剣のグッドバイ 2
「よし、出来た」
秋姉が学校へ行ってから三時間。自分でも中々凄いなって思えるちらし寿司が出来た
「奮発して蟹まで(夏紀姉ちゃんのおつまみ)入れてしまった……」
後が怖いが、適当に酔わせてごまかせば何とかなるだろう
「……そろそろ行くか」
宮田さんが乗る新幹線は五つ隣の駅に来る。
まだ時間に余裕はあるが、早く行って困る事は無い
「秋姉の荷物を……」
このおにぎり、どうしようか……
※
「はぁ、はぁ、はぁ…………や、やっと着いた…………」
電車賃をケチり自転車で来たら、道に迷うと言う典型的なボケをやってしまった……だけど間に合って良かった。
とは言え、もう時間は余り無い。急がないとあきまへん
駐輪場に自転車を置き、入場券を購入。そしてホームへ直行
「宮田さんは…………いた!」
宮田さんは階段を上がって直ぐ横のベンチで、文庫本を読んでいた。水色のワンピースが涼しげだ
「宮田さん!」
「え? あ、佐藤君? 本当に来てくれたんですね」
「昨日、行くって言ったろ? 秋姉も来たがっていたんだけど……」
「この大切な時期に見送りに来られてしまったら私、困っちゃいますよ。インターハイ、応援していますとお伝え下さい」
「あいよ。はい、これ弁当。良かったら電車ん中で食べて」
ちらし寿司が入った弁当包みを渡す
「後、これ秋姉から。ノートとキーホルダーと……お、おにぎり。ノートには宮田さんの剣道で秋姉が気付いた事や、うちの住所とか書いてあるみたい。キーホルダーは秋姉のお気に入りみたいだね」
ノートとキーホルダー、そして……お、おにぎりの入った手提げ袋を渡す
「秋さんが? ……嬉しい」
宮田さんは本当に嬉しそうに袋を受け取り、ギュッと抱きしめた
「お弁当もありがとうございます。朝から何も食べていないので、お腹ペコペコなんです」
「……おにぎりは食べられなそうだったら食べなくて良いから」
俺には秋姉の作ったおにぎりを、捨てる事が出来なかった……
「はい?」
「あ、いや何でも……」
「?? ん~、良く判りませんが……実は私もお二人に渡す物があったりします」
そう言って宮田さんはトランクを開ける
「先ずは秋さんになのですが、これを」
取り出したのは、金の刺繍が見事な錦布だ
「もし良かったら竹刀を仕舞うのに使って下さいね」
「ありがとう、きっと喜ぶよ」
「はい。……それで佐藤君には…………」
宮田さんは照れ臭そうにしながら、巾着袋を手に取った
「佐藤君にはこれです。これには私の……下着が入っています」
「し、下着!?」
「お、大きな声を出さないで下さい。……昨日のじゃんけん勝負、私の不戦敗ですから」
「で、でもあれは……」
「……お気に入りの下着なんです。大切にしてあげて下さい」
ポッと顔を赤らめ、モジモジと身体をくねらす宮田さん
な、なんやこのトキメキは。俺はそんな趣味無いはずなのに……
「……ま、まぁ、あれですな。勝負は勝負で勝負ですたいな」
何を喋っているのか自分でも分からない
「くす…………あ、そろそろ時間ですね」
「え? あ、ああ、そうだね」
その言葉通り、駅には電車が入って来る
「名残惜しいですがお別れです」
「……そうだね」
「……ふふ。こうして駅のホームで向かいあっていると、別れを惜しむ恋人同士に見えるかも知れませんね」
新幹線の扉が開き、宮田さんは乗り込む
「それでは……さようならです佐藤君」
「……またね宮田さん。…………グッドバイ」
「…………発音、下手ですね」
「わ、悪かったな」
ホーム内にピピピピピと甲高い音がなり、いよいよ別れの時間がやって来る
「…………グッドバイ、宮田さん」
「…………グッバイ佐藤君。君の見送り、嬉しかったですよ」
そう言ってニッコリと宮田さんは笑った。
秋姉に負けないぐらい素敵な笑顔
そして、扉は閉まる
別れの切なさも、悲しさも無視してあっさりと動き出す電車。
あっという間にスピードが付き、別れを惜しむ間もなくあっさりと行ってしまう
「…………もう見えなくなっちゃったよ」
少しぼーっとした後、何と無く構内にある喫茶店に入り、無駄に時間を潰す
「…………はぁ」
別れってのは悲しいな。せっかく知り合えたってのに
「…………ええい! ウダウダしても仕方が無いさっさと帰るか!!」
そう強がってはみても、中々テンションが戻らない
トボトボと駅を出て、トボトボと駐輪場へ行き、コギコギと自転車に乗る
今頃宮田さんは空港に着いているだろうか?
「そう言えば袋……」
し、下着って言ってたな
「……よし、ぱっと開けたるか!!」
自転車を止め、周りに人通りが無い事を確認し、俺は袋の紐を解く
「……ん? 人形? それと……」
袋の中には、手作りなのか秋姉と俺に雰囲気が似ている人形と、メモ用紙のような紙が入っていた
その紙を手に取ると、何かが書いてある
「ん? なになに……」
[ひょっとして期待しました? 下着なんてあげる訳無いじゃないですかスケベですね!]
「なっ!? ……はは! 騙しやがったなチクショ~。いたいけな少年を弄びやがって~!!」
吠えながら見上げた空は雲一つ無い快晴。この青空は、きっと何処までも続いている
だから、この声は届くはず
「この仕返しは必ずするからな~! 絶対また会おうね宮田さ~ん!!」
また会える日を確信し、俺はそっと人形をポケットにしまい、秋姉が待っているであろう家に向かって、力強く自転車を漕ぎ出した
今日の腹痛
剣>>>>>>>>>>>>>>俺≧秋
続きたく候