第51話:剣のグッドバイ
「お早う秋姉」
「……ん。おはよう」
秋姉と宮田さんが勝負をした翌日早朝。リビングのソファーでココアを飲んでいた秋姉に朝の挨拶
「……今日だね」
「…………ん」
今日、宮田さんはこの町を離れる。
午前十一時二十二分。これが宮田さんの乗る電車の到着時間だ
「…………」
「……秋姉。今日、学校休めば?」
昨日からずっと宮田さんの事ばかり考えていたのだろう、少し寝不足気味な秋姉。その疲れた顔を横に振る
「……だめ。私は主将だから」
「…………そうだね」
明日はインターハイ県予選。午前中、部員の皆と最後の仕上げをするらしい。
そんな大切な時に、主将である秋姉が部に出ないと言う事は出来ない
「…………お願い」
「分かってるよ、秋姉」
秋姉は自分の代わりに俺に宮田さんを見送って欲しいと、二本の竹刀が交差する可愛いらしいキーホルダーと、一冊のノート。そしておにぎりを……お、おにぎり?
「……新幹線の中で」
「…………よ、喜ぶよ、きっと!」
つ、作り直さなきゃ
「…………ごめんね」
「謝らないて秋姉。俺も見送りたかったから。それに学校サボれるし」
「……ありがとう」
微笑む秋姉。この微笑みだけで俺は学校を三年サボれる
「でも三年で転校だなんて大変だね」
アメリカの高校に通うのだろうか
「? ……宮田さんは、まだ二年生」
「同じ学年か!」
宮田さんめ! 大人っぽい雰囲気で俺を騙し……てないか
「じゃあ、後輩だったんだ」
「……ん。……去年、二回戦目に試合したのが初めて」
「強かった?」
「…………うん、忘れられないぐらい強かった。でも昨日はもっと強かったよ? いっぱい努力したんだね」
嬉しそうな秋姉。いつもより口数も多く、俺まで嬉しくなってしまう
「……そっか。きっと秋姉を目標にして努力したんだろうね」
「ん。……そうなら凄く嬉しい」
そう言って本当に嬉しそうに微笑んだ。その微笑みは俺のハートに
「一本勝ち!!」
「っ!? ……ど、どうしたの?」
「あ、い、いやつい」
「??」
不思議そうに俺を見つめる秋姉の視線にドキドキしつつ、時計を見ると六時五十分
「そろそろ時間だね」
「…………ん。行って来ます」
竹刀とバックを手に取りリビングのドアへと向かう秋姉
「行ってらっしゃい、秋姉。宮田さんの事は任せてね」
「…………うん。ありがとう」
秋姉は少し寂しそうに頷き、リビングを出ていった