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2-10 ウィーの意志

 ダンの後ろの壁から衝撃音と砂煙が舞い上がる。

 一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 だが、タウロスの振り回した後の腕。そしてそこにいたはずのウィーがどこにもいない。


「…………そんな……」


 ステラは顔を青くして砂埃が舞っている壁を見た。

 自分がやられると思った。

 ダンとウィーが助かるならばそれでも良いとあの一瞬で考えた。

 そのためにタウロスの視線をこっちに向けたのだから。


 だがあの魔物は入り口まで帰ることができず倒れたままの少女なんて端から眼中になかったらしい。

 むしろステラを助けるために動き出すであろう男と子竜。ダンは最初からタウロスにとって鬱陶しい立ち回りをしていたし、ウィーはダンを殺せるチャンスで邪魔をした。

 ステラは彼らを誘き寄せる餌のような存在だったのだ。

 石を投げてくれたのは好都合だった。

 ステラに突進をする振りが出来る切っ掛けを貰ったのだから。


 邪悪な笑みと狡猾な右目をし、ダンとステラのちょうど真ん中辺りで歓喜の雄叫びを上げるのを見て、ステラはそう確信し茫然自失となった。



「ウィー…………!」


 そんな中、ダンは動かない身体に鞭打って無理やり立ち上がり、少し躓きながらもウィーの元へ駆け寄った。

 叩きつけられた壁から剥がされるように地面に倒れていくウィーを滑り込みながらもキャッチし、声を掛ける。


「おい……しっかりしろ! ウィー」


「ゥ…………」


 呻き声が小さく聞こえ、痛そうにしているがとりあえずまだ生きている。即死ではなかったことにダンは少し安堵する。


――ドンッッッ――!!


 が、大きな振動が聞こえて、その束の間の安堵も霧散した。

 正面を向くと、タウロスはニタニタとした気味の悪い笑みをしてダンたちを見ていた。

 あくまで今の標的はダンたちなのだろう。

 後ろで座り込んでいるステラには見向きもしない。


 ならばダンが出来ることは――


「ウィー、動けそうか?」


「…………ウィ……」


 ウィーは少し考えた上で肯定する。

 だが仮にウィーの言う通り動けたとしても少し休まないといけなさそうだ。


「ウィ…………?」


「ちょっとここでじっとしてな」


 ダンは抱えていたウィーを優しく床に寝かせ、立ち上がった。

 足は少し震え顔から嫌な汗が滲み出ているが関係ない。

 現状ウィーを、ステラを、奴の意識から外すことができるのは今までも気を引き苛立たせ続けていた自分しかいないのだから。


「俺がタウロスの気を引き付ける。動けるようになったらステラと一緒にここから出てくれ」


 これ以上指一本お前らに触れさせないから、とダンは笑ってタウロスの方を向いた。


 勝機はない。だが負ける気もない。今自分にできる最善を目指そう。

 ステラとウィーをこの場から逃がす。それが現状実現可能な最善だ。


 そう決意しウィーを守るようにウィーの前に立った――はずだったが、


「……ウィー?」


 白い子竜は臨戦態勢でダンの隣に居た。タウロスの攻撃でまだ動けないはず。

 痛みが引いたのか? いや、そんなはずはない。

 その証拠にウィーもダン同様に身体が震えている。

 痛みと疲労を我慢して無理して立っていることはすぐにわかった。


 そんな身体でウィーはダンと一緒にあの魔物を引き付けようと隣で構えているのだ。


「無理すんな、ウィー……あいつは俺が引き付けるから」


 ダンはウィーのしようとしていることを察して共闘するのを断るが、ウィーは頑なでタウロスを睨み続ける。


「今のウィーじゃ無理だ! お前だってあの牛野郎の攻撃喰らっただろ? あんな攻撃喰らっておいてまだやる気か?」


「――――」


 その言葉そっくりそのまま返してやる、とでも言うかのようにウィーはダンを睨みつける。

 ダンもタウロスの攻撃で壁に吹っ飛ばされたが、ダンにとってはナイフというガード越しで受けた自分と直接殴られたウィーでは雲泥の差がある。


「間接的に喰らった俺よりもウィーの方が重症なはずだ。動けるなら俺に任せて頼むからとっとと逃げてくれ……!」


 そんなダンの嘆願にウィーはプイッとそっぽを向いて無視する。


「いいから言うこと聞いてくれよ!」


「――ウィ!!」


 さっきまで睨むだけしかしていなかったウィーではあったが遂に尻尾を鞭のように振るいダンの膝裏を叩いた。

 相棒からの攻撃に耐えることができずダンは地面に跪き、急にしてきたウィーを睨みつけようとしたが――、


「ングッ!」


 跪いたことにより高さが低くなったダンの顔目掛けてウィーは前足を押し付けた。

 顔に押し付けられたウィーの前足を強引に剥がすと、ダンは


「何しやがるんだ!?」


と叫ぶが、ウィーはそんなダンの顔を静かに睨み続けるだけだった。


「――――」


 そのウィーの表情は怒っているようでもあるし、悲しんでいるようでもある。

 そして何かを訴えようとしていることにダンは察して、ため息をついた。


「そうだったな……俺たちはいつも一緒の相棒兼友達で家族だ……」


 それはステラにウィーを紹介する時に使った謳い文句。

 ウィーが産まれてから、いや卵の時からもダンとウィーは常に行動を共にしていた。

 一緒に遊んだし、一緒に狩りをした。危険な生物から逃げる時も常に一緒で、一緒に喜び笑い合った。

 危なくなった時は互いに助け、キャロラインの説教も一緒に受けた。

 ダンとウィーは互いに助け合う相棒であり、一緒に笑う友達で、そして産まれてからずっと一緒にいる家族だ。


 こんな状況でさえもウィーはダンが自分だけを逃がそうとする行動に苛立ち、そして1人で行動しようとしていることが虚しかったのだ。


「…………わかったよ。俺の負けだ」


 そんなウィーの真剣に訴える眼にダンは根負けした。


「奴の気を引くぞ!」


「ウィ!!」


 そう言ってダンは再び立ち上がりタウロスを見た。


「ウォォオオオオオオ!!!!」


 タウロスは既に洞角を前に向け、突進し始めていた。

 その奥にはステラが見えた。どうやらウィーが攻撃されたショックからは多少回復したようだが、タウロスがダン達の方を注視していたとしても、動けずにいた。

 タウロスがダンたちへ突進する様子をただ眺めるしかない状況を悔しそうな表情をして、持っていたペンダントを無意識に片手でぎゅっと握りしめていた。


「ステラ!!」


 そんな様子のステラをダンは呼ぶ。

 ダンの叫び声に反応してステラはダンの方を見ると、彼らは笑っていた。


「大丈夫だ!」


「!! うん……!」


 ダンとウィーの笑顔に少しばかりか元気づけられた。


(ピンチなのはあの2人なのに……)


 ステラは握りしめていたペンダントをさらに力を込めて握りなおす。


――どうか…………お願い……!







「なぁ……ウィー」


 タウロスがダンたちの方に向かってきている。

 その速度を上げつつある突進を見ながら、ダンはウィーに話しかける。


「ウィ?」


「さっきは悪かったな……」


「ウィウ?」


「ほら、あれだよ……何も言わず、投げ飛ばしたりしてさ」


 それはあの魔物が召喚される直前に起きた事件――この部屋の調査のためにウィーを高く投げ飛ばしたことの謝罪だった。

 ウィーは目をぱちくりさせて意外そうにダンを見たが、少しするとしょうがないなと言わんばかりにため息をつき、


「ウィ」


と淡泊にその謝罪を受け取った。

 そしてウィーは自分の前足を握りダンの方に突き出す。


「ウィ」


 一緒に守るんでしょ、というように突き出された拳にダンはニヤリと笑みを浮かべ、


「あぁ! 一緒に守ろう!!」


「ウィー!」


 その拳に自身の拳を突き合わせた。


 ――――瞬間、ダンとウィーの周りには白い光が眩く輝いた。



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