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4-2 騎士を目指す少年 中編

「ったく……本当に置いていきやがって……」


 しばらくして、漸く痛みが治まったダンはそうぶつくさ言って起き上がった。


 手加減してくれたのか、初めて食らった時よりもレンの攻撃は耐えられた。――いや、あれは不意打ちでやられたようなもんだから、もしかしたら全く同じ威力だったかもしれないが。


 とにかく気絶することもなく、ダンは身体を確認するため撫でた後――結果どこにも跡が残らなかったが――律儀にも周辺に転がっているレンの玉を拾い始めた。


「くそ……あいつ、覚えていろよ……」


と言いつつ、1個1個丁寧に拾う。


 ああいう時のあんな感じの人は断ったら何されるかわかったもんじゃない、と身体が覚えているからだ。――主にダンの姉(キャロライン)のせいで。


 それから黙々と玉を拾い続けては自分のポケットの中に入れる作業をして、


「ふぅー! 終わったぁ!」


とダンの周辺、見える所全ての玉を拾い終えると、勢いよく立ち上がった。


「あのレンの野郎! すぐに追いついてやる!」


「――――おい! おいおい! おいおいおいおい! 兄ちゃんヨォ!」


「ん?」


 と、追いかけようとした時、後ろから野太い汚らしい濁声が聞こえてきた。

 振り返るといかにも野盗という格好の男が十数人いた。

 毛皮を身に纏い筋骨隆々。髪や髭は整えていないのかボサボサで、歯が黒ずみ欠けている者もいた。

 曲刀や棍棒といった武器をそれぞれ好きなように持ち、だが共通して皆ダンを薄気味悪い笑みで見ていた。


「なんだ?」


 そんな彼らを見ても、呑気に返事をするダン。

 危機感も緊張感もなく、ダンはいつも通り平然と構えていた。


 そんなダンの様子を知ってか知らずか、初めに声を掛けた真ん中にいる長い髪を無造作に結った男が自分の肩にかけていた曲刀をダンに向けた。


「その荷物、こっちに寄越しナァ!」


 正確にはダンの背負っている荷物だった。

 器用に曲刀を上下し、ダンの荷物を寄越せとアピールする。

 その様子にダンはしかめっ面を浮かべる。


「なんでお前らに渡さなきゃいけないんだ?」


「……『なんで』? プッ! お前ら、『なんで』だとヨォ!」


 何が可笑しいのかその野盗はダンの言葉に吹き出し、そう叫ぶと仲間も全員大笑いしだす。

 何も面白いことを言っていないはずなのに突然笑い出す彼らを見て、ダンは首を傾げる。


「何か可笑しいこと言ったか?」


「――――」


 その言葉に野盗達は更に腹を抱えて爆笑する。

 それはダンを馬鹿にするような笑い方で、世間知らずの良いカモを見つけたと舌なめずりする者もいた。

 どこに笑いのツボがあったのかわからないダンはただその野盗達をきょとんとした顔で見ているだけだった。


 そしてひとしきり笑った後、野盗はダンを見下すように顎を上げると、


「通行料だヨォ! 通行料!」


「通行料?」


「アァ! ここを通りたければ俺達に通行料を払う義務がお前にはあるんだヨォ!!」


 もちろんそんな義務はない。

 見つけた旅人をカモに金品を奪おうとしているだけだ。

 そしてダンは野盗にとって恰好の獲物。

 少年の顔立ちに背丈、危機感のない立ち居振る舞い。

 更に1人で行動しているに見える。

 1人に対し、こちらは大人数。圧倒的に野盗(こっち)の方が勝っているはずだ。

 頂けるモノは全て頂く。


「お前の荷物全て通行料としてイタダク!!」


「全て!?」


「アァ! 俺達に全部、寄越しナァ!!」


 曲刀をダンに向け、こっちが圧倒的有利になっているのを良いことに凄んでみる。

 少しでも何か変なことをしようものなら痛めつけて身ぐるみ全て剥いでやろう。


 だが、ダンは冷や汗一滴も垂らさず恐怖に慄いているわけでもなく、全然動じていない。

 それどころか何故か困ったような表情をし、


「悪いがそれはできない」


ときっぱりと言い切る。


「あぁ!?」


「この中には姉ちゃんが入れてくれた旅に必要なモノがたくさん入ってるんだ。――ミルキーのお守りも。だから全部上げることはできないな」


 まさかこの状況で断ってくるとは。

 この世間知らず様はどうやら自分の状況が一切わかっていないらしい。


「野郎ども!!」


「ん?」


 だったらちょっと痛い目にあってもらおうじゃないか。

 野盗はダンの周りに散ると、武器を構え出す。

 円状に囲んだことによりダンの逃げ場はなくなった。


「そんなことしてもやらねぇぞ?」


 未だ呑気に立っているダンに野盗は口角を上げる。

 このぼんやりとした表情が、ボロボロにされて泣き晴らした歪んだ顔になるのが楽しみだ。


「カカレェ!!」


 そう叫ぶと同時に野盗の1人がダンに向かって曲刀を振り、


「――――!?」


 ――金属音が鳴り響いた。


 野盗の攻撃はダンに当たることはなく、突然現れた片手剣に防がれた。


「1人に対して大勢で攻撃とは感心しないな」


 片手剣に、では正確ではない。より厳密には片手剣を持った男が野盗の目の前に突然現れた。

 ダンと同い年くらいの背格好。キリっとした眉に、涼しげな切れ長の眼。シュッとした顎のライン。紺に近い色の柔らかそうな髪の毛は耳が隠れるぐらいまで長く、所々カールになっている。

 防具などは何もつけていなくて、動きやすい軽い衣服ではあるが、そのベルトには片手剣の鞘が立派に取り付けてあった。

 右手で持った片手剣で曲刀を弾くと、持っていた野盗の男は後ずさりした。


 突然出てきたその男に野盗はもちろんダンも目を丸くし、動きが止まる。

 男は剣を構え警戒を高めながら後ろにいるダンを見ると、


「安心しろ。助けに来た」


と涼しげな顔でそう言った。


「…………プッ……」


 その言葉に再び野盗達は大笑いする。


「『助けに来た』? お前、この数がわからねぇのカァ!? たかが1人増えたところで意味ねぇヨォ!」


 そしてその野盗はダンを笑いながら指差すと、


「それに! そこのガキはビビッて動けねぇようだしナァ! 実質、1対多ダァ!」


「……問題ないな」


 だが、その男は眉1つ動かさない。


「そもそも俺は困っている旅人を助けるためにここに割り込んだのだ。1人で充分。それに――貴様らのような者が何人いようと全て倒すつもりだ」


「あぁ!?」


 男の煽り文句に野盗は笑うのを止める。

 その言葉は、つまり自分が圧倒的に野盗達より上だという意味。

 野盗達は一瞬にして厳しい表情となる。


「おいおい! キザな兄ちゃんヨォ!! なめんのも大概にしろヨォ!! こっちはナァ!! ここら辺の賊をぶち殺し束ねた山賊の大頭バンディード様の下にもついたこともあるんダァ!!」


「つまり下っ端か」


「誰だか知らないが、つまり下っ端ってことじゃないか」


「アァ!?」


 ダンとその男がほぼ同時に口を開いたその言葉に野盗達は更に怒りを顕にする。


「お前ら、生きて帰れると思うなヨォ!!」


 その掛け声と同時に野盗は武器を構える。

 その表情は険しく――さっきまでの気色の悪い笑みよりは幾分かはましだが――青筋を立て怒気を漲らせていた。


「君は逃げた方が良い」


「ん?」


 そんな野盗達のよそに男はダンにそう話しかけた。


「俺が逃げ道を抉じ開ける」


 だが、その言葉を聞いて従う(ダン)ではなかった。

 背負っていた荷物をドスンと落とすとその男の肩に手を置き、


「おいおい。それはあんまりじゃねぇか?」


と不敵な笑みを浮かべる。


「こう見えて俺もちょっとは動けるんだぜ?」


「……そうか……ならば背中を頼む」


「おう!!」


「死ねぇぇぇええエェ!!」


 ダンが言い終わるかどうかのタイミングで野盗達は雄叫びを上げ向かってきた。


★★★


「お前ら!! 覚えてロォ!!!!」


 顔を腫らし、手足に切り傷や打撲痕をつけた男達。

 十数人もいた彼らはそんな捨て台詞を吐いて、その場を逃げるように去っていった。


「一昨日きやがれー」


と何らかの作業のように、こういう決まりでもあるかのように叫ぶダン。そして剣を携えた男の身体には傷1つ、汚れもなかった。


 ダンは荷物を拾い、背負い直すとその男の方を向いて


「いやーそれにしてもあんた強いなぁ!!」


と笑みを浮かべる。


「君も充分強いじゃないか。素手で剣相手に勝てるのはなかなか出来ることじゃない」


「それにしても助かったぜ! ありがとうよ!」


「ふん。君なら、1人でも大丈夫だったんじゃないか? あぁ、そうだ」


「ん? 何だ?」


「名前を教えてくれないか? ここで会ったのも何かの縁だ。俺はリオト・ヘリックスだ。よろしく」


「俺はダン! ダン・ストークだ!」


 リオトが差し伸べた手をダンは笑顔で握った。


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