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3-10 ブロードのギフト

「なんで~すか!?」


 突然の振動にブロードは驚きの声を上げた。

 音が鳴った方を見ると、建物の側面から砂煙が上がっている。

 今自分がいる馬車がある所とはだいぶ距離が離れているおかげで、急な爆発が起きたとはいえ、ブロード以下警団達やウェザーへの手土産(ステラ)には何1つ傷がついていない。

 せいぜい馬車に繋がれた馬が驚き、雄たけびを上げながら立ち上がったくらい。――幸いにも逃げることはなかったが。


 だが、胸騒ぎがする。

 あの場所で爆発が起きること自体あり得ない。

 にもかかわらずこうして今目の前にはその状況を覆い隠す砂が。


 住民のせいか? いいや、人の気配はなかった。

 じゃあ何故? どのように?

 砂煙が舞い上がっているすぐ横には何があった?


 警戒を怠ることなく、そうやって考えている間に徐々に煙が晴れてきた。

 だんだんと薄くなる砂の幕の中、ある影がゆっくりと建物から出てきた。


 それが何なのかブロードは目を細め注視すると、


「貴方は……?」


「――! ダン!!」


 嬉しそうなステラの声。

 それを聞いた瞬間、ブロードの動きは早かった。


 彼が最も嫌がることは――――!!


 ホルスターから抜き、構えた銃の先にはステラの脳天。

 感情のない乾いた音が、人を殺すためだけに鳴る音が、その場に弾ける。


 ――だが、


「――――!!」


 その弾がステラの頭を貫くことはなかった。

 ブロードとステラの間に突然現れた白い障壁。

 障壁どころか、白の衣がステラを覆うようにして彼女を包み込んでいた。


「よお」


 そしてそんな彼女のすぐ後ろには――。


「また会ったな」


 ステラと共有して白いオーラを纏うのは――。


「間延び野郎」


「――――!! 撃てぇぇぇええ!!」


 ブロードの掛け声に合わせて警団達が一斉に銃を構え、即座に射撃。

 ダンとステラを中心に至近距離の連射。

 銃弾が他の警団に当たることなく、避けられているというわけでもなく、全て命中している。

 しているはずなのに、警団達は弾がなくなるまで撃ち続けた。


「ハァ……ハァ……これでどうで~すか~……!?」


「――あ?」


「――――~~~~ッ!!」


 しかし、その弾達は彼らの肉に、骨に、食い込むことはなく、ダン達の周りに顕現した白い障壁がそれらの弾を受け止めていた。

 運動量がなくなった弾はポロポロと落ち、全て落ちた瞬間にダン達はその場から消えた。


(どこに行った?)


 ブロードは辺りをキョロキョロ見渡すと、先ほどの砂煙が舞っていた場所の手前。そこに白いオーラを纏うダンとステラの姿があった。


 一瞬の出来事過ぎてステラはぽかんとした表情を浮かべているが、ダンの方はえらく不機嫌。

 それから、ダンは目一杯、息を吸い込むと、


「お前ら、至近距離で撃つな! 耳がキーンってなったじゃねぇか!!」


 警団達に文句をぶちまける。


 一瞬でステラの元へ行き、さらにあの距離まで跳ぶスピード。

 銃弾を全て防いだ防御力。

 しかし、ズレた文句を言うダン。

 警団達は目を丸くし、口をあんぐりと開け、ダンを驚きの表情で見る。


「全くお前ら常識っていうものがないのか。俺だったから良かったものの!」


「ねぇ……ダン、私もいたんだけど」


「ステラは俺が耳抑えてあげたじゃねぇか!」


 先ほどとは打って変わって緊張感のない会話を繰り広げるダンとステラ。

 ステラに至っては恐怖に歪んだ表情から一変、安心しきったような顔をしていた。


「ダン・スト~ク……」


「あ?」


 低い声が響いた。

 見ると肩をわなわなと震わせているブロードの姿が。

 顔よりも伸びた髭もそれに合わせてピクピクと動いている。


「貴方~壁をぶち破って来たんで~すか~? 随分非常識で~すね~」


「それはこっちのセリフだ」


「それに~貴方、ギフト持ちの方で~したか~」


 ブロードはそう言うと持っていた銃をホルダーに収め、サーベルの柄を掴んだ。


「――――?」


 そのまま鞘からそれを抜くと、しかし刀身がない。

 変哲な剣と言ってもいいのかわからないその代物を見て、ダンは首を傾げた。


「――なんだ? 折れてんのか? それ?」


「いいえ~……これで正し~ので~す」


 さらにブロードは胸ポケットから半透明のガラス玉のようなものを取り出した。

 その玉を柄しかないサーベルの鍔にあった溝に嵌めると、大きさ・形がちょうどよく、気持ち良く装着された。

 そのガラス玉のようなものは、おそらく昨夜リアムが話していた――――、


「……シー玉……」


「貴女の言う通~り。私もまた~ギフト持ち~なので~す!」


 そう言ってブロードはシー玉を嵌めた部分を手で覆い隠すと、ギュッとその部分を握った。


「――――ッ!」


 すると、覆い隠した手の隙間から漏れ出て、その部分が強く発光しだした。

 まるでダンとウィーが合体した時のような強い発光。

 ステラは目を光から守ろうと、思わず手を翳す。


 徐々に光が弱まると同時に、光エネルギーを吸い取ったようにブロードの握ったサーベルの鍔からどんどんと金属の刃が伸びてきている。

 しかしその刃の部分。柔らかいのか伸びるごとに自重でしな垂れていく。

 それが地面についたとしても刃は伸び続け、光が消えた時には、その刃はブロードの身長以上の長さになっていた。


 その力ない垂れた剣を見るダンは目を丸くする。


「――お、おい。な、なんなんだ? これは!?」


「……なんでちょっと嬉しそうなのよ……」


 真新しい初めて見る珍しい代物。

 ブロードを敵と認識していながらも興味がそそられる。

 口角が自然と上がるのを抑えるのに必死。

 そんなダンの様子に気が付いたのか、ステラは呆れ顔でため息をつき、一方、ブロードは誇らしげな顔をした。


「ふっふっふっ…………これは騎士団の昇格を夢見~る私にウェザー様が授け~てくださった能力(ギフト)!」


「!! へ、へぇ…………!」


「シー玉さえあれば騎士団に昇格できま~すからね~」


「ほう! それでそれで!?」


 もう堪え切れないのか、隠すこともせずに興味津々な顔でダンはブロードの話を真剣に聞く。

 敵ながら何故か興奮している顔をするダン。

 その様子を見て、自分が褒められたかのようにブロードは鼻を高くする。

 

「もっと面白いものを見せてあげま~しょ~!!」


 そうニヤリと何かを企むように口角を吊り上げると、腕を大きく振り上げ、その勢いに合わせ――――。






 ――――サーベルを振り回した。





「お、お止めください! 警団長!! ――――ッ!」


「警団長! ここで振り回すのは!! ギャァァアア!!」


「どうか! ――――ゴフッ!!」


 サーベルは鞭のようにしなり、しかしそれは両側に刃がついてる。

 振り回す度に回りのものは傷付いていき、だから必然的に――――近くにある建物、馬車、馬、そして警団達はそのサーベルの餌食になっていった。

 警団の慌てふためく表情。

 手を、足を、胸を、顔を、首を、切り裂かれ、切り落とされ、切り刻まれ。

 ブロードに声を掛けても、その者が次の被害者に。

 馬は命の危機を感じ馬車ごと逃げ、それに準ずるように我先にと被害をそんなに受けていない警団達が馬車に乗り込んだ。


「どうで~すか~!? この力!!」


 存分に振り回した結果、ブロードの足元には逃げ遅れた警団達による血の海。

 満足げに両手を広げ、倒れた警団の1人を片足で踏む。


「ひどい…………」


「おやぁ?」


 口を抑え、真っ青な顔でステラはそう言うが、ブロードはそんな姿をニタニタと笑って見ていた。


「これがひど~い!? しかしこれらは私の部下で~す! つまりは私の奴隷!」


 舞台に立っているかのように、その上で演劇をしているかのように身振り手振りを大袈裟に、わざとらしく声を高らかに演説する。


「彼らをいくら傷付けても――問題ありませ~ん」


 その様はまさに狂気。

 壊れかけたおもちゃを踏みつけるが如く警団の背中を歩き、垂らした剣をずるずると引きずる。

 引きずっているもので誰かが更に傷付いてもお構いなし。

 自分のモノだと言い張り乱暴に扱い、だがしかし、その表情は――笑顔だった。


「さぁ。このサーベルの力、次は誰に向けましょう~か~?」


 鼻歌交じりに倒れている警団の上を歩く。

 剣を振り回し、誰かが傷付いたとしても、ブロードにとってはただの遊びだ。


「決めま~した~!」


 ブロードは一度、サーベルを地面に叩きつけ反動を付けると


「ま~ずは! 生意気にも抵抗した貴女からで~す!!!!」


 その刃先を一直線にステラに飛ばした。


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