上がっている、ということは腕は上がりきっていて、人間の弱点である正中線ががら空きであるということ。
ヘイテンの額に覚えのある痛みが走り、悲鳴を上げる。レンのスリングショットの玉が跳ね返り、空に浮かぶ。
その影響で棍棒が後ろまで振り切ってしまい、ヘイテンの身体は更に仰け反ってしまう。
瞬間、リオトは跳躍をすると、剣を抜刀。
後ろまで振り切った棍棒を剣で更に下に押した。
「う、うお!?」
ヘイテンの棍棒の重さに加え、リオトによる押しもあり、ただでさえバランスを崩していたヘイテンの身体は更に後ろへ。
「う、動けねぇ……!」
棍棒は地面に突き刺し、ヘイテンの身体は――棍棒も合わせて――ブリッジした姿勢になってしまった。
棍棒を離せば、そのまま仰向けに転んでしまう。
そんな状態になってしまい、巨漢のヘイテンでは体勢を立て直すにも一苦労する。
一時動けなくなったことを確認して、リオトはダンを抱えると、その場を離れた。
「大丈夫か? ダン?」
元の位置に戻ったリオトは安否を確認すると、
「あぁ、なんとかな……助かったよ、リオト、レン……」
いてて……、とダンは痛そうに両腕を振りふらふらと力なく立ち上がる。
「ウィーも大丈夫か?」
『……ウィー……』
オーラ化しているウィーもなんとか無事なようだ。
その様子にレンはほっと息を吐くが、一連のダンの行動を思い出し、いやいや、と首を振ると
「兄ちゃん、どうして戻っちゃったんだよ!?」
とダンに問い詰めた。
ダンが纏っているオーラ。あれは纏う以外にもさっき見せたようにバリア型に展開することが出来る。
ダンのスピードならヘイテンの攻撃は避けられたし――実際、レンをリオトの所へ連れてくる程の余裕はあった。
わざわざ戻らなくても、その場でバリアを展開すれば破片だけを防げたしよかったんじゃないか、というのがレンの言い分だ。
だが、未だ腕を揉んでいるダンはレンの呼びかけに「ん~?」と反応すると、衝撃的な発言をする。
「あいつの攻撃力に興味があって」
「「……え?」」
レンとリオトの目が点となる。
「つまり……どういうことなんだ、ダン?」
「あいつのギフトの威力、凄まじかったじゃん。だからどんなもんかなぁって」
まさか俺たちのガードが崩されるなんてな! と悪びれもせず――むしろ楽しそうにそんなことを言う。
つまり、ダンはヘイテンの反芻鉄棍の威力が知りたくてわざわざ攻撃を受けたというのだ。
弁明をしておくと、ダンは攻撃を受けて悦に浸る変態というわけではない。
ヘイテンのギフトの能力。純粋にそれが知りたかっただけなのだ。
ダンの行動原理は変わらない。ジームの出店をあちこち見てまわったのとヘイテンの攻撃を受けたのは、ダンにとってはどちらも本質的には同じ。
ダンの好奇心は天井知らずだ。――まぁそれも一種の変態と言えるが。
「はぁ……兄ちゃんの好奇心馬鹿……」
その度を越した好奇心にレンは呆れ返る。
今回は無事だったが、そんな行動をしていたら、命がいくつあっても足りない。
だが、得るものもあったらしい。
「まぁ、でもだいたいあいつの攻撃の仕組みはわかったぜ」
「え?」
「本当か?」
レンとリオトは目を見開きダンに聞き返すと、ダンは身体の調子を確かめるように柔軟をしつつ、
「まだ仮説の段階だけどな」
と体勢を立て直しているヘイテンを見ていた。
ヘイテンの顔は真っ赤に染まり、先ほどよりも鼻息が荒い。
早くなんとかしないと、とレンは慌てた様子でダンを見る。
「仕組みっていったい何なのさ?」
「それは――検証が終わったら教える! ――――」
「あ、ちょっと兄ちゃん!?」
だが、ダンはレンの気持ちを知ってか知らずか、怒り狂う大男の下へ再び猛進していっていまった。