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4-3 騎士を目指す少年 後編

「おーい、兄ちゃーん!」


 野盗をリオトと共に下し、ダン達2人が森を抜けると、そのすぐのところにレンとステラ、ウィーが待っていた。

 レンは楽しそうに八重歯を見せながら笑顔で手を振っていて、


「あ! レン! この野郎!!」


 そのご機嫌な様子が目に入ったダンは大声を上げて、レンのところに近づいた。

 それからレンの手にバチンと自分の手を重ねると、


「置いていきやがって! おかげで野盗に襲われたぞ!!」


「自業自得だよ。玉の回収ありがとうね」


 レンの手にはダンが拾ったスリングショットの玉があった。

 文句を言いながらも律儀に返すダンにレンはニッコリと笑った。


「お疲れ様、ダン。それより――」


 そして野盗に襲われたと言われながらも全く心配していなくて、むしろ森から出られたことにホッとしているステラ。

 そんな彼女はダンと隣にいる男を指差して、


「この人は?」


「こいつはリオト・ヘリックス! 俺が野盗に襲われた時、助けてくれたんだ!」


「リオト・ヘリックスだ。よろしく」


 リオトはステラ達に挨拶をすると、ダンはステラ達を指差しリオトに紹介する。


「で、こっちがステラ、ウィー、あとこの生意気なのがレンだ」


「ステラです。初めまして」


「ウィ~~!」


「レン・クレインだよ! ガキっぽくて馬鹿な兄ちゃんを助けてくれてありがとうね!」


「なんだとぉ? レン!」


 そう叫んでダンはレンを睨みつけると、レンもジト目でダンを見て


「なんだよ? 兄ちゃん」


と喧嘩腰だ。そんな様子に目を丸くしているリオトは


「どうしたんだ?」


 ダンとレンを指差しステラにそう聞くと、ステラは優しい笑みを浮かべている。

 曰く、


「ちょっと喧嘩中なんです」


「そ、そうか……」


 16歳の男が10歳くらいの少女と睨みあっている。

 端から見れば、兄妹喧嘩のように見えるその様子。

 姓が違うから兄妹ではないが、その睨み合いはどこか微笑ましい。

 彼らのことはそれほど気にしなくても良いと判断したのか、リオトはステラの方を向き話題を振ることにした。


「そういえば、ダンやステラはシエド村の出身なんだってね?」


「シエド村を知っているんですか!?」


「もちろん。ウィールド最西端の村のことだろ? その村出身の人に会うのは初めてだけど」


 シエド村のことを知っている人物。

 外の人間で知ってくれている人と会ったのはこれで3人目。

 これまでの経験からシエド村を知ってくれている人はあまり悪い印象を受けなかった。

 だからというわけでもないが、自分達の村を認識しているということだけでステラはホッと少し胸を撫で下ろした。――もちろんステラの故郷でもないのだが、そこはご愛敬だ。


「それでダンに聞いたんだけど、王都を目指すためにこれからバートンに向かうつもりなんだろ?」


「そうなんだよ!! なのに兄ちゃん、地図燃やしちゃってさ!! 信じられるぅ!?」


 そういきなり割り込んでくるレンの勢いにリオトは苦笑いしながら後ずさり、ダンを見ると、


「………………けっ」


 舌打ちして不機嫌そうにそっぽを向く。


「ちょっと反省してんの!?」


 そんな感じで態度の悪いダン。

 レンはスリングショットを構え厳しい表情でこっちを見たため、ダンはすぐに両手を挙げた。


「してるよしてる。本当に悪かったって」


 もう撃たれるのはごめんだ、と冷や汗を滲ませながらレンの機嫌を損なわないように苦笑いを浮かべる。

 そのやり取りをにこにこしながら見ているステラ。


「仲良いんだよね~」


「「仲良くない!」」


 ほぼ同時にステラの言葉を否定してステラを睨むダンとレンを見て、


「ほらね。仲良し」


と全然臆する様子もなくリオトにそう言う。

 そんな彼らの様子を見て、リオトは緩む顔を隠すように片手で口元を覆うが、


「……プッ……」


 どうやら堪えきれなかったようだ。

 吹き出してしまった笑いを戻すことはできず、そのまま涙を浮かべて破顔する。


「いやぁ~すまない。なんというか……君達があまりにも楽しそうでね」


「はぁ?」


「兄ちゃん……目、大丈夫?」


「でしょう?」


 ダンは腑に落ちないという表情をし、レンは口元はにやけているがそこから出た言葉はリオトの言っていることに不満がある様子だ。

 そしてそんな2人に動じずに微笑んでいるステラはリオトに賛同している。

 そんなステラに対しても不満気なダンとレンであったが、


「「ハァ……」」


 やがて諦めたかのように2人してため息を吐く。


「――それで?」


 レンはジト目でリオトを眺めると、


「剣の兄ちゃんはどうしてこんな森にいたんだ?」


 リオトの服装を見る限り、外套もなく軽装。

 片手剣は携えてはいるが、それ以外の荷物は腰にぶら下げている小物入れのみ。

 馬を連れているわけでもないし、身だしなみも綺麗でとても旅をしているというような装備ではない。

 山菜を摘んでいたにしてももう少し荷物があってもいいだろう。

 つまり森に入っていた理由がよくわからない。


 笑いが収まらずまだ「ククッ」と喉を鳴らしているが、リオトは顔を上げ、


「あぁ……それはだね」


「――修行してたんだよな!?」


と答えようとした所で、ダンに割り込まれた。

 さっきレンと喧嘩していた時とは打って変わって目を輝かせて楽しそうなその様子。

 ダンにとってはリオトの修行というのは興味惹かれるものらしい。


「修行? 一体何の?」


「騎士のための修行なんだってよ!!」


「騎士!?」


 レンはその大きな目を一際丸くし、今日一番の大声を張り上げた。

 ステラとウィーも微笑んだ顔を張り付けながら数歩後ろに下げる。


 それもそのはず。

 騎士というのは警団よりも上。所謂上司という立ち位置だ。

 ロトの街でウィールド西区の警団長ブロードを筆頭とした警団にひどい目に合わされたステラ達にとって、警団というのは苦手意識のある関わり合いになりたくない存在だ。

 そんな警団の上司ともなる騎士となれば、更に厄介な存在であろうと予想がつく。


 リオトが騎士ではないにしろ、それを目指しているというならば、あまり関わりたくないというのが本音のところ。

 むしろダンが何故こんなに楽しそうにリオトと話しているのかわからない。


 するとダンはステラ達に落ち着けとでもいうように手を前に出した。


「いや、まぁ待て。ステラ達の気持ちもわかるが、こいつは悪い奴じゃねぇよ!」


 とはいうものの、信用はできない。

 ステラ達にとってはまだリオトは未知の存在だからだ。


「仕方がない」


 そこで息を吐いたリオトはステラ達に事情を説明し始めた。


「この話を聞いてステラ達が俺を怖がることはわかっていたんだ。――実際ダンも話した時に不審げな顔で逃げ出そうとしていたしね。だが、警団と騎士はその性質が全く違う」


「え?」


「そもそも指揮系統が違うんだ。警団は――もちろん騎士も命令することができるが――主な指揮はそれぞれの区の大領主が担っている。だが、騎士は王族に忠誠を誓っている」


 騎士団と警団の違い。その違いは多くある。

 それはシー玉の支給の有無であったり、国を管轄とするか区を管轄とするかという違いもある。


 その中で最も大きな違いは指揮系統だ。

 警団の指揮は大領主が主に担い、有事の際には騎士も命令することもある。

 それに対して騎士の指揮は王族のみ。騎士は王族の命令でのみその力を発揮する。


 もちろん指揮といっても大領主や王族が警団・騎士団の前に立って先導するというわけではない。

 細かく専門的な部分は警団や騎士団それぞれの団長がその役割を担っている。

 あくまで大まかな方針策定を行ったり、有事の際における最終決定権を持っていたりするだけだ。


「じゃあブロードが昇格できるっていうのは……?」


 そんな感じで指揮系統が違うようだが、確かロトの街で出会った警団長ブロードは『騎士団への昇格』という言葉を口にしていた。

 組織としては警団も騎士団も変わらないのではないのか、というのがステラの懸念だ。


 そんなステラの質問についてリオトも同意するように頷いた。


「あぁ。それもちらっとだがダンに聞いたよ。もちろん警団から騎士にもなれる。性質が違うといっても組織としては騎士団の配下に警団があるからね。でも配下の警団が悪くなったとしても騎士団が大きく変わることはないはずだ。西区の警団が悪くなっているのはウェザーが大領主になったからだ。俺も()の警団については不信感を持っている」


「そう……なん……だ」


 ステラはそう相槌を打ちながら、レンをちらっと見る。

 ロトの街でリアムが警団やウェザーの批判をした後――理由は別にあったが――拷問された時の様子を思い出し、レンがまた何かをするのでは心配になったのだ。

 だが、レンはリオトの発言を特に気にしている様子はなかった。

 特に理由がなければ、どうこうすることはないというのは本当なんだろう。


「それに少なくとも俺が子供の時に会った騎士は実直で優秀。利益を顧みず他者を救う正義感の強い人だった。――俺はその人に憧れている。仮に騎士が今の警団のようになってしまっていても、俺がこの手で変えてみせる!」


 リオトは自分の手をギュッと握った。それは硬い意思の表れ。どんなことがあろうと自分の正義を貫こうという想いがそこに凝縮されていた。

 クールな顔立ちをしつつも、中身は意外にも熱い人間なのかもしれない。


「ってことでリオトは騎士になるのが夢であの森で修行してたんだと!」


 な? 良い奴だろ? とダンはリオトの肩に腕を回す。

 『良い奴』という判断はステラ達にはまだできない――むしろダンは何故そこまで警戒心を解いているのか疑問だ。

 だけど、今の真面目な雰囲気から少なくとも悪い人ではないらしいと感じたステラ達は警戒レベルを少し下げた。


 そうして下げた途端、雰囲気がさっきより柔らかくなったと感じたのか、リオトは「それより――」と話題を転じた。


「もし次の街はどこに行くか決まっていないなら、俺の街に来ないか?」


 良かったらだけど、とそう提案してきた。


 確かにリオトの服装は軽装だし、ここら辺の街の住民ということは明白だ。

 誰のせいとは言わないが地図がなくなってしまって、行く宛の検討がつかなくなったし、旅の物資の補充もそろそろしておきたい。――もちろん地図を手に入れたい。

 だからリオトの提案は実に有難い話だ。


「まぁ良いんじゃねえか?」


「うん! 良いと思う」


「ぜひ行くよ! 剣の兄ちゃん!」


「ウィ~!」


 ダン、ステラ、レン、ウィーはそれぞれその提案を受け入れると、リオトは嬉しそうに微笑んだ。


「そうか。じゃあ案内するよ」


「ところでリオトの街は何ていう名前なんだ?」


「あぁ。『ジーム』という名だ――」


 こうしてダン達一向はリオトの提案に乗り、彼が住む街ジームに向かうこととなった。

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