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3-7 ギフトと魔鉱石、そしてシー玉

「大丈夫ですか? リアムさん……」


「あぁ。問題ないよ……ありがとう。ステラちゃん」


 牢屋の中。フードを被った少女が立ち去った後。

 リアムの太ももを心配したステラがリアムに話しかけた。

 銃ほどの貫通力はないが、スリングショットの威力は尋常ではない。

 傷口からも血が更に滲みだし、包帯が真っ赤に染まっていた。


 服と包帯で隠れているが、その中は銃創の上にスリングショットによる青痣で痛々しくグロテスクになっていることだろう。


「……急いで処置しないと……」


 そんな包帯の中を想像してこのまま放置していては化膿しますます悪化してしまうことを危惧したステラはそう呟いたが、リアムは首を横に振る。


「あぁ。でもあの少女はもう行ってしまったし、ここはロトの街の奥。人も全く通らないし、牢屋の外にいる警団に声が届くこともないだろう」


 諦めたようにそう言うリアムを心配そうに見つめるステラとダン。


「そう心配しないでくれ」


 だけどリアムはステラ達を元気づけようとしているのか優しく笑みを浮かべた。


「おそらく翌朝にはあの少女が今日と同じように飯を運んでくれるだろう。その時に頼んでみることにするよ」


「……ごめんなさい……私達のせいで……」


「ステラちゃんやダン君は悪くないよ。きっと運が悪かったんだ」


「――――」


「それより君達はシエド村のことを心配した方が良い」


 『シエド村』。

 その言葉を聞いてステラは息を飲む。

 光の調査に来たという少女にシエド村奥の遺跡について教えてしまった。

 その情報は確実に警団に伝わるだろう。

 調査のためにシエド村に警団が訪れようものなら――――。


「問題ないさ」


 そういうステラの心配を一蹴するようにそう答えたのダンだった。


「え?」


「だから問題ないって言ったんだ」


 淡々と再度そう言うダンは何故か余裕そうな表情だ。


「要するに警団(あいつら)をシエドに行かせなければ良いんだろ? だったらここロトの街であいつらを追い返せばいいだけじゃねぇか」


(それは……色々問題がある気が……)



 ダンの思惑に微妙な表情をするステラ。

 そもそも警団と対立することになったら、より面倒臭いことになってしまう。

 そもそも――、


「まずここから出られないじゃない……」


「それについても――おい、ウィー!」


「ウィー!!」


 ダンはもう一度ウィーを呼ぶと、意思疎通が出来ているようにウィーは叫び意気揚々にダンの元へ走っていく。


 そして、ダンとウィーは再度拳を突き合わせ――――、


「「~~~~~~」」


 やはりあの奇跡は起こることはなかった。


「くそぉ……何故だぁ…………」


「ウィ~……」


 拳を思いきり突き合せたことにより痛みに震えながら、ふたりは悔しそうに蹲る。


「――彼らは何をしようとしているんだ?」


 ダンとウィーの行動に不思議そうな顔をしてリアムはステラを見る。

 そんなリアムに困ったように苦笑いをするステラは、


「えっと……説明するのが難しいんですけど――」

とダンとウィーがしようとしていることをリアムに話す。


 つまりはあの時。遺跡で魔物が出た時に起こったダンとウィーが合体したという現象だ。


 ダンにウィーがオーラのように身体全体に纏わりついたこと。

 オーラがバリアのように魔物からの攻撃を防いでいたこと。

 更にダンの力を数倍にも引き上げたこと。

 その力により強力な魔物を倒したこと。

 そして、何故その現象が起きたのかわからないこと。


 ステラ自身もよくわかっていないため、拙い説明になりつつ、頑張ってぽつりぽつりリアムに話した。

 だがリアムはそのステラの説明を黙って聞いていた。


「ふむ。つまりは『ギフト』みたいなものかな?」


 ステラの説明が終わり、しばらく目を瞑って考えていたリアムはやがて目を開け、自分の解釈を語った。


「ギフト……?」


 だが、その解釈はステラには通じなかった。

 聞き覚えのない単語『ギフト』。

 それが何を意味するのか、ステラは知らなかったからだ。


 ぽかんとしているステラの様子を見て、リアムは目を丸くした。


「……もしかして、シエド村では『ギフト』についても伝わっていないのかい?」


「あ……いえ、たぶん違い……ます? 私が知らないってだけで……」


 ダンの様子は確認できないが、聞き覚えのない単語や見覚えのない場所があればすぐに目を輝かせるダンがすぐに食いついてこない。

 ということは、おそらくステラの記憶喪失が原因しているのだろう。


 そうステラは考え、手を横に振った。


「そうなのか?」


「えっと……ちょっと事情がありまして……」


 不思議そうにステラを見るリアムに対して、言いにくそうに下を向くステラ。

 ここで自分が記憶喪失であることを伝えてもいいが、更に話がややこしくなりそうだ。

 そんな気がして、説明してもよいだろうか悩んでいると、


「――まぁいい」


 リアムは諦めたようにため息をついた。

 ステラはリアムに詮索されないことにほっと息を吐くと、


「あの……『ギフト』について教えていただけませんか?」


 リアムにそう聞いた。

 そんなステラを見て、リアムは優しく頷く。


「もちろん。だが『ギフト』について話す前にまず『魔鉱石(シエル石)』について話す必要がある」


「魔鉱石……?」


「やはりそれも知らないか。『魔鉱石』、別名『シエル石』というのはシエルの塔と同じ性質を持った特別な鉱石のことだ――」


 シエルの塔は周辺を豊かにするが、シエルの塔周辺以外にも豊かな土地はある。

 その近くや――それ以外でも、例えば――迷宮には『魔鉱石』と呼ばれる鉱石が稀に採掘できるという。

 その鉱石を調べると不思議なことにシエルの塔と似たような性質があるとわかった。


 それだけじゃなく、その鉱石。――人の体内にある『マナ』と呼ばれるエネルギーを吸収し、別のエネルギーに変換・放出する。

 放出されたエネルギーによってその人の性質・能力に合った武器や装飾品、ダンが出したみたいなオーラなどが顕現する。

 それを古代の人は『女神シエル様が齎した奇跡・恩恵』と言い、これを『ギフト』と名付けた。


 もっとも魔鉱石は頻繁に手に入るということはない。

 むしろかなりの運がないと見つからず、そういうわけだから売りに出せば相当高い値で取引される。


 だから魔鉱石を持っているのは、王族や金に余裕のある貴族、騎士団、それか一部の冒険者に限られるという価値の高い代物だ。


 騎士団に至っては無条件で魔鉱石を渡されるらしいけどね、とリアムは捕捉し、


「――まぁあとは滅多にいないが、その鉱石を使わずに『ギフト』を顕現できる人もいると聞いたこともある」


「じゃあダンは魔鉱石というのを持ってなかったから……」


「うーん……しかしそういう人は身体の一部に『ギフト』が顕現するらしいから、ウィーと合体したというダン君のとは少し違いそうだ……」


 ちゃんと調べてみないことにはわからないけど、とリアムは難しそうな顔をしながらそう言う。


「なんだ? シエル石の話をしてるのか?」


 そこにふいにダンが割り込んできた。

 どうやら自分が好きそうな話をしているのだと今気付いたらしい。

 実際は少し違うのだが、お構いなしにダンは目を輝かせ、


「俺も見たことあるぞ」


と人差し指と親指で小さく丸を作ると


「こんくらいの大きさのガラス玉みたいでとても綺麗だったなぁ~」


「あぁ。それは『シー玉』のことだね」


「シー玉?」


 また聞きなれない言葉が出てきてステラは首を傾げた。


「魔鉱石を丸く加工した玉のことだよ。そのままだと形が悪く不純物が多くて、マナの通りが不十分らしくてね。不純物を抜いて、更に丸く加工した方が伝導率が良いんだ。だから魔鉱石を手に入れたら皆シー玉にするんだよ」


「シエル石の玉だから、シー玉な」


とリアムの説明に捕捉するように語るダン。


 それからリアムとダンは魔鉱石について談義しだした。

 好きなことになるとそっちを優先させてしまうダンは夢中になり、それに合わせてリアムもまた自分の知っている知識を語りだす。

 少女が来た時の鬱屈とした雰囲気はなくなり、全体が明るくなった気がする。


「――さて、そろそろ寝るとしよう。明日何かあれば、寝不足だと困るからね」


 しばらく魔鉱石の話で盛り上がったが、夜も更けてきた。

 リアムの提案をダン、ステラ、ウィーは快く受け入れ、地べたに寝っ転がった。


(ロトの街に着けば、ベッドで寝られるかと思ったのに――)


 横を向きながらステラが悔しそうな表情をしていたのはまた別の話だ。


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