第59話:徳の驚異
準決勝。徳永さんが居る聖南学園の対戦高は宮田さんが居た学校、新井高校だ
「行くぞ、宮田の為にもアタシらは絶対かぁああっつ!!」
「うおりやあああ!!」
円陣を組み、吠える新井高校の部員達。志半ばで学校を去った宮田さんを思ってなのか、異様に気合いが入っている
対して聖南学園。皆、正座をしたままピクリとも動かない
「先鋒、前へ」
主審の声で二高の生徒が動き出す
わざわざ俺の分まで買って来てくれたジュースを飲みながら表示盤を見てみると、新井高校の先鋒は、一年生だった。頑張れ
相手の聖南学園は……
「……あれが徳永さん」
頭に布を巻いている為、髪の長さは分からないけど、長い髪が似合うだろう、冷たいとも言える切れ長の眼。美人だ
「剣道やってる人って美人ばかりなのか?」
思わず呟いた俺に、母さんは自分を指差し
「母さんが良い例ね~」
と、言った
「……剣道部だっけ?」
前は茶道部、その前はバスケ部と言っていたような……
「18ヶ所掛け持ちしてたから~」
「…………」
相変わらず謎な人だ
「ヤーー!!」
謎過ぎる母ちゃんを見ている間に、試合は始まっていた
正眼と正眼。二人ともごく普通の構えだ
「ヤーヤーヤアア!」
前、後ろと小刻みに移動し、新井高校の一年生、曽宮さんは声で威嚇する
「…………」
徳永さんは全く動かない
「む…………ヤア!」
痺れを切らしたのか、曽宮さんは牽制とも言える払い小手(裏払い)をした
「一本!」
払いは見事に決まり、小手打ち一本。あっさり決まってしまう
「弱い?」
あるいは曽宮さんが強いのか。
しかし一本取られた徳永さんに、焦りの様子は見られない
「あの子、強いわね~。でもああゆうの母さん嫌い~」
徳永さんを見ながら母ちゃんが何か言ったが、多分たい
した事じゃないだろう、聞き流す
二本目。剣道の試合は三本までしか無い。次の一本を取られたら終わりだ
一本取った事で曽宮さんは調子に乗ったのか、二段、三段と攻める
小手→面→面
面→胴
胴から離れて、小手。息もつかせぬ攻めだ
しかし
「ぜ、全部防いでる?」
しかも殆ど動いていない
「ぐっ……ああ!」
何を打っても決まらない事に苛立ったのか、曽宮さんは思い切り踏み込んで全力の面を狙う
その竹刀を、徳永さんはガシっと抑えた。鍔ぜり合いだ
パアン
「…………え?」
「面あり、一本!」
一瞬で決まった面。徳永さんは鍔ぜり合いになってすぐ、鋭く左足を引いき、引きながら竹刀を振りかぶって面を打ったのだ……って、早すぎて余り見えなかったけどな
「す、凄いね、お兄ちゃん」
驚きの声を上げ、俺の裾を引っ張る雪葉
「こらこら服が伸びるべさ」
ざわ
苦笑いしながら雪葉の頭を撫でていると、会場が突如ざわめいた
「な、なんだ?」
慌てて試合を見ると、徳永さんは正眼から竹刀を上段へと上げていた
「……上段か。これが面白い事?」
秋姉への対策なのだろうか? しかしずっと上段をやって来た秋姉に、上段は余り良い作戦とは思えないけど……
疑問に思いながら見ていると、徳永さんは竹刀から右手を離し、左手だけで持った。あ、あれは!
「ひ、左片手上段!! 冗談だろ!」
「……馬鹿じゃないの?」
「別にシャレじゃないから!」
片手上段なんて、難しくて有段者でも滅多にやらない構えだ。二段を持っている秋姉ですらやらない
「う…………く」
見慣れない片手上段と、間合いが格段に広くなった徳永さんに、曽宮さんは躊躇しているのだろうか動きに落ち着きが無い
「…………ヤアア!」
だが覚悟を決めたのか、徳永さんの間合いに飛び込んだ曽宮さん。
すかさず片手面を打つ徳永さん。確かに速い
「無効!」
片手の面は余程強く打たない限り、浅く見えてしまうので有効打になりにくい。これは剣道の常識である……多分
「ハア!!」
曽宮さんはそのまま攻める。狙いは面だ!
徳永さんの竹刀はまだ、構えを取っていない。 曽宮さんの勝
「かわした!?」
「胴あり、一本!」
徳永さんは曽宮さんの面をかわし、胴を打ってそのまますれ違った。あれは
「面抜き胴ね~」
「俺のセリフ!」
俺は解説キャラにもなれないのか!?