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3-9 連れ去られたステラ

 ロトの街。牢屋のある建物の前。


「早~く歩きなさ~い」


 建物前には警団の馬車が停車していた。

 ブロードは手枷が嵌められているステラを引っ張るとその馬車に乗せようとする。


「あの……シエド村は本当に――――」


「ま~だ言いま~すか!? 貴女た~ちの妄想は聞き飽きま~した~! ――――」


 ステラがシエド村について話そうとするとブロードはそれを与太話だと決めつけステラを睨みつける。


「――おやおやぁ?」


 だが、何かに気付いた様子でステラの手枷を上にあげ、ステラの顔に自分の顔を近づけた。

 怯えた表情のステラに対して、ニヤニヤと舌なめずりする。


「貴女~……ウェザー様好みの顔をしていま~すね~……」


「――――ッ!」


「整った可愛らしい顔。綺麗な青い瞳。白い肌。艶のある金髪。胸は……少し寂しいで~すが、充分に他が補っていま~すね~」


「な……何を……」


「――決めま~した~!! 貴女を~ウェザー様に紹介しましょう~!!」


「そ……そんな! 道案内だけだって話じゃ!?」


「だ~れが道案内だけ(・・)と言いま~したか~? それに~貴女~は罪人! ここでは決定権は存在しませ~ん」


「――――」


 顔が真っ青になるステラ。

 ブロード曰く、自分がウェザーの好みの顔。

 それが本当ならば、そしてウェザーがリアムの言う通りの人物像であるならば、ステラは良いように弄ばれてしまうだろう。


「そして~! もし! 仮に! 万に一つもありえませ~んが! シエド村という村が本当にあ~るならば~」


「――――」


「……手土産が増えま~すね~……」


「――――ッ!!」


「お? 抵抗しても~無駄で~すよ~?」


 ブロードに引っ掴まれた腕をガシャガシャと横に振りブロードの手から逃れようとするが、全く動かない。

 ステラの力ではブロードの気持ち悪い笑みは崩せなかった。


 ステラだけではなく、シエド村の人々さえもブロードはウェザーに献上する気なのだ。

 自分はまだしも、何も知らない、心良い人達が乱暴されてしまう可能性があるのに、ステラは耐えられなかった。


 だが、ブロードから逃れることはできない。


「貴女は~もう私に従うしかな~いので~す! 諦めなさ~い……!」


 そう言って、ブロードはステラの腕を強引に引っ張り、馬車の中に無理やり入れようとする。


「いや……離して……!!」 


 このまま為す術なくウェザーの慰み者になりたくない。

 その上、シエド村の人々が道連れになるなんてもっと嫌だ。


 だが、抵抗しても無意味だと自分でもわかる程、力の差は歴然だった。


 ブロードの手により、そして周りにいる警団達により、ステラは奈落へ引きずり込まれそうな感覚で馬車の中に――――。


 最後に思い浮かぶのは――、


(ダン……ウィー……助け――)


 ――そして、轟音が鳴り響いた。


★★★


 時間は少し遡る。


「な……何だ……!?」


 少女は突然起きた現象に驚きの声を上げる。

 白い光に牢屋が包まれたかと思うと、その光は次第に収束していった。

 急な発光による目の眩みが収まり、少女は鉄格子の中を覗くと、そこには白い半透明のオーラを纏ったダンの姿があった。


「よし! ……やっと成功した!」


 満足そうな笑みを溢すダン。

 自分に纏ったオーラを眺め、試運転というように牢屋の中で素振りをする。


「行けるな! ウィー!!」


『ウィー!!』


 そしてどこに消えたのか、あの子竜の名を叫んだと思うと、ダンは鉄格子を引っ掴む。


「ふぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」


「なっ!」


 そんな唸り声を出しながら、そのままダンは鉄格子を左右に引っ張ろうとするから、少女は驚きの声を思わず上げた。


「な、何やってんのさ! そんなことして! 抉じ開けようとしてんのか!? 無理だよ! ――今までだって無理だったんだろ!?」


「今までは今までだ。誰が無理だって決めたんだ……」


「――――!!」


 天井がミシミシと音を立てる。地面に少しヒビが入っているような気がする。

 鉄がその圧力に耐えきれていないのか、形が少しずつ変わっている気がする。


 少女は思わずスリングショットを構えた。


「い、いい加減にしてくれ! これ以上何かするなら、あのおじちゃんを撃つよ!」


「――へっ……やってみな……」


 そう自信満々の笑みをするダン。

 その煽りに多少ムッとした少女はすぐに引き延ばしていたゴム紐を解放した。


 ――だが、


『ウィー!』


「……そんな……」


 その玉はリアムの元には届かなかった。

 ダンの身体にも当たっていない。

 白い障壁が突然進路を阻んだのだ。


「俺とウィーをなめんなよ?」


 ダンは更に力を込め、鉄格子を横に引っ張る。

 鉄格子はいよいよ耐え切れなくなり、嫌な金属音を響かせると、ぐにゃと横に広がった。

 1人分は余裕で通り抜けられるほどの大きさ。

 少女が動揺している間にダンは意気揚々と外に出た。


「な? 無理じゃなかっただろ?」


「――――」


 そう少女に笑いかけるダン。

 こう出られてしまうと少女にはもう何も出来ない。

 力関係は明らかだ。

 ダンを止めることはできない。

 ましてやこれからブロードに報告しようにも、おそらくダンの方が早い。

 大の男であるならば牢屋から出た時点で、廊下の奥にある扉を開けブロードの元まで少女が追い付けない速さで走ることができる。

 今のダンだったらもっと余裕だろう。


 まぁだが――、


「いや、無理だよ」


「ん?」


「ブロードは今頃姉ちゃんを馬車に乗っけている頃だ。あんたがどれだけ早くても間に合いやしない!」


「でもお前もいるじゃねぇか?」


 警団と同行している少女の存在。

 彼女がここにいる以上、ステラを馬車に乗せたとしてもすぐには出発しないはずだとダンは少女に問いかける。

 だが少女は首を振った。


「兄ちゃんが出たとわかった時点であたしなんか置いていくに決まってる!」


「――――」


「それに例え、間に合ったとしてもブロードはシー玉を――」


「なぁ、馬車があるのって方向的にあっちで合ってるか?」


 唐突にダンは壁側を指差す。ダンの指す方向には確かに馬車が停まっている。

 急な質問に少女は戸惑いがちに、


「うん。そうだけど……でも、それを聞いてもどうしようも――」


「――よし! ウィー! 行くか!!」


『ウィー!』


 皆まで聞かず、ダンはウィーの名を叫ぶと、右腕を後ろに引く。

 それと同時に纏ったオーラは右の拳に集中し、しかしそれ以外は若干薄くなる。

 不敵な笑みをするダンは、瞬間、身体全体のバネとオーラによる補助を利用して、拳を壁に――――。


 そして激しい音と共に牢屋の壁はいとも簡単に吹き飛んだ。



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