3-8 ブロードの尋問
――キィィ!
翌朝。
重い扉が勢い良く開く音がすると、子供が抗議するように騒ぐ声が聞こえた。
「――って! 待ってってば!」
それと同時に複数人の足音が廊下に鳴り響く。
そんな騒音が聞こえて、眠っていた牢屋の中にいた4人は目を覚ます。
――ザッ! ザッ! ザッ!
「待ってぇ!!」
足音を次第に大きくなり、それと同時に子供の声もはっきり聞こえ、やがて4人がいる牢屋の前で立ち止まる。
「おはようございま~す! 皆さ~ん、調子はいかがで~すか~?」
ブロード・ハウゼンだ。
フードの少女と数人の警団を引き連れて、陽気でご機嫌。でも不愉快な間延びした口調で彼はダン、ウィー、ステラ、リアムの4人に話しかけた。
「良かったよ……あんたがここに来るまではな」
「それは良かったで~す」
ダンの皮肉をニヤニヤと髭を撫でながら流すと
「聞きま~したよ~。貴方た~ち、光の先に行ったことがあ~るそうで~すね~」
「だからそれはあたしが言ったじゃん! それに確認もしたって!」
フードを被った少女はそう叫ぶ。
「話が違――」
「えぇ。貴女~は私に嘘は言いませ~んも~んね~。で~すが――」
「――ッ!」
だが、ブロードはその少女を「黙れ」とでも言うように睨みつけ黙らせる。
「もう一度聞きま~すね~――――貴方たち、光の先に行ったことありますね?」
鋭い眼光で鉄格子の中を睨みつける。
「そ、それがどうしたよ?」
威圧するようなそのブロードの態度に冷や汗をかきながらも、ダンは苦笑いする。
その様子にブロードはフッと鼻で笑うと、
「い~え~ね。今朝、この娘に~その遺跡の情報をお聞きしたんで~すが~驚くこ~とに貴方た~ちが情報元らしいじゃないで~すか~?」
「――――」
「こ~れは~調査をす~るために~も協力いただかなくて~は~と思いま~してね~」
「協力? あの生意気なガキに言ったことが全てだ。他に何を協力する必要があるんだ?」
「シエド村の奥の遺跡」
「?」
「そ~んな~貴方た~ちの妄想した村を言われ~ても行けるわ~けないで~しょ~?」
ブロードは馬鹿にしたようにダン達を笑う。
シエド村が妄想なわけがない。
だが、思い込みの激しいブロードはそのことを信じることはせず、シエド村がダン達の妄言だと高笑いするのだ。
「そんな『嘘』の村~をこの娘に吹きこ~んで~警団を誑かそうとした~んで~すか~? 全く~ひどいで~すね~貴方た~ちは~」
「だぁかぁらぁ!!」
「ん~……?」
面倒くさそうにダンは顔を顰めると、
「嘘なわけあるわけないじゃんか。俺の――俺達の村を馬鹿にするんじゃねぇよ」
そんなダンの訴えを意に介さず、ブロードは呆れたようにため息を吐く。
「はぁ……やは~り埒が明きませ~んね~……お前た~ち!」
「ハッ!!」
ブロードの号令に手筈が整っていたのか、連れてきた警団達はブロードが言わずとも牢屋の鍵を開け始める。
その警団達の様子にダン達は戸惑う。
まさか釈放するつもりなんてないことは明白だ。
それなのに、鍵を開ける?
一体――、
「な、なにをする気なんだ?」
「い~えね~……こうなるこ~とは目に見えていた~んで~ねぇ~。考えた~んですよ~」
「何をだよ?」
「言葉の通じな~い人に道を聞く時~どうすれば~いいか~?」
「まさか!?」
「一緒に行ってもらえ~ば~いいんで~すよ~!!」
ブロードがニヤリと口角を引き上げた瞬間、警団が全員牢屋の中に突入してきた。
警団の数の方が勝り、力も屈強。
さらに全員突入した瞬間、ブロードによりまた鉄格子の扉は閉められ逃げ場がなくなった。
ダン達はなす術なく、全員地面に抑えつけられた。
「ん~……どなた~にしましょうかね~」
「は~な~せ~」
「決めま~した~!! では~あの娘にしま~しょ~!」
ブロードはにやけながら優越感たっぷりの口調でステラを指差した。
「キャアッ!」
「ステラァ!」
ステラを抑えつけていた警団はブロードの指示に従い、ステラを無理やり立たせると、手枷を嵌め牢屋から出す。
そして、ブロードにステラを引き渡すと、ブロードはステラのこめかみに銃を向ける。
「いい~で~すか~? 私た~ちが出るまでに貴方た~ちが一歩でも外に出れ~ば~彼女を撃ちま~す!」
警団に抑えつけられても抵抗していたダンの動きが止まった。
ブロードが言うことは、つまり警団達がこの牢屋から出るまで、そして彼らを引き連れたブロードが外に出るまで何もするなということ。
もし破ったら、ステラに向けられて銃は本気で撃つに違いない。
ダンが無抵抗になったのをニヤリと笑うとブロードは牢屋にいる警団に「出なさ~い」と指示する。
そして警団全員が外に出たことを確認すると、牢屋の鍵を閉め、
「で~は~、またどこかでお会いしま~しょう~」
と満足気にステラを無理やり連れていった。
「ダン! ダァァァアアン!!」
「ステラァァァアア!!」
ガシャンと鉄格子が鳴り響くが、頑丈だ。ただの人間の力で再び開くことはない。
そして再び重い扉が開く音が聞こえ――そのまま扉は閉じられた。
★★★
「まさか……そんな……」
鉄格子を掴みながら、膝をつくダン。
「…………悪いとは思ってるよ……」
そう言う女の子の小さい声。
「お前……まだ居たのか……」
鉄格子の向こうには、フード越しからでも下を向いているとわかる少女の姿があった。
「お前も行かなくていいのか?」
「うん。すぐ行くよ。でも――仕方がないことなんだ」
「仕方がない?」
少女の言葉をダンは復唱する。
その復唱に少女はビクッと肩を震わす。
また激昂するんだろう。また恨まれるんだろう。
そう考え諦めたようにため息を吐き、ダンの方を見ると、
――――ダンは笑っていた。
「限界まで頑張ってないのに、仕方がないことだ、とか言えるかよ!」
「――――!」
そのダンの言葉に呼応するようにウィーの身体が淡く発光し始めた。
「ウィー! 今度こそだ」
そしてダンはウィーに拳を向ける。
「ステラを助けるぞ!」
「ウィ!」
「シエド村を――守るぞ!!」
「ウィ!!」
そしてウィーの拳が重なり――――牢屋内が白い光に包まれた。