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4-9 いざ、冒険者ギルドへ

 翌日。ジームの街。大通り。


「ふふ~ん。ふ~ん。ふ~ん」


 日が高く昇り、騒がしくなる頃合い。

 その喧噪にも負けず、1人楽しげに鼻歌を唄っている少年がいた。

 茶髪の髪を揺らし、意気揚々と闊歩している。

 鼻歌を聞いた歩行者は少年を一度見て、歌の主を認識し納得してまた前を向くが、やがて怪訝な顔をして再度その少年を見る。

 全員が全員。同じ反応をしていた。


「ねぇ…………ダン……」


 そんな中、いたたまれない様子でステラはその鼻歌を唄っている少年――ダン・ストーク――に話しかけた。

 ダンは「ん?」と鼻歌をやめステラの方を見るが、その表情は満面の笑みでやけに嬉しそうだ。


「なんだ? ステラ」


「その……鼻歌止めない?」


「ん? そうか?」


「うん……鼻歌が原因ってわけじゃないんだけど……その……変な目立ち方してるから」


「ん~でも仕方ないだろう!? 冒険者ギルドに行けるんだぜ!?」


 この気持ち誰が抑えられるんだ、と目を輝かせながら答えるダン。

 鼻息を感じるほどステラの顔に近づけると、


「ロトの時は冒険者カード作ってもらえなかったからな! 今度こそ冒険者カードを発行してもらって、俺は真の冒険者になるんだ!」


「そ、その気持ちもわかるんだけど~……」


「はぁ。しょうがないよ。姉ちゃん」


 困惑げにしているステラ。その隣を歩くレンは諦めたようにため息吐く。


「兄ちゃんの夢がやっと1つ叶うんだろ? 今は喜ばせてあげようよ」


「レンの言っていることもわかるんだけど」


「お、なんだあれ!? ――グエッ!」


「これがあんまりにも情けなくて…………」


 そう言って顔を手で覆うステラ。

 その手には茶色い縄。何に繋がれているかというと――言うまでもないかもしれないが――ダンの腰だ。


 気になるものを目敏く見つけ、走り出そうとしたダンはその縄が腹に食い込み、胃から空気が漏れる。

 腹を抑え蹲るその様子はまさにリードに繋がれた犬のよう。

 ちょうど近くでウィーの顔が拝めるくらい小さくお座りをしていた。


「それもしょうがないよ…………兄ちゃん、目を離したらどっかに行っちゃうんだから……」


と憐れな者を見るようにレンは虚ろな目をしていた。


「おい〜レン~。この縄外してくれよ。動き辛くてたまったもんじゃない」


「そうしてるからね! 兄ちゃんが勝手に動かれちゃあたし達が困るの!」


「勝手になんて動かねぇからよ〜」


「今まさにどっか行こうとした兄ちゃんの言うことなんて信じられるか!」


「でもよぉー! ――おっと……」


 そうやってレンに駄々を捏ねているダンだったが、背中に衝撃が走り前のめりに倒れそうなのを地面に手をつき防いだ。


 後ろを向くとそこにはフードを被った集団がじっとダンの方を見ていた。

 全員同じ黒の外套を羽織り、その内側に何があるのかわからない。

 フードも被っているため、その顔も、表情も、確認することができなかった。


 どうやらその集団の1人の足にダンの背中がぶつかったらしい。

 人の多い大通りでしゃがんでいれば、そうなるのは必然だ。


 足をぶつけた本人は低い声で短めに


「邪魔だ……」


と不機嫌そうな口調で言い放つ。


「あ、すまねぇ!」


 ダンはすぐに立ち上がるとその場から離れ、ステラ達の方へ寄った。

 ダンが退いたことがわかると、ダン達を一瞥し、その集団は何も言わず黙って横を通り過ぎた。


「ほら、見たことか! 兄ちゃんが勝手に動いたから怒られたじゃないか!」


「それはこの縄で動き辛かったからだよ! 縄がなければ余裕で避けられたわ!」


「そもそも勝手に動かなければこんなことしなかったんだからね!」


 通り過ぎている集団を気にせず、ダンとレンは言い合いを再開する。

 途中、集団の中の1人がボソッと何かを囁いたのにも気付かず、「ぬぬぬ~!」と睨みあっていた。


 そんなダンとレン。そして通りがかる人達の反応が気になってソワソワとしているステラ。

 その3人を見て、「ハハッ」と吹き出すように笑う男がいた。

 リオト・ヘリックスだ。

 青の髪を爽やかに揺らし、腰には片手剣。相変わらずのクールな顔で柔和な優しそうな微笑みをする。


「相変わらずダンとレンは仲が良いね」


「はぁ?」


「剣の兄ちゃん……目、大丈夫?」


 ダンとレンはそんなリオトを訝しげな表情で見つめた。

 その表情があまりにも似ていてリオトは再び笑みを零した。


「そういう所もだよ。――それよりこうやってお喋りしているのもいいが、そろそろ向かわないか?」


「お!」


 リオトの提案に思い出したかのように機嫌を取り戻し、目を輝かせるダン。


「それもそうだな! こんな所でレンの我儘な文句に付き合っている暇なかったわ!」


「はぁ!?」


 ダンの無自覚に火に油を注ぐ言動に再び目を吊り上げるレン。

 だがダンは目の前のレンの様子よりもまだ見ぬ冒険者ギルド。ダンの興味は既に移ってしまっている。


「まぁまぁ。レン、落ち着けよ! 冒険者ギルドはもうすぐなんだ。喧嘩してる場合じゃねぇよ!」


「それは兄ちゃんの都合でしょうが!!」


と八重歯をむき出しにしながら叫んだ後、レンは「全く!」と腕を組み頬を膨らませる。

 ダンはそんな彼女の両肩を「まぁまぁ」と押して、にこやかな顔をして前に進み始めた。


「冒険者カード発行したらあとで何でも言うこと聞いてやるから」


「――! 言ったね!?」


「あぁ。男に二言はねぇよ」


「へぇ〜。何してもらおうかなぁ〜――――」


 なんてことをダンとレンが言い合いつつ、一行は2人を先頭に再び歩き始めた。


 ステラはほっと安堵の息を漏らした。

 ただでさえ目立っているのに、一か所に留まるともっと奇異な目で見られる。

 だったら動いていた方が幾分かましだ。

 リオトがやんわりとした雰囲気で動くように誘導してくれて助かった。


 そこでふと気付いて、ステラは横で歩くリオトを不安げに見つめた。


「そういえば、本当に行かなくてよかったの?」


 昨日リオトが父ギュンターから言い付けられた会食のことだ。

 リオトは昨日行かないと宣言していた。

 会食はもうすぐ始まる時間。この時間にステラ達と同行しているということは、本当に参加しないつもりなのだろう。


 だが、本当にそれで良かったのか。

 会食に参加しなければ、リオトが今腰につけている剣は没収されてしまうし、それどころかリオトとギュンターの関係性は更に悪くなってしまうだろう。

 リオトはそれでも良いと言って聞かず、今日はステラ達に同行してはいるのだが…………。


(これでまたお父さんと険悪になったら……)

とステラはリオトの今後に心を傷ませ、その彼女の感情を読み取ったウィーも


「ウィ~…………?」


と不安げにリオトを見た。

 だが、


「――全く問題ない」


 そんなステラの思惑とは裏腹にリオトの意思は固かった。


「昨日も言ったが、会食に出たら俺の騎士になるという夢が潰えてしまう。そんなことをするくらいならダン達と一緒にこうして街を歩く方が良い!」


 それにこっちの方が遥かに楽しいからね、とリオトは面白いものを見ているかのように楽しそうにダンとレンを眺めている。


 ステラも2人を横目で見つつ、


「そ、それはそうなんだけど……」


と同意するが、少々困惑げで浮かない顔だ。


「まぁ良いんじゃねぇの?」


「…………ダン……」


 そこで陽気な声で割り込んできたのはダンだ。

 いつの間にか後ろ歩きになってこちらを向き、ニコニコと笑みを浮かべている。


「リオトの心に迷いがなければ、それで良いんだ!」


「それってどういう…………?」


 天真爛漫の顔で言うその発言にいまいちピンと来ず、首を傾げるステラ。

 隣にいるリオトやウィ―もダンの発言に目を丸くしてはいるものの、あまりわかっていない様子。


 だが、


「まぁ兄ちゃんは迷わなすぎるけどね! もうちょっと自分の行動ひとつひとつを考えてほしいよ! この好奇心馬鹿!」


「なんだと!?」


「なんだよ!?」


 ダンのせいで不機嫌になっているレンの罵倒に大人げなく反応してしまったおかげで、ダンの真意を聞けなくなってしまった。

 ダンとレンは両者負けじと睨みあい、互いにいがみ合う状態で前に進んで行ってしまった。


「さっきのダンの言ったことわかった?」


「……いや。でもダンのことだ。何か考えがあってのことじゃないか?」


 そんな2人の様子に呆れたようにため息をついてステラはリオトに聞くが、対照にリオトは楽しそうに微笑んでダンとレンの行動を観察していた。


「さ、それよりもそろそろダンとレンを呼び戻さないとな」


 どんどん大通りを先に行っている2人(ダンとレン)

 リオトは2人を見ながらそう呟いて歩みを止めた。

 その行動に合わせてステラとウィーも同じように立ち止まる。


「え? どうして?」


「ウィ~?」


 急に止まったリオトに首を傾げつつ、ステラとウィーはリオトに尋ねると、リオトは変わらず笑顔のままで、


「――何て言ったってもう冒険者ギルドに着いたからな」


 そう朗らかな口調で言いのけた。


「え!?」


「――グエッ!」


 ステラは目を丸くして、思わず持っていた縄に力を込めてしまった。

 それによって被害に遭うのは当然繋がれた人間――ダンだ。

 さっきと同じように縄が食い込み、腹を抑える。


 これまでとは違い何もしていないのに受ける攻撃にダンは悶え、


「兄ちゃん……どんまい……」


 これにはさすがのレンも同情し、憐みの視線をダンに向けた。


「ダン~! レン~!」


 だが、当の本人(ステラ)はそのことには気付かず。

 いつものテンションで前にいた2人を呼ぶと、


「着いたって!」


「ウィイ~!」


 リオトからさっき聞いた情報をウィーと共に叫んだ。


「――で、冒険者ギルドはどこなんだ!?」


「ちょっと兄ちゃん、移り変わりが激しいよ!」


 冒険者ギルドがもうすぐそこだということがわかったダン。

 腹の痛みを忘れたかのように目を輝かせてステラとリオトの元に飛んできた。

 そんなダンに大口を開け突っ込みをするレンだったが、ダンは意に返さず。

 もう――というかずっと彼の頭には『冒険者ギルド』しかない。


 うずうずとしているダンを目の前に、リオトは立ち止まった場所のすぐ横にある建物に向かって手を差し伸べた。


「ちょうどここさ」


 その建物は――ヘリックス商会よりは小さいが――周りにある建物より一際大きく、そして存在感があった。

 木造に建てられ、胸からひざまでの高さの扉は押せば前後に開閉し向こう側が見えるスイングドア。

 バーやサルーンと言われれば納得するようで、ジームの商人らしい街並みとは少し違った雰囲気を醸し出していた。

 そして1階と2階の間にある下屋には看板があり、そこには『冒険者ギルド・ジーム支部』と書かれていた。


「遂に、やっと、俺の冒険者カードが――!」


「作ってもらったら、本当に何でも言うこと聞いてもらうからね! 兄ちゃん!」


「ダン、冒険者ギルドだからって暴走しないでね?」


「ウィー! ウィー!」


「さぁ! それじゃあ入ろうか!」


 ダン、レン、ステラ、ウィー、そしてリオトは各々に言いたいことを言うと、全員で冒険者ギルドに入っていった。

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