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3-11 ダン・ウィーvsブロード

「ま~ずは! 生意気にも抵抗した貴女からで~す!!!!」


 そのスピードは銃弾と同じくらい早く。

 避けることも自分を守ることも、つまりは何も自衛する術を試せず、


(――当たる…………ッ!)


と反射的に目を瞑ることだけしか出来なかった。


「――――…………やは~り~そうきま~すか~…………」


 ステラの前にはダンの右腕とその前に白い障壁が現れていた。

 右腕にも刺傷はなく、刃先は誰も傷つけたりはしていない。


「ですが! 私のサ~ベルは貴方のバリア~に少しは効くようで~すね~~~!!!!」


「――――!?」


 サーベルは障壁を少し貫いていた。

 今まで絶対防御として成り立っていた障壁の破れ。

 刺突には弱いのか、ブロードの攻撃がギフトによるものだったのか。


 どちらにせよ、それはステラを動揺させ、ブロードを優越感に浸らせるのには充分だった。


「で~は貴方から!!」


「ダ……!」


 ブロードは障壁に刺した自身のサーベルを抜くと、今度はダンの方へ。

 サーベルの柔らかさを利用して、ダンの身体をサーベルで巻き付ける。

 ステラがダンの方を振り向く頃には、完全に身動きが出来ないほどガチガチに締め付けられていた。


 オーラを纏っているにもかかわらず、締め付けられると刃が当たった部分から軽く血が吹き出す。

 それを見て、ステラは顔は真っ青になる。


「そ……んな……」


「通常だったらこれだ~けで~切り刻~むことができま~すが~さすがの防御力で~すね~……」


「――――」


「で~すが!!」


 ブロードはそう叫ぶと、サーベルを思いっきり引く。

 サーベルが巻き付いたダンの身体はそれと連動して宙に飛ぶ。

 両刃によって切られ、手が不自由で身動きが取れない。

 ブロードはサーベルをぶんぶんと振り回す。

 右に左に、前に後ろに。急激な方向転換。

 サーベルに合わせて飛ぶことが不可能なダンの身体は刃が食い込み、余計に血が噴出する。


「は~い!!!!」


 そして、充分に振り回したところでブロードはダンの身体を地面に叩きつけた。

 砂煙が舞い上がる。


「これならどうで~すか~?」


 抵抗の出来ない生意気な人間を蹂躙できる愉悦。

 ブロードは歯茎が見えるほどの笑みを溢した。


 守りがいくら強固でも、さすがにこれだけやれば動けまい。

 あの煙の中では彼は地面に横たえ、瀕死の状態になっているだろう。



 だが――、


「……おやぁ……?」


 煙が時間が経つと共に消え中の状態がわかるにつれ、ブロードの笑みも消えていく。


 地面に横たわる者はいなく、瀕死にもなっていなかった。

 煙に映るシルエットは横に細く、縦に長い。


「貴方~いい加減、しつこ~いですよ~……」


 ダンは立っていた。

 血を流し、サーベルは巻かれたまま。

 だが、それをものともせず仁王立ちし――、


「――なるほどな……」


「――――!!」


 その表情は――笑っていた。


「貴方、自分の状況わかっていな~いので~すか?」


 その不適な笑みに――いったい何が可笑しいのかわからず――多少怯んだものの、それでもダンを捕らえたままという有利を思い出し、ブロードは冷や汗を垂らしながらもそう聞く。


「状況……?」


「貴方は私のサ~ベルに捕まっていま~す。このサ~ベルに捕らえられたら決して逃げることが~できませ~ん!! さらに~脱出しようと藻掻く度に~貴方の身体は傷付いていきま~す!!」


 ギチギチに縛られたサーベルは簡単に脱出することはできない。

 更にダンがちょっと動く度に身体を切り裂き、サーベルにも血がたらたらと伝ってくる。

 そしてその縛りとダメージを悪化させるようにブロードもぶんぶんと振り続けていた。


 だが――。


「――なんなんで~すか~!?」


 ブロードは不快な表情を顕にし、更にサーベルを振り回しているにもかかわらず


「何故! 貴方は笑っているので~すか~!?」


 ダンはその場から微動だにせずただ笑っているだけ。

 しかもブロードがそのまま投げ飛ばそうとしても、今度は地に足がついたように動かすことができなかった。


「…………そのサーベルの動きを見切るのにも手間がかかりそうだからな」


 不規則に、複雑な動きをしたサーベル。

 そのサーベルを避けてブロードに近づくのも難しそう。

 ならばウィーのオーラを信頼して受けてしまえば、サーベルの動きは止められる。

 思惑通り、ステラへの攻撃が失敗に終わると、ブロードはダンに刃を向けてくれた。


「それにステラもおっさんも傷付くことがなくなった」


 自分がサーベルを受けることで、関わった人を守ることができた。

 サーベルが自分を縛っている限り、他の人が傷付くことがない。


 そして――、


「お前の攻撃に興味があった」


 どんな攻撃をするのか。その攻撃がどのくらいの威力を持っているのか。サーベルの特性はどんなものなのか。そしてその攻撃に自分は耐えられるのか。

 攻撃を避けることよりも好奇心が勝ってしまった。


 そして自分の力がブロードに通用することがわかった。

 だから思わず不敵な笑みを浮かべてしまった。


「だけど、もういいや」


 纏うオーラは大きく激しく。

 そして巻いたサーベルも大きく震える。


「お前のギフトは俺達には効かない」


 巻かれた部分からは血しぶきがどんどん出てくる。

 サーベルからはどんどんパキパキと金属が破壊されていく音が聞こえてくる。


 充分きつく締めたはず。逃げられるはずがない。壊れるわけなんてない。


(これはウェザー様が私にくれた最強の贈り物(ギフト)!! 壊れるはずなんて――!!)


 ブロードは更にダンをきつく締めようとして――――、


「――――!!」


 だが、金属が弾ける音がすると、そのままブロードのギフトは破砕した。


「あぁぁぁああ~~~~~~!!!! ウェザー様が私に~!! 私に~~!!」


 破壊されたギフトは、シー玉は元に戻ることはない。

 ウェザーが授けたシー玉は高価であり、それ相応の期待を込められているはず。

 それが破壊されたということは、敬愛するウェザーに対する侮蔑、侮辱、裏切り。

 

「貴様~~~~~!! ――――!?」


 だが、そんなブロードの叫喚を無視するかのようにダンは姿を消し、そして――、


「――――!!」


 一瞬の隙にダンはブロードの懐まで潜り込んだ。

 眼はブロードを睨みつけ、そして右拳にオーラを集中し始めた。


「これで終わりだ! ブロード!!」


 ニヤリとブロードに笑いかけたダンの拳にはオーラが集まり、そして他の部分は薄くなる。

 だが、構わないと言わんばかりにダンの拳に集まったオーラは脈動した。


「――――ひぃっ!!」


 その攻撃。

 このまま受けるとヤバいと認識しているが、ブロードの身体は怯んで動くことができない。


 オーラは次第に収束し、白くくっきりとしていく。


「喰らえ!!」


 最後の叫び。

 ダンは右に溜めたオーラを一気に解放し、それと同時に、右足を蹴り、腰を回し、腕を回し、身体全身のバネを活かし、その一発をブロードに――――!


『竜撃《ドラゴン・インパクト》――――!!』


 叩きつけられたオーラはブロードの鳩尾付近で爆発。


「グヘェ……!!」


 ブロードの身体は嗚咽と共に吹き飛んだ。

 倒れている警団を超え、一直線になっている道路の向こう側。

 ちょうど逃げた馬車がある場所に突っ込んだ。


「「ウワァァアア!!」」


 安全地帯のはずの場所に急に落とされる襲撃。

 油断はしていなかったが、来るはずがないと思っていた場所から勢いある攻撃に警団達は驚きとショックの叫びを上げた。






 しばらくの砂煙と瓦礫がパラパラと落ちる音が続く。

 だが――、


「…………て、撤退!!」


 馬車の中から、口から泡を吹かせながら、満身創痍のブロードはそう叫んだ。


「お前た~ち!! 私を連れて撤退しなさ~い。行けない者はそのまま置いていきま~す!! ――――」


「「ハ、ハッ!!」」


 戸惑いがちの警団の返事を聞くとブロードはそのまま倒れるように馬車の中で意識を失った。

 馬車付近にいた警団達はそのまま倒れている警団を置き、馬を走らせる。


 行先は東。シエド村とは逆方面に逃げるように去っていった。


「はは――ひっでぇ……」


 そのいきさつを見ていたダン。

 疲れて弱った笑みを見せながらそう言うと、そのまま倒れた。

 倒れる途中、オーラは完全に抜け、そして隣に現れたウィーもまたうつ伏せ状態でヘロヘロになっていた。


★★★


「――ダン!? ウィー!?」


「んぁ?」


 心配そうに自分を呼ぶ声が聞こえてダンは思わず目を開けると、目の前には眉を顰めて自分を覗き込んでいるステラの顔があった。


「大丈夫!?」


「…………身体が全く動かないこと以外は大丈夫だ」


「ウィ~……」


 冗談交じりで笑うダンとヘロヘロになりながらも手を上げるウィーを見て、ステラは少しほっと息をついた。

 この現象は前にも見たことがあった。――遺跡で魔物タウロスを倒した直後と同じだ。

 どうやらダンとウィーの合体はそれほど負荷がかかるようだ。

 前と同じなのだとするとしばらく休めば動けるようになるだろう。


「ブロード……追い返したぜ……」


 そう言って、親指を立てるダンを見て、ステラは安心したように微笑む。


「ふふ……それよりなんなの、あの叫んでたの」


「いや、なんか技名叫んだ方が力出るかなって思って――」


「――君達、無事か?」


 その時、焦ったように、心配するように近づいてくる者がいた。


「あぁ……おっさん」


 リアムだ。

 壁に手を置き包帯が巻かれた方の足を引きずって来るリアムはダンの身体を見ると、


「ひどいな……急いで治療しないと……」


「いや、俺より……あいつらを頼む」


「あいつらって警団か……――これはひどいな!」


 ダンが目線でブロードに斬られた警団達のことを教えると、リアムは血相を変える。

 ダンよりも切り傷があり、それに深い。血も相当出ていて、幸いにも全員まだ息がある状態だが、危険なのは変わりなかった。

 

「よし、わかった! 警団の、となると渋る者もいるかもしれないが、知り合いの医師に頼んでできるだけ便宜を図ってもらえるように努力しよう!」


「おぉ……ありが……と……」


「気にするな。――ってダン君!?」


 ダンの言葉が次第に途切れ途切れになってきたかと思うと、そのまま目を閉じてしまった。

 切り傷だらけ、血を流しているダンが急にしゃべらなくなった。

 焦ってリアムは驚きの声を上げた。


 だが、


「――スー……スー……」


「…………なんか……寝ちゃったみたいですね……」


 心配したのも骨折り損。

 ダンはステラの言う通り、ただただ寝息を立てて眠ってしまっただけだった。


 リアムはそのダンを見て、ガクッと肩の力が抜けると、「ハァー」と安心したようにため息をついた。


「――とりあえず、医師を呼んでくるからそのままここで待っていてくれ」


 リアムはそう言うと、ステラ達の返答を待たずに医師を呼びに行った。


 リアムが行くのを見届けたステラ。

 街の路地に入っていくのを見るとステラもダンの隣で、ウィーに手をやりながら、力が抜けたように倒れた。


 シエド村からロトの街への旅。

 そしてロトの街での牢屋生活と警団達による緊張。


「疲れたぁ……」


 心の底から出た言葉をぼやき、ステラも寝息を立て始めた――――。



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