3-1 初めての絶景
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫か?」
「う、うん……」
「もうちょっとしたら休憩しよう。それまでは頑張ろう!」
「り、了解……!」
「ウ……ウィ~……!」
先頭に立っている茶髪の少年が金髪の少女と白い子竜に声を掛け激励すると、再び前を向き山道をゆっくりと進む。
今、休憩してもいいのだが、舗装がそんなにされておらず、視界が悪いこの場所ではやや危険だ。
もう少し開けた場所に出たい。
後ろを気にしながら、そう考えていると
「――お、見えてきたぞ!」
前方の視界が良好になっていく感じに、少年は一足先に走り出した。
「おぉ~! すげぇ……!」
駆け出した先は思った通り開けた場所。
崖の上になっているその場所は――この国の一部であるが――ウィールド王国を一望できる絶好のポイントであった。
目に見えたのは広大な大地。
そして西から北側を通り東に大地を半周囲うように連なった山々と南側に流れる大きな川。
広々とした平地には点々と街や村、森もあるが、雄大な景色に対してそれらはかなり小さく感じた。
そして東の山脈の奥。雲よりも天よりも高い半透明な塔――シエルの塔は相も変わらずその存在感を雄弁に語っていた。
遠近感が狂ってしまうほどに。
初めて見るその絶景に少年――ダン・ストークは思わず感嘆の声を上げた。
今日が晴れで、日が暮れる前でよかった。
「はぁ……確かに……すごいね…………」
「ウィ~~~……!」
息を切らしつつ、遅れて到着した少女――ステラと子竜のウィーもその景色を見てダンに賛同する。
「風も気持ちいいなぁ!」
ダン達を歓迎するかのように風が吹き、今までの疲れも癒してくれる。
漸くウィールド本土へ降り立ったという実感が募る。――いや、シエド村も王国内ではあるが。
それでも、外の世界に夢を馳せているにもかかわらず、今まで出たことがなかった者にとって、この情景は心が踊るものであった。
風を感じ、空気を味わい、景色をじっくりと堪能する。
「お! ――あれがロトかなぁ?」
そうやって一望した最後に、額に手を翳しながら観たのはここから一番近くにある街。
面積にしろ、建物にしろ、シエド村よりも全体的に一回り大きい。
更にシエド村にはない牧草地が設置され、家畜が伸び伸びと草を食べているのも見えた。
ウィールド王国の最西端のシエド村の次に西に位置する街がロトだ。
あそこがロトに違いない。
ロトを確認した瞬間、ダンの身体は目は輝き、口角は自然と上がり、嬉しさで震えた。
その街を指差し、ステラ達の方を向くと、
「テンション上がってきたな! よし! ステラ、ウィー! 行こうぜ!」
「そ……その前に……ちょっと休憩させてぇ……!」
「ウィ~……」
だが、そんな元気なダンに山登りで疲れているステラ達が着いていけるはずもなく。
ステラは力が抜けるように地面にペタンと座り込み、ウィーも四つ足全てを外側にやりうつ伏せで横になる。
ステラ達が疲労していたのをすっかり頭から抜けていたダン。
そんな様子のステラ達を見て、
「お……おう……」
とビシッと構えていた指をゆっくりと下ろした。
★★★
休憩が終わり、山を降るとロトの街はもう目と鼻の先だった。
「少ししか休憩してないのに大丈夫なのか?」
「隣にうずうずと身体揺らしている人がいたら、おちおち休むこともできないから」
口から出る心配の声とは裏腹にほくほくと満面の笑みで悠々と歩いているダンにステラはジト目で文句を言う。
「そうか? それは悪かったなぁ~!」
「はぁ……いや、いいんだけどさ……」
一応少しは休めたし、と付け加えながらも諦めたようにため息をつくステラ。
既に新しい街に夢中になっている冒険好きには何を言っても通用しないのかもしれない。
まぁでもダンほどじゃないが、ステラも新しい街に着くというのは嬉しい。
ダンのようにその街自体に興味があるのはもちろんなのだが、なにより宿だ。
シエド村からロトに向かうまでは当たり前のように野宿生活が続いた。
死ぬほどつらいということはないが、日に日に疲れも溜まっていくし、やっぱり暖かい柔らかい布団で寝たい。
そんなことを考え、ちょっと楽しみも増えつつあるステラもステラで口角を上げ前を向くと、
「ん?」
ロトの入り口付近に人だかりが出来ているのに気付いた。
同じ服装をしている者がほとんどで、その中に衛兵のような恰好をした人が2人、あとフードを被った子供くらいの大きさの人が1人。
その中でなんだか1番偉そうな男が衛兵の1人と話していた。
「どうした? ステラ」
「いや、あれ、どうしたのかなぁって思って……」
「言われてみれば確かに。あいつら、何してんだ?」
「あ、目が合った」
すると、その集団の1人が――おそらく何気なくこちら側を見たのだろうが――ダン達を発見し、すぐに驚いた様子で衛兵と話していた男に話しかけた。
その男もダン達を見て、衛兵に何か質問をしているようだったが、衛兵は首を横に振り否定している動作をしていた。
集団は不思議に思いながらも、ダン達に対して警戒をやや強めた
「なんか俺達、警戒されてるっぽいな」
「そうみたいだね。なんでだろう?」
「さぁ? まぁいいや。あそこまで行けば、何かわかるだろ」
「そうだね。とりあえず行ってみようか」
「ウィー!」
そう話して、その集団を気にしつつも、楽観的なダン達は真っ直ぐロトの街へと向かった。