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3-12 旅の同行者

 数日後。


「グスッ……グスッ……」


 ブロードが立ち去った後、ロトの街でダン達はしばらくの間、英気を養った。

 ダンの傷はウィーとの合体した時のオーラのおかげで深刻なダメージはなく、軽傷。

 数日もすれば傷も残らず回復するということで、その間ロトに滞在することにしたのだ。


「グスッ……グスッ……」


 リアムの計らいで治療代も宿代もタダ。

 さらにはダンの希望がなんとか通り、ブロードによって切られた警団達も治療してくれた。

 まぁ警団に嫌悪感がある中でだから、かなり渋々という感じだったが。


「グスッ……グスッ……」


 ただ――――、


「もうぉ~いい加減泣き止んでよ~」


 後ろをトボトボと歩くダンにステラは困ったようにそうお願いする。

 ダンが回復し、ロトの街を出てから道中ずっと落ち込んでいる。


 まぁそれもそのはず。


「だぁってよ~…………冒険者カード……(づぐ)っでぐれながっだんだぞぉ~~~~!」


「それはそうだけど……」


 そう。ダン達はロトの街で冒険者カードを作ることが出来なかったのだ。






 ロトの街に出る直前。

 傷も治り漸く歩けるようになったからとダン達は意気揚々と冒険者ギルドのロト支部に足を運んだ。

 だが、ギルドの受付で冒険者カード発行を申し出ると、受付嬢は渋い顔をする。


 そして誰かを呼びに行ったと思うと、ロトの支部長が苦い顔で


「申し訳ないが、ここで君達に冒険者カードを作ることはできない」


とダン達に頭を下げてきた。


 曰く、


「君達がブロードを追い返してしまったんだろう? そのせいで君達はもちろん、もしかしたらロトの街も警団に目を付けられてしまったかもしれない」


 ブロードは警団ウィールド西区支部の警団長。

 西区における警団のトップである。

 つまりダン達は西区で警団に反抗した者――要する罪人に近い存在となってしまった。

 そしてもちろんその一件はロトの街で起こった。

 だからもしかしたらロトの街も何か報復があるかもしれない、と支部長は心配しているのである。


「そんな君達にここで冒険者カードを発行しようものなら、ただでさえ危険な状態の我々はもっとひどい目に合うかもしれない」


 冒険者カードには発行した街も情報として記されている。

 警団に歯向かった者にカードを発行してしまえば、必ずウェザーやブロードの耳に伝わり、ロトの街を更に追い詰めるかもしれない。

 冒険者ギルドの支部長として、またロトの街に生きる者として、こればっかりはどうしようもなかったのだ。






「仕方がないよ。次の街でお願いしよう?」


「ウィ~……」


 ずっとグズグズ言っているダンを慰めるステラ。

 ウィーもまたダンの足に手を当て、同情していた。


「――ぅん……」


 ステラとウィーにそう返事し、ダンは涙を拭った。


「ありがとうな……お前ら、優しいなぁ」


「――――ぉーい……」


「まぁこればっかりはね~……ダン、冒険者カードを作るってシエド村に出る時からずっと言ってたから」


「ウィウィ」


「でも……次の街でもダメだったら……」


「――ぉーい……」


「きっと大丈夫だよ! 前向きに行こうよ」


「ウィ~!」


「お前ら…………」


「おいってば!!」


「うっせぇな!! なんだよ――って……?」


 ダンの後ろ側から怒鳴る高い声がし、ステラ達との会話を邪魔されたことに怒ったダンが振り向くとそこには、警団と一緒に連れ立っていたフードを被った少女がいた。


「お前……どうして?」


「いやぁ~……警団と一緒に逃げそびれちゃってねー。急に発車するんだよ? 信じられる?」


 ばつが悪そうに頭を掻く少女は、だが、それほど恥ずかしく思っていないのか、おどけてそう笑う。

 だが、ダン達はきょとんとしている。

 逃げそびれたとするなら、今現在も治療を受けている警団達と一緒にいればいい。


「いや、それは同情するが……なんで、ここで俺達に話しかけるんだ?」


 なのに、少女はこのロトの街から出た所でダン達に話しかけた。

 それにダンは疑問を持った。

 話したいことがあるならロトの街の中で話せばいいのに、と。


「兄ちゃん達、これから東に向かうんだろ?」


「あぁ」


「あたしも元いた街、西区で最も東に位置する街『バートン』に急いで戻らなくちゃいけない用があってね」


「――――」


「だからあたしも一緒に連れて行ってよ!」


「はぁ!?」


 少女が話しかけた理由。それはダン達の旅への同行のお願いをするため。

 陽気に――しかも当然許可できると思ってそうに――そう要望する少女だが、彼女の願いをダンは簡単に承諾できるはずがなかった。


「なぁんで俺達がお前を連れて行かなきゃいけないんだよ? お前、俺達に何をしたのか覚えてないのか?」


「もちろん。覚えているよ? ご飯運んであげた」


「ちげぇよ! リアムのおっさんを痛めつけて、俺達の故郷を危ない目に合わせようとしたじゃねぇか?」


「あぁ……そっち?」


「そっちしかねぇよ!! そもそも急いでいるんなら俺達を無視してさっさと行けばいいじゃんか!」


「ひどい! こんなか弱い少女に1人で旅させろっていうのか!? 野獣や魔物に襲われるかもしれないし、山賊とか野盗に良いようにされてしまうかもしれないのに!?」


「か弱いってそんなキャラじゃないだろ? さんざん俺達を脅しやがってさ」


「とにかく連れってってよ~!」


「ダメだダメだ!」


「私は良いと思うけどな~」


「ステラ!?」


「姉ちゃん!!」


 ダンと少女の口論をぼんやりと見ながらそう口を挟むステラ。

 その言葉にダンは信じられないというような驚きの声を上げ、少女は味方が出来たと両手を組んでステラを見る。


「な? どうして? こいつ警団の味方だったんだぞ?」


「ん~……なんとなく?」


「はぁ!?」


「まあまあ。たぶんこの娘、悪い娘じゃないと思うよ?」


「いや、明らかに悪かっただろう?」


「むしろ良い娘かも?」


「――――」


 ダンは目を丸くし、ステラが言った言葉にあんぐりと口を開ける。

 ステラには何が見えるのか。

 この少女が良い娘というのは明らかに間違っている。


「それに――」


 だが、そうダンが考えている間にステラは彼女を見て、


「冒険が楽しくなりそうじゃない?」


と微笑んだ。


「はぁ……」


 ステラのその言葉にダンは頭を押さえため息を吐く。

 何らかの葛藤と勝負するように、頭を左右に振ると、


「敵との旅もまた冒険か……」


と冒険の魅力の方を優先させ、


「あぁ! わかったよ! 連れて行こう!!」


「やったー! 兄ちゃん達、ありがとう!」


「ただし何か変なことしたら……!」


「もちろん! ――そんなことしないけど、肝に銘じておくよ!」


 フードを被った少女がダン達の仲間に加わることとなった。


「――あ……そういえばお名前、なんて言うの?」


「あぁ……そういえば教えていなかったか……」


 ステラの質問に少女は答えるかのように被っていたフードを脱いだ。


 赤髪のボブに翡翠の瞳の10歳くらいの童顔の美少女。

 左に八重歯が生え、首には赤いストールを巻いていた。


「あたしの名前はレン・クレイン! よろしくな!」


「うん! よろしくね!」


「ウィー!」


「……けっ……」


「こら! ダンも挨拶!」


「…………よろしく……」


 嫌々そうにダンはレンにそう言うと、レンはニヤニヤと笑う。


「よろしくねぇ~……兄ちゃん」


 特に何も煽る言葉はないが、言い方が妙にムカつく。

 だが、ここでムキになっても仕方ないから、とダンは「ふん」とそっぽを向き、


「じゃあもう行こうぜ、次の街に――」


「――お~~~~い!」


とダンが歩こうとした所でまたしても邪魔が入った。

 怒りを顕に、


「今度はなんだ!?」


と後ろを振り向くと、


「おっさん!?」


 声の先には松葉杖を懸命に動かしているリアムの姿があった。


「はあ……はあ……良かった……間に合った……」


 汗をかきながら、ダン達の元へ着くと、ちょっと休憩するかのように松葉杖に体重を掛ける。


「どうしたんだよ?」


「いや……君達に……これを渡そうと思ってね!」


 呼吸を乱しながら、リアムはポケットの中から何かを取り出すと、ダン達に見せる。

 それは木の札だった。長方形に鈍角の小さい三角形を取り付けたような五角形に、大きさはダンの掌にすっぽり収まるくらい。

 中には

『この者がウィールド王国民であることを証明する』

と言った内容が難しい言い回しで書かれ、更にウィールド王国の王族のマークが記されていた。



「何だこれ?」


「『通行手形』だよ」


「通行手形?」


「商人や吟遊詩人などが国外に赴く時に使う所謂、身元証明証みたいなものだ」


「ふ~ん……」


「君達には必要だと思ってね」


 通行手形を見せれば、それだけでその者がウィールド王国の人間であることがわかる。

 ロトの街で起こった一件はこの通行手形があれば、すぐに解決していたかもしれない。――尤もブロードはダン達を密入国者と決めつけ、通行手形なんてないと思い込んでいたのだが。

 今回のような事件が次の街でも起こらないとは限らない。

 シエド村を知らない人なんてまだたくさんいるのだから。


「今回のように警団に出身地を聞かれても、通行手形を見せればおそらく問題ないはずだ」


「でもどうして?」


 ステラはリアムを不思議そうに見る。

 通行手形を貰えるのはダン達にとっては有難いことだ。

 だが、それをくれる理由がわからない。これを渡すメリットがリアムにはないからだ。


 リアムはそんなステラを見て、ふっと優しく微笑むと、


「君達がブロードを殴ったせいで、確かにロトの街は目を付けられてしまったかもしれない」


「――――」


「だけど、初めてロトの街に来た時、私を庇ってくれただろう? あのままダン君が飛び出してくれなかったら私は死んでいたかもしれない。その恩に報いたくてね。せめてものお礼だよ」


「でも……それは私達が来なければ――」


「確かに…………君達が来なければ、私は怪我すらもしなかったかもしれない」


 リアムの言葉にダンとステラはピクッと体を震わせる。

 リアムがブロードに撃たれた原因。

 その直接的な原因となったのは、リアムがダン達を助けようとしたことだろう。

 ダン達がロトの街に訪れるのがもう少し遅ければ、もしくは――警団達が来る前に――もう少し早く着き出発していれば、リアムは何事もなくやり過ごしていたかもしれない。

 警団やウィールド西区の事情を知っていれば、直前にロトの街に行くのを辞めることができたかもしれない。


 自分達が原因でリアムを怪我させしまったこと。

 恩返ししたいというリアムでもそれについては恨み言の1つは言ってくるかもしれない、とダンとステラは下を向き目を閉じた。


「だけど――君達が来なくても、私はいずれ何処かで殺されたかもしれないんだ」


 ダンとステラは思わず顔を上げた。

 見ると、リアムは優しく、だけど気まずそうに苦笑いをしていた。


「私もシエド村のことを知っていたからね。西に向かおうとしていたブロードに教えて、同じように撃たれていたかもしれないし、そもそも私は初めから何故かブロードに嫌われていてね」


 その理由は定かではない。

 リアムがウェザーや警団について批判しているのを聞いていたかもしれない。

 人からよく言われるこのお人好しな性格が原因かもしれない。

 もしくは、天涯孤独のこの身がどこかブロードの癪に障ったのかもしれない。


 とにかく、最初ブロードと会話を一言、二言交わしている間にだんだんと見下すような、汚いものを見るような、嫌悪するような眼で見られていることにリアムは気付いたのだ。


「だから、もしかしたら君達が来てくれなければ、私は今頃この世を去っていたかもしれないんだ」


「リアムさん…………」


「それに――本音も言うと、ブロードをぶっ飛ばしてくれてスカッともしているんだぜ」


 リアムは松葉杖を支えに、右拳を上にして腕を90度に曲げその二の腕を左手で叩いて笑った。

 リアムのそういう優しい部分とスッキリしたという発言に漸く納得がいったダン達はリアムと一緒に笑顔になる。


「そういうことなら、喜んで受け取るよ! ありがとう! おっさん」


「君達の今後に期待している。あぁ――あと君にも……」


「え? あたしにも?」


 ダンとステラ渡したのと同じ通行手形をリアムはレンに手渡した。

 まさか貰えるとは思っていなかったレンは目を丸くし、その通行手形とリアムを見比べるように頭を上下させる。


「あぁ……君の事情は知らないが、持っておいた方がいいと思ってね」


「…………」


 リアムの言葉を聞き、じっとリアムを見つめるレン。

 それから次第に悪戯っ子のような笑みを浮かべると、


「そっか……おじちゃんはお人好しだね~。わかった。貰っておくよ」


とその通行手形をポケットの中に忍び込ませた。


「よし! じゃあ今度こそ行くか!!」


 そしてダンは叫ぶと荷物を背負い直す。


「気を付けて」


「あぁ! おっさんも元気でな!」


「通行手形ありがとうございました。お世話になりました」


「おじちゃん、じゃあね~」


「ウィー!!」


 ダン、ステラ、レン、ウィーは思い思いにリアムに挨拶すると、一向はリアムに手を振りつつ東へ歩き出した。


 こうしてロトの街での一件は終わった。

 次はどんな街なのか。どんな面白いことがあるか。そして冒険者カードを作ることができるか。

 ダン達は次の街に思いを馳せ、ロトの街を後にした。

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