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第53話:風の迷い

秋姉のインターハイ県予選が始まる今日。

 秋姉を応援すべく、試合会場へ向かってチャリンコを漕いでいる俺の耳へ、綺麗な声の歌が微かに届いた


「……良い声だな」


時計を見るとまだ時間に余裕がある。俺はセイレーンに誘われる船乗りの様に、声の方へ向かって自転車を漕いだ


「ら~ら、ら~らら。る~る、るる~」


「…………」


近づくにつれ、透明になってゆく声。夏紀姉ちゃんにいたぶられ、傷付いた俺の心を癒してくれる


「……こっちか」


歌がはっきりと聞こえる場所に来ると、小さな公園があり、そのベンチで足をパタパタさせながら座っている男の子らしき子供が居た


「……あの子か」


もっと近くで聞きたいな


俺はそっとチャリンコを置き、邪魔にならない様向かいのベンチへ……


「ら……っ! ……」


びっくりさせてしまったのか、男の子の歌が止まる


「あ、ご、ごめんな。あんまりにも歌が上手いからつい……って風子?」


「え? あ、あれ? お兄さん?」


男の子は風子だった


「てっきり男かと思ったよ。相変わらずボーイッシュだな」


「ふふ。お兄さんだけだよ、僕を男の子と間違えるの」


風子は被っている帽子を脱ぎ、長い髪を風にさらす


「お兄さんには女の子と見られていたいな」


「ふっ、生意気な奴め」


「ふふ……ところでお兄さん。せっかくの偶然だよ? 駅前で軽く食事でもしようか」


「あ、悪い。行きたいんだが、秋姉の試合があってな。もう行かないといけないんだ」


「……そう。秋さんの試合会場は駅の近くだったりするのかな?」


「ああ、一キロぐらいだったと思うぞ」


「僕が応援に行くのは構わないかい?」


「ああ。秋姉もきっと喜ぶよ」


「ありがとう」


「いやこっちこそな」


風子とチャリが置いてある場所へ行き、サドルを跨ぐ


「後ろに乗りな。ハブ付いてるから」


「うん」


風子はサっと乗り、俺の肩に手をのせた


「んじゃ行くか。落ちるなよ」


「大丈夫だよ」


風子の言葉を受け、俺はチャリを漕ぐ。穏やかに吹く風が気持ち良い


「ところで風子」


「なにかな?」


「歌、上手いんだな」


「……ふふ。ストレートに言われると、ちょっと照れるね」


「照れる事は無いぜ。本当に上手かったぞ」


「子供の頃の癖で、寂しい時につい歌ってしまうんだ」


「……寂しい時?」


「そう。少し心に迷いがあったんだ。……でもお兄さんが来てくれた。

 その瞬間、僕の迷いは晴れ、進むべき道を見つける事が出来たんだ。ありがとう、お兄さん」


「そうか、良かったな」


「うん」


「ところで風子」


「なにかな?」


「お前、道に迷ったんだろ?」


「…………いじわる」




今日の迷子



都筑区

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