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4-11 事件発生

 それは街の中央から聞こえた。


「な、なんだ?」


 音に反応して、ダン達は視線を向けると、この街で1番大きな建物。

 どうやらその建物の最上階にある部屋の窓ガラスが割れた音らしい。

 飛び散った窓ガラスの破片が光で反射し、その中に高級そうな椅子が落ちていく様子が見えた。


「キャアアアア!!」


 重力に従って勢いよく地面に落下したそれに、近くにいた婦人が咄嗟に両手で頭を守り、悲鳴を上げた。


「あれを見ろ!」


 通りがかりの男が指を指した方向を見ると、窓ガラスが割れた所からもくもくと紫の煙が立ち上っていた。


 ――ガタン!


 急にリオトが立ち上がった。

 その表情は真っ青で眉間に皺を寄せ何か心配ごとがあるようで、冷汗を垂らしていた。


「何かあったのか?」


 そんなリオトを見て、未だ状況を理解していないダンは呑気な顔でそう聞いた。


「わからない」


とリオトは首を振る。


「……だがあの建物は街の役所――父さんやコーリが会食に赴いた場所だ」


「そうなのか!?」


 そのリオトの言葉にダンとウィーは目を丸くし、ステラは息を呑み、レンはもう一度煙の出ている建物を見た。

 そして慌てたように振り向いたレンは、


「剣の兄ちゃん! もしかして会食が行われていた場所って――!?」


「あぁ。おそらく煙が出ている場所だ」


 リオトは首を縦に振る。

 そして急いで、テーブルに立て掛けてあった自分の剣を持つと、


「ちょっと様子を見てくる! すまないが、ダン達は俺の家まで戻っていてくれ!」


とテラスの柵を飛び越えて大通りを駆けていく。

 だが、リオトの言うことを素直に聞くダン達ではない。


「――――!?」


 ダン達はすぐに追いかけて、リオトと並走していた。

 それにリオトは「どうして?」と目を丸くしていると、ダンが満面の笑みをリオトに見せた。

 

「まぁ乗り掛かった船だしな! 俺も行くよ」


「兄ちゃんが行くなら、あたし達も行くよ! また暴走する可能性があるからね!」


「それとリオトのお父さんには――直接はお世話になっていないけど――一晩何も言わずに泊めてくれた御恩があるから」


「ウィー!」


 そしてダンに続いてレン、ステラ、ウィーが各々リオトを追いかける理由(わけ)を話す。

 各々の表情や反応を見て、リオトは呆気に取られたような顔をするが、やがて「――ありがとう」とぼそっと呟くと


「わかった! じゃあ行こう!」


と真剣な表情になり前方にある役所を見た。


「そうこなくちゃ!」


 リオトのその言葉を聞いて、ダンは更にニヤッと口角を上げ、走る脚に力を込めた。



★★★


 ジーム、役所の入り口前。


「はぁ……はぁ……着いた……」


 膝に手をついて息を整えている金髪碧眼の少女――ステラはやっとの思いでそう呟いた。


「お前ら、遅ぇぞ?」


 扉の前に立っているダンは訝しげな表情でそう言う。


「兄ちゃんが……はぁ……早すぎるんだよ……」


 ステラの隣で彼女と同じような格好で息を乱しているレンが、扉の前にいるダンに向かってそう突っ込んだ。

 その突っ込みに更にレンの隣にいたリオトは苦笑いを浮かべた。


 飲食店のテラスを出た後、リオトと一緒に役所まで行くと決めたはずだったのに、どういうわけだかダンは1人で突っ走ってしまっていた。

 急なことだったわけで、ダンの縄を持つことも失念していたが、まさかリオトすらも置いていくことになるとは――。

 だが、不幸中の幸か、ダンは暴走することなくどこにも行かず、役所にも入らないで待っていた。


「いや、待っていただけでも良しとしよう」


 ステラやレンよりかは息を乱してはいないリオトは役所の扉に近づく。

 そして扉の取手を掴む直前、振り返ると真剣な表情でダン達を眺めた。


「ここからは何が起こるかわからない…………それでも来るかい?」


「――当然!」


 ダンの一言に呼応するようにステラ、レン、そしてウィーまでも決心の固い眼差しで頷いた。


「そうか……」


 再度の忠告でさえも揺らがないダン達を見て、リオトは観念したようにため息を吐くと、


「それじゃ入るぞ!」


と掛け声を上げ、取手を掴んだ。


 ――のだが。


「――――!?」


 その瞬間、急に扉が開かれた。

 勢いのある扉の動きにリオトは思わず手を離す。


「お前らは!?」


 扉の向こうにいる団体を見て、ダンは目を丸くする。

 それもそのはず。

 記憶も新しい――冒険者ギルドに行く前にぶつかったフードの集団だった。


「「ヒャッハーーーー!!」」


 テンションの上がった楽しそうで汚い雄叫びを上げた集団。


「どけどけエェーー!!」


 目の前にいるリオトに向かってそう叫ぶと、リオトが動き出すか出さないかの内に、リオトやダン達を避けながら走り出す。


「な、なんだ!?」


 急な出来事にダンは去っていく集団を振り返り、目を丸くする。

 ステラ、レン、ウィーも驚き身体を硬直させ、リオトも首を横に振る。


「わ、わからない……ともかく急ごう! 父さんとコーリは最上階にいるはずだ!」


 だが、今の最優先事項はギュンターとコーリの安否確認。

 リオトはそう叫ぶと、開けっ放しの扉から役所の中にいち早く入っていった。

 ダン達もそれに続き、役所の中に入る。


★★★


「な、何があったんだ……? ……いったい?」


 リオトは混乱の中そう呟いた。


 役所の最上階に着いたダン達。

 椅子が飛んだであろう部屋の扉の前には衛兵、もしくは傭兵らしき男2人が尻餅をつき倒れている。

 そしてその扉から通路に薄らと漏れ出る紫の煙。


 ダン達は手分けして、その煙を吸わないように通路の窓を全開に開け、漸く薄くなったであろうタイミングで部屋の扉を開け放った。

 窓が割られていたおかげか、部屋の紫煙はそこまで濃くなく、充分に人の気配がわかる。


 だが、その気配は全て床に近い所から感じる。

 つまり会食に参加していた全員がその場に蹲っていた。


 その中でリオトが呟いたのが上の台詞。

 リオト自身も困惑して、コーリの姿が目についた瞬間、


「コーリィ!!!!」


と叫び、


「――な……!?」


 リオトは驚きと非難を含んだ声を発した。

 中に入ろうとした所をダンに羽交い締めされたのだ。


「落ち着け、リオト! まだ入るべきじゃない」


「だが、このままだとコーリや父さん達が……!」


「あぁ! だから――レン!」


「任せて!」


 レンはダンに言われる前に、スリングショットを構えていた。――そして放つ。


 弾は部屋の破られていない窓ガラスに打ち当たる。

 ダンを気絶させたスリングショットの威力だ。

 当然ながら窓ガラスにはヒビが入り、2、3発撃てばガラスは大きな音と共にいとも簡単に割れた。


 それを部屋中の全窓に向けて繰り返す。

 一箇所しか開いていなかった空気の出口が、窓を全て開けられたことにより、増加し紫煙は急速に霧散した。


 視界がほぼほぼクリアになった所でリオトはダンの拘束を抜け出し、コーリの元へ駆けつける。


「コーリ!?」


「――――…………兄……さん……?」


「コーリ、無事か!?」


 コーリはゆっくりと首を縦に振ると、震える口を開いた。


「…………フード被った人たちが……いきなり来て、瓶みたいなの割ったら……煙が出てきて……――ウゥ……」


「わかった! もう良い! 喋るな!」


 苦しそうなコーリをリオトはギュッと抱きしめ、そのコーリの話を側で聞いていたステラは目を丸くした。


「フード被った人達って…………」


「あいつらだろうね」


 眉を顰めつつそう冷静に答えるレン。

 大通りでダンとぶつかった集団。役所からテンション高く走り去った集団。

 この部屋の惨状は彼らが原因だった。

 コーリだけが倒れているわけじゃない。会食に参加した商人、そして商人らが雇った傭兵。もちろんギュンターも紫の煙――おそらく毒の煙にやられたらしい。

 全員、床に這いつくばっていた。

 唯一1番初めに割れた窓ガラスの横で壁に背をつけ尻餅をついている男はいた。おそらく椅子を投げ、窓ガラスを割ったのだろう。


「俺があいつらを止めておけば……ッ!」


「いや、たぶんあのタイミングだと誰でも無理だ。初めからわかってたら別だけど……」


 コーリを抱きしめながら、リオトは後悔を口にするが、冷静にレンは否定する。

 リオト達があのフードの集団と出会ったのは2回。

 最初はまさかこんなことをするなんて思わなかったし、2回目は既に事件が起きた後。

 犯人よりもコーリ達が心配で、優先すべきことだった。

 レンの言うことは尤もだった。


「リオト! とりあえず意識がないけど全員、息はあるみたいだ!」


 ダンがそう叫ぶ。

 この部屋に入った瞬間に、ウィーと一緒に全員の容態を確認していたようだった。


「でもいつまでもこんな所いさせるわけにはいかねぇ! 早く病院に連れて行かねぇと!」


「だけどこの人数をあたし達で運ぶとなると相当時間が掛かるんじゃない?」


「問題ねぇ! 俺がまとめて運んでやる!」


「無茶言うな!」


 ダンの突飛な発言にすかさず突っ込むレン。


「だけど兄ちゃんの言ったことは尤もだと思う。早く医者に診てもらった方が良いよ。剣の兄ちゃん、ジームの病院ってどこにあるんだ?」


「――――」


「兄ちゃん!」


 コーリを抱きしめたまま反応をしないリオトに活を入れるようにレンは耳元で大声を上げた。


「あ、あぁ……」


 漸く返事をしたリオトの表情は未だ呆然とし、動揺している。

 家族が被害にあって冷静さを欠いているのだろうが、それにしてもショックが大きい。

 さっきの後悔の言葉を口にした時の反応もそうだが――まるで身内が死んでしまったかのような態度。


「リオト! こいつらはまだ息があるんだ! 医者に診てもらえばまだ助かるかもしれねぇ!」


「――――!」


 ダンの訴えに先まで虚ろだった目に輝きが戻ってきた。

 『まだ助かる』ということを今初めて認識したような感じだ。


「あ、あぁ。確かにその通りだ!」


 そう言ってコーリの身体を横にしつつ持ち上げ立ち上がると、


「病院に連れていく! ダンも誰か抱えて一緒についてきてくれ!」


「わかった!」


「ステラとレンはここで待機していてくれ!」


「オーケー! 剣の兄ちゃん!」


「時間は掛かるかもしれないが、彼らを助けよう!」

 

「――ねぇ、皆。もう私達だけがする必要はなくなったかもしれないよ」


 リオトの指示にダンとレンが威勢よく返事をしていたが、ステラだけ冷静にダン達に意見する。

 それに驚いて、全員がステラを見ると、ステラは扉の外を指差していた。


「もうお医者様も運んでくれる人達も来てくれたからさ」


 部屋の外には往診鞄を持った白衣を着た男性と付き添うように立っているナース姿の女性。そして屈強な男達が中の様子を見ていた。

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