表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/63

4-6 夢の世界へ

 その夜。ヘリックス邸のとある一室。


「お気に召したかな?」


「えぇ! とっても美味しかったよ」


 リオトの質問にステラはベッドに座った状態で微笑んだ。

 食事の後、リオトに今夜泊まる部屋を案内された。

 まずは女性陣ということで、この部屋ではステラとレンが泊まることになっている。


「ジームの街は美味いモノも集まるんだね! 剣の兄ちゃん」


 レンも同じくもう片方のベッドに寝転がりながらステラに同意するようにニカッと笑う。

 ステラ達が話しているのはヘリックス家の使用人が買ってきてくれた食べ物のことだ。

 ジームには特産品というモノはないが、さすが西区の中心だけあって、西区各地の食べ物や料理が堪能できた。


「喜んでくれたなら良かったよ」


 そう笑みを浮かべるリオト。それから隣にいるダンを親指で指した。


「じゃあ俺はダンを部屋に連れていくよ」


「――なぁ、リオト。これ、外してくれよ」


 煩わしそうな表情なダンはリオトにそう懇願するが、


「絶対外しちゃダメだよ! 剣の兄ちゃん!」


とレンが厳しい目つきで、首を縦に振ることはない。


「別にもう外に勝手に飛び出さないからさ。こんなんじゃおちおち眠れねぇよ」


 そう動きづらそうにもじもじと身体を動かすダン。

 その全身には縄でぐるぐる巻きにされ、その縄の先端をリオトが握っていた。


 応接間での一件の後。外に出るのを禁止されたダンであったが、その言うことを素直に聞くようなダンではない。

 昼も夜も隙あらば外に出ようとするのをステラ、レン、ウィー、そしてリオトにまで手伝ってもらいながら阻止していた。

 そして最終的にキリがないと判断したレンのアイディアにより、ダンは縄で身動きが取れない状態にされてしまった。――さすがに夕飯時は椅子に括りつけられはしたが手のみは自由にされた。


 そんな状態のダンをレンは怪しそうにジト目で見ると、


「どうだか。そう言って皆が寝静まった後に徘徊するつもりなんでしょ?」


「……………………しねぇよ」


「剣の兄ちゃん、絶対に(・・・)! 外さないでね」


 即答せず目を逸らすダンの言葉は当然信用しない。

 念を入れて再度リオトに忠告する。


「なんでレンに指図されなきゃなんないんだよ!」


「それは兄ちゃんが勝手な行動ばかりするからでしょ!?」


「何をぉ!?」


「何だよ?」


「まあまあ、ダン」


 そうやって火花を散らすダンとレンの間にステラがほんわかした雰囲気で割って入ってきた。


「今日のところは落ち着いてよ」


「俺は充分落ち着いてるぞ? なんなら今から外に出ても全部見て回れる程だ――」


「今日大人しくしてたら、明日冒険者ギルド、行ってあげる」


「よーし。リオト、そろそろ寝ようぜ! 明日冒険者ギルドのために!」


 ステラの提案を受け、ダンはすぐに意見を変えた。

 『冒険者ギルド』という餌にまんまと引っ掛かってくれて、ステラはホッと安堵の笑みを溢す。


「そうだね。ダン、部屋に案内するよ」


 そんなダンの変貌ぶりにリオトは苦笑すると、部屋の中にいる女性陣を見た。


「じゃあ、今夜はゆっくり休んでくれ」


「うん。色々ありがとうね」


「剣の兄ちゃん……おやすみ〜」


「あぁ。おやすみ。また明日」


 ステラとレンがそれぞれ挨拶するのを聞くと、リオトはその様子に微笑みつつその部屋の扉を閉じた。

 閉じている間にウィーがステラ達に手を振るのが見えたので、ステラも合わせて手を振っていた。

 今夜はダンと一緒に寝るようだ。


「――――そういえば君達は珍しい生物を連れているんだね」


「あぁ! ウィーは子竜なんだ」


「ウィ〜!」


「子竜だって!? ――――」


 扉越しにリオトとダン、そして相槌にウィーが会話しながら立ち去るのがわかった。

 そして次第に声が聞こえなくなり、やがて静寂が訪れると、ステラはほっと息を吐き微笑んだ。


 楽しい時間が終わりを告げてその余韻に酔いつつ身体の力が弛緩する。

 別に気を張っていた、というわけでもないがやっと終わったと身体から緊張感が抜けていく。

 心としてはもう終わっちゃったとまだまだ楽しみたい気持ちが充分にあったが、どうやら身体は疲れが溜まっているらしい。

 少し瞼も重くなってきた。


 隣のレンには悪いが、明かりを消して寝支度をしてしまおう。


「ねぇ、レン。明かり消し…………」


とレンに明かりを消していいかどうか聞こうと横を見ると、


「スー……スー……」


 既にレンは夢の世界に旅立っていたようだ。


(やけに静かだと思ったら)


 思えばダン達が行ってから全く物音がしていなかったのはこのせいか。

 ダンよりも大人びた発言や知識があるけれど、レンの肉体はまだ子供なのだ。

 久しぶりのベッドに入って、疲れが一気に来たのだろう。


 ステラは優しく微笑し、寝ているレンを起こさないように静かに少女を布団の中に入れる。


「おやすみ、レン」


 そして自分も隣のベッドに入り、ランプの明かりを消したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ