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4-7 リオトの隠し事 前編

 ヘリックス家、ステラとレンの部屋。


「…………ん……?」


 ステラは小さく声を漏らした。

 どうやら目が覚めてしまったようだ。

 辺りはまだ暗く、深い時間だということがすぐにわかった。

 明かりを消してから1時間も寝ていないだろう。


 疲れは溜まっているはず。だけど、今夜の談笑が楽しくて脳が未だ興奮冷めやらぬ状態だったのだろうか。

 もう1回、目を閉じてもあまり意識が遠のく感じがないが、寝ないと明日がもたないから、とステラは寝返りを打って寝直そうとした。


 ――――でも、眠れない。


(一度、お水でも飲んでから寝ようかな……)


 そう考えて、ステラは静かに身体を起こした。

 時間もそんなに経っていない気がするし、ヘリックス家の使用人はまだ起きているだろう。

 使用人に頼めば、水の1杯くらい飲ませてくれるはずだ。


 レンを起こさないように細心の注意を払って、ステラは部屋の扉を開けた。


 廊下はまだ明かりが点いていた。

 燭台に立てられた蝋燭の柔らかい光に安堵しつつ、ステラは音を立てずにゆっくりと部屋の外に出た。


(確か、使用人部屋はあっちだよね)


 リオトにこの部屋に案内された時、何かあったらと教えてもらった。


(明かりも点いていることだし、まだ寝てはいないよね?)


と廊下を歩き始めた瞬間、


「あ……」


「…………や、やぁ……」


 リオトと遭遇した。

 外着に剣を携え、手には空っぽの革袋を持っていた。

 そしてその表情はどこか固く、気まずい感じに右手を上げている。

 とてもこれから寝るような恰好じゃなく、むしろどこか外に出ようとしていて、それがバレてしまったとでもいうような様子だ。


 でもそんな動揺した姿も一瞬だった。

 すぐにリオトはステラに優しく微笑んだ。


「何かあったのか」


「あ、ちょっとお水を飲もうと思って……」


「そうか……ちょうどいい。案内するよ」


「え? でも悪いよ。使用人部屋なら教えてもらったから1人でも大丈夫だよ?」


「遠慮しなくてもいい。俺もそっちに用があるんだ」


「……そういうことなら…………」


 悩んだ末にステラがそう答えると、リオトはステラの前を通り過ぎる。


「……え?」


 その方向は教えてもらった使用人部屋がある方向とは逆。


「水を飲むんだろ。だったら使用人部屋に行くよりも良い所がある」


「それって?」


「着いてからのお楽しみだ」


 そう微笑んで、ついて来いと言わんばかりに歩みを進めるリオト。

 ステラも最初は戸惑ってはいたものの、今日出会ってからずっと良い人であったリオトの言うことだし、とすぐにリオトの横を歩き始めた。


「その袋は?」


「あ、あぁ…………これは……」


「――これも着いてからのお楽しみ?」


「…………そうだな」


 そんなたわいもない話をしながら、リオトとステラは廊下を進んでいった。




「着いたよ」


「ここって厨房?」


 リオトに案内されるままについて行ったら大きな厨房に行き着いた。

 確かに水を飲む分にはここ程絶好な場所はない。

 厨房にはまだ料理人と思しき人物が片付けやら明日の仕込みやらの何かをしていた。


「少し待っていてくれ」


 リオトは厨房の端に置かれている椅子にステラを座らせると、慣れた様子でその料理人に革袋を渡し、何かを言うとすぐに自分の作業を中断し、別の作業に入った。


「いいの? 私がこんな所入っても?」


 戻ってきたリオトにステラがそう聞くと、


「あぁ。別に隠すこともないからね。問題ないさ」


「……ふーん……」


「それに俺もここに用があったからな。ついでさ」


「そうなの?」


 リオトは微笑み首を縦に振り肯定した。

 だが、厨房に用があるにしては、リオトの服装は明らかに外行きの格好。

 持ってきた袋と何か関係があるんだろうか?


「坊ちゃま。ご用意ができました」


 しばらく待っていると、料理人がマグカップとリオトが渡した革袋を持ってきた。


「あぁ。ありがとう」


 リオトは両方受け取ると、マグカップを「どうぞ」とステラに手渡し、料理人は軽くお辞儀してまた別の作業に行ってしまった。

 そんな様子を見つつ、「ありがとう」と感謝の言葉を言って両手でそのマグカップを受け取るステラ。


「これって…………」


 マグカップは暖かく、中には黄色がかった半透明の液体にレモンの輪切りが入っていた。


「ホットレモンだよ」


「いいの?」


「もちろん。これを飲むとよく眠れるんだ」


 ステラはカップを口に近づける。


「酸っぱい……」


 口に含むとすぐにその味が口全体に広がって、思わず口を窄めた。

 酸味の効いた湯気が漂い、鼻からも酸っぱさを感じる。

 けどその酸っぱさが不快だとは思わない。

 むしろ心地良く、身体が安心しているのがわかる。

 そして徐々に口の中から喉に流れて、酸味を忘れるとほのかな甘みが吐息と一緒に出ていった。


「でも美味しい……」


「気に入ってくれてよかったよ」


 そうやってリオトが微笑むと、手に持っていた革袋が揺れた。

 さっきとは違いパンパンに何かが詰まっていた。


「それ、何なの?」


「ん? あぁ……これか……」


 リオトはそう言うと、ステラに見えるように袋の口を開けた。

 中にはここの厨房で余った、もしくは使いきれず処分するであろう大量のパンの屑が入っていた。


「これどうするの?」


 まさか自分の夜食というわけではなかろう。

 こんなにたくさんのパン屑を1人で食いきれるはずがない。


「…………ついてくるか?」


「え?」


「このパンの使い道」


「ここじゃダメなの?」


「実際に見てもらった方が良いと思ってね」


 どうかな? とリオトはステラに優しく微笑む。


 ダンが顕著なだけで、ステラも好奇心が旺盛な方だ。

 自分が疑問に感じたことに対して行動すればすぐに答えが見つかるという機会で、


「行く」


 ステラが断るはずがなかった。

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