春の無敵 2
さて、何故このような話を私はしているのか。それは……
「がつがつ」
「…………」
「がつがつがつがつ」
フライドチキンを両手に掴み、がつがつと口いっぱいに頬張って食べるその姿は、どうしても美少女だと思えないからだ
「……春菜」
「がつが……んぐんぐ。……なんだよ?」
「……本当に良く食べるよな、お前」
「ん? 腹減ってるし」
此処は隣町のデパート
明日、試合に望む秋姉の為に秋姉が好きなデパ地下名物【プリ子さんちのプリン饅頭】を買って来ようと、宮田さんを送った帰りに寄ってみた俺
お目当ての物を買い、ぶらぶらと食品売場を見ていると、タメ歳っぽい奴らが興奮した様に何かを話しているのが聞こえた
『やっぱ駄目だったな、俺らじゃ相手にもしないって』
『分かってんけどよぉ~あんな可愛いの滅多にいないしさぁ』
『つか、マジで可愛かったな……。加山 里美にちょっと似てるし』
加山 里美。実力派の若手で、今、人気絶好調の女優だ。
切れ長の目元と、シャープな口元。一見冷たそうに見えるが、どこと無くあどけなさが残るその顔は、蠱惑的な程、魅力に溢れている。秋姉には敵わないけど
『…………』
実はちょっとファンだったり
『でも五階にあるバイキングレストランのショウウィンドウの前で、何やってたんだろうな?』
素晴らしく都合の良い会話を聞き、まるで神に操られたかの様に俺は五階へと向かった
先月改装したばかりのデパート。また真新しいエスカレーターに乗り、レストランフロアへと出る
バイキングは確か……あっちか
俺は右奥にあるバイキングレストランに向かって歩く。すると、ショウウィンドウの前でキョロキョロしているショートカットの女の子が居た
『……あれかな?』
後ろから見てもスタイルは良く、確かに可愛いであろう雰囲気はある
『うむ~』
しかしあの後ろ姿、どっかで見た事があるような気が……いや、どっかって言うか今朝……
『……は、春菜?』
『ん? あ! 兄貴!』
振り返った春菜は、喜びに満ち溢れた素晴らしい笑顔をしており、その笑顔のまま俺に向かって一言言った
『金貸して』
そして現在に至る
「がつがつ、がつがつ」
「……たく、いきなり金とか言うから何事かと思ったよ」
「がつ……んぐ。悪かったって言ってるだろ? しつこいぞ兄貴」
「ば、馬鹿! ばれたらどうするんだよ!!」
「あ、と………私の兄貴しつこくてさ~」
「へ~春菜の兄貴はしつこいのか~」
「あ、あははは」
何故、こんな白々しい話しをしているのか? それは、春菜が持つ割引券に秘密がある
【カップル限定! 45分、食べ放題が二人で1000円!!】
『秋姉のプリンを買いに来たんだけど、そんとき貰ったんだ~。行こうぜ兄貴!』
そう、春菜もプリンを買いに来ていたのだ
「しかし三十分も店の前をウロウロするとか……何だか俺、悲しくなって来たよ」
「でもこんなチャンス逃せる訳ねーじゃん。ここ普段高いし」
「まぁ……確かに」
普段は一人五千円取る
「何でこんなに安いんだろうな?」
「さあ? どうでもいいじゃん」
「…………」
何だか嫌な予感がするのは気のせいだろうか……
「ほら、もっと食べろよ寿司か何か取って来ようか?」
「……ありがとよ」
だが、お前の食ってる量を見たら食欲が無くなって来た……と、言わない所が兄の優しさだろうか
「そういえばお前、さっきナンパされたか?」
「ん? ナンパかどうか知らないけど、ご飯食いに行こうって言われたな」
「どうして行かなかったんだ?」
「知らない奴とご飯食べるの嫌だよ」
せ、成長しているっ!
「そ、そうだ、それで良い。今度何かあったら先ず俺に連絡しなさい」
「良いのか!? 実は今日も兄貴を呼ぼうかずっと悩んでたんだよ~。でも私が誘うと兄貴嫌がるかなって……」
春菜は料理を置き、上目使いで遠慮がちに俺を見る
「……別にお前と一緒に居るの嫌じゃないぞ。てか、お前最近、よく俺に構うな? 以前は余り話さなかったのに」
「だって兄貴嫌がってたじゃん。……今は親父居ないし、家の中じゃ兄貴ぐらいしか遊び相手いないからな~」
わざとらしく明るい口調で言う春菜
そうだ、すっかり忘れていたが家には親父が居たんだった……。
春菜はお父さんっ子だったから、ずっと寂しかったんだな……
「……兄ちゃんの胸で泣いてええんやで?」
この兄の胸でお前の涙を乾かしてやる!
「はぁ?」
返ってきた反応はドライだった