春の無敵 3
「それにしてもカップルだらけだな」
三十席あるレストラン内は、右も左もカップルだらけだ
「そりゃ安いからな」
……本当にそれだけだろうか?
「……兄ちゃん、とっても嫌な予感がするぞ」
「心配すんなって。何があっても私が守ってやるから」
そう言って腕に力こぶを作る真似をする春菜。何て頼もしい奴……
「おっ! ローストビーフの追加が来た! よ~し、取ってくるぞ~」
「……俺も何か食うか」
そういえば向こうに毛蟹があったな
俺はレストランの魚介類コーナーへ行き、トレイを手に蟹が置いてある長テーブルの前へ……
「カップルチャーンス!」
「うわっ!?」
蟹を取ろうと手を伸ばした時、謎のシルクハット紳士がテーブルの下から現れた
「おめでとうございます蟹を選んだ貴方にカップルチャンスです!」
「……はい?」
「さぁ、恋人を呼んで下さい!」
「…………は、春菜~」
「もっと! 心と魂を込めて!! 愛を響かせ、轟け青春!!」
「春菜~!!」
ああ、何て俺はノリに弱い男なんだ……
「グレイト! イッツ、クレイジーボーイ!!」
「あんたがやらせたんだろうが!」
「ど、どうした兄……」
声は春菜に届き、春菜は慌てて俺の元へ来たが、横にいる紳士を見て言葉に詰まる
「……あに?」
訝しげな紳士。ピンチだぜぃ
一体どうやってごまかすつもりだ春菜!?
「…………まる」
なんだそりゃ!
「オーウ、アニマルアルか~。ミーもアニマル好きザンスよブロッケン」
「……何処の人種を目指してんだよ、あんたは」
「さて、問題です」
「いきなりだな!?」
「あちらの映像をご覧下さい」
紳士が指を差す方を見ると、中央に大型のワイドテレビがあり、画面にはカップルらしき男女が仲睦ましそうにドライブをしている
「映像クイズです。この二人は何処に向かっているのでしょうか?」
「何処にったって……」
「何個かのヒントが出ますから、ヒントが出終わる前にお答え下さい。早い内に当てるとポイント高いです。それではスタート!」
掛け声と共に映像は動きだし、次々と写真の様に画面が切り替わっていった
「ん~森? いや山の麓か? 麓に車を停めて……ロープ? 登山? それにしては軽装だし……ん? 薬? 風邪薬か何かかな? 車内に遺書って書いた手紙を残してって、富士の樹海か!?」
「正解! お見事!!」
「嫌なクイズ出すなよ!」
「ちなみにこの後、女性の方のみ樹海から出て来ました」
「後味悪っ!?」
「見事正解されたお二人には、なんと30ポインツっ!!」
ざわ……ざわざわ
周りのカップル達がざわめく
「な、なんだ?」
「普通は一問5ポイントなのに、いきなり30だべか~おら達も油断できねっぺ」
「んだんだ」
近くに居たカップルが判りやすい説明をしてくれた
「てかポイントって言っても……」
「ポイントを得るクイズに挑戦する為には、当たりの料理を手に取らないといけません。取った料理は一人前完食する必要があります」
「ふ~ん」
結構色々食ったけど、当たりが少ないのかな?
「優勝すれば商品券十万円と、三十回分のお食事券!」
「春菜っ!!」
「任せとけ!」
そう言うと、春菜は直ぐに料理へ飛び付いた。そして食って食って食いまくる!
「は、早い……奴め、力を隠していたのか……」
俺ですらビビる勢いで食いまくる春菜。ぶっちゃけ少し引く
「はい、キノコサラダでクイズゲット!」
「よしっ! よくやった春菜!!」
「映像クイズです」
「またかよ!」
「あちらの画像をご覧下さい」
クリスマス~クリスマスったらクリスマス♪
そんなクリスマスの定番ソングが流れ、ツリーの下で仲睦ましく手を繋ぐカップルの映像が始まった
「って、この女、さっきの女か!」
「予算が無いので同じ女優の方を使わせて頂いています」
「なら男も同じ奴を使えよ!」
さっきは二十代ぐらいの男だったが、今は三十後半の金持ちそうな男に変わっている
「さて、このカップル。この後、何処に向かうでしょうか?」
「何処って……」
「幾つかのヒントでお答え下さい」
画像が変わってゆく
「ん? 夜の繁華街、レストラン……は素通りして、どんどん奥に……ネオンが煌めく通りを抜けて怪しげなホテル街へ…………ま、まさか」
「分かった! 屋台のラーメン屋だ!!」
「ば、馬鹿! これはラブ」
「正解!」
「はい?」
「映像の右端に、ちらっと屋台が出ているんですね~。50ポインツ!」
「やったぜ!」
ガッツポーズの春菜
「これで現在一位のいなかっぺカップルに続く二位へと上がった美少女としもべカップル。残り時間は三分ですが、逆転はあるのか!?」
「誰がしもべだ! って突っ込んでる場合じゃ無い!! 春菜!」
「ああ!」
春菜と俺は、料理を片っ端から食らい続ける。その姿は鬼神の様だったと後に語られる