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3-3 西区の警団 後編

 銃声で渇いた空気が振動し、一気に張り詰める。


 太ももを抑え跪く衛兵。衛兵に向けられた銃は煙が出ている。そしてその銃を持っているのはブロード・ハウゼン。

 ブロードは冷たい眼でその衛兵を見ると、


「貴方、この子た~ちを擁護す~るつもりで~した~? そういえば貴方で~したね~? さっきこの子た~ちを尋ね~た時、知らないってす~ぐ首を横に~振ったのは~? もしかして~実はグルで~した~?」


「――――グ……ッ! 申し訳…………ありません……」


 太ももの痛みで脂汗をかき、辛うじて謝罪をする衛兵を見て、ブロードは呆れたようにため息をつくと銃を収めた。


「まぁいいで~しょ~。で~もまた次やった~ら、貴方も同罪で~すから~……――」


「――いや…………おいおい……」


「ちょっ! ちょっと待って、ダン!」


「おやぁ~?」


 そんな様子をまじまじと見てしまったダンは戸惑いがちにブロードに向かっていこうとして、ステラは慌ててダンの腕を掴み、ブロードはその様子を見てしてやったりと口角を吊り上げた。


 今は警団に囲まれている状態。警団を無視してブロードの所に行くようならおそらく問答無用で攻撃してくるはずだ。

 衛兵がやられたような警告ではなく、致命的な攻撃を。

 そんな危険な状態でダンを行かせるわけにはいかない。

 ステラは精一杯の力を込めてダンが前に進むのを止める。


「な、何する気なの?」


「何もしねぇよ。ただあいつと話すだけだ」


「なんでしょ~? 私に答えられるものがあれば~お答えいたしま~しょ~」


「なんで撃った?」


「おやぁ~? ほんと~にグルで~した~?」


 ブロードは何か決定打となるものを待っているかのようにニヤニヤとダンを見ていた。


「ちげぇよ」


「ならな~ぜ~?」


「お前、姉ちゃんに人をむやみに傷つけるなって怒られなかったのか?」


「あいにく姉はいませ~んね~。犯罪者の割にいい子なんで~すね~」


「――俺達とお前ら警団とかいう奴らの問題だろ? あの衛兵は関係ないはずだ」


 ダンは撃たれた衛兵を指差し、不満そうな顔でブロードを見た。

 現状、ブロード率いる警団はダン達を標的にしているはずだった。

 発砲するならばこちらに撃ってくれば良いものの、親切心で何かを伝えようとした衛兵が撃たれるのはダンにとっては筋が通らない。納得が出来なかった。


 だが、ブロードは気色の悪い笑みを崩さない。


「残念なが~ら、関係ありま~すね~。しかも~大あ~りで~す」


「なんでだ?」


「私た~ち警団は衛兵の上司で~すから~」


「だからって撃たなくてもいいだろ」


「い~え~。撃ちま~すね~。なぜな~ら、彼は~貴方た~ちの仲間の可能性がありま~したから~ね~」


「いや、だから違うって――」


「それに――――」


「――――」


 ダンと衛兵は無関係だと訴えようとしても、ダンの言い分は聞かず、むしろ遮るようにブロードは話を続けた。


「私はいずれ騎士団(・・・)に昇格でき~る逸材で~す。そんな私の~話を遮ってくること自体~不敬にあたりま~すからね~。本来なら殺されても~おかしくありませ~んね~」


「…………?」


「そんな~彼に私は~慈悲を与えたので~す。怒られる筋合いはなく~むしろ褒められても良い行いをしま~した~ね~」


 拍手! とブロードは叫ぶと、ダン達を囲んでいた警団は一斉に拍手しブロードを称え始める。

 薄ら笑いをしている者もいれば、ぎこちなく微笑んでいる者もいるが、表面上は警団全員がブロードを笑顔で褒めたたえている。


 そんな異様な光景に「何これ……?」とステラはたじろいだ。


 ブロードはしばらく堪能した後に両の手を広げ拳をギュッと握ると、拍手を鳴り止んだ。

 そして収めていた銃を再び取り出すと、その銃を衛兵に向ける。


「まぁ~貴方がそこまで言うということ~は本当~に仲間の可能性が~ありま~すね~」



――ここで殺しておきま~すか~?



 その言葉が引き金となった。

 ダンは困惑していたステラの一瞬の隙を見て、掴まれていた腕をすんなり振り払った。

 ステラが「待って!」と言う暇もなくダンは警団の頭上を越えるほどの跳躍をした。


「やめろ! ――――ッ」


 だが、ブリードに届くことはなかった。

 警団の頭上を飛び越えた辺りでダンの鳩尾に衝撃が走った。


 何かを撃ち込まれたような感覚で内臓まで走る鈍い痛み。

 でも銃で発砲され貫通したような感じではない。もっと違う鈍器で殴られたような。

 何を撃ち込まれたのかとその始点を探ると、フードを被った子供が撃ち終わったスリングショットをダンの方に構えて立っていた。

 その原因を発見したのも束の間、ダンは喰らった痛みに耐えかね、空中で意識を手放した。


 ――ドサッ……


「え…………嘘……」


 ステラの側からは警団が壁となって、ダンの様子はわからない。

 だが、空中で動きを止めたダンがそのまま落下していくのは見えた。

 発砲音は聞こえなかったのに、何故かダンが倒れていくという様子に困惑し、


「ダ……ダン……? え? いやっ! ……どうして? ……ダン!!」


と自分がダンを引き止めた理由も忘れて、ステラは警団の群れに突っ込んだ。

 幸いにして銃で撃たれたりサーベルで切られたりはしなかったが、ダンと同じくらいの年齢のか弱い女の子が鍛えているだろう警団の集団を突破するなどできず、そのまま抑えられてしまった。


「ダン! ねぇ、起きて! 死んじゃったりしてないよね!? ダン!」


 ステラがダンを呼んでいる傍ら、ブロードはダンを気絶させた子供を一瞥するとため息を吐き銃を納めた。


「はぁ……そのまま捕らえなさ~い。それか~らロトの~牢屋にでも入れておいてくださ~い。もちろ~んあの衛兵もね~」


 そう指示したブロードの声を聞き、警団は倒れているダンを縛る者とステラとウィーを捕らえる者、そして血を流している衛兵を捕らえる者に分かれた。


 サイズが小さい子竜は俊敏な動きをしていたが、あっさり捕まった。

 問題はステラの方だ。抑えられているにもかかわらず強引に抜け出そうと暴れている。


「――――」


 だがその抵抗もすぐに終わることとなる。


 フードを被った子供がステラに近づいていき、耳元で何かを囁いたのと同時にステラは大人しくなった。


 その瞬間を逃してはならないと警団はステラの腕に手枷を嵌め、程なくダン、ステラ、ウィー、そして衛兵はロトの牢屋に連行されることとなった。





「あの娘、急に大人~しくなったけど~、な~にを言ったので~すか~?」


 3人と1匹が静かに連れていかれるのを見て、ブロードは子供を睨んだ。


「…………別に。これ以上暴れたら、容赦しないって」


「はっ……言いま~すね~。やは~り~魔人(・・)で~すね~……」


 ブロードはそう言うと、子供はもう用事が終わったと言わんばかりその場をそそくさと立ち退いた。

 フードを被っているため、ブロードからではその表情を見ることはできない。

 だが、ブロードはその表情を想像しながら、口角を吊り上げるのであった。



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