秋のライバル 4
「…………」
「…………」
公園の中央。宮田さんと秋姉は向かい合う
「…………ありがとうございます、秋さん」
「…………ん」
ルールは寸止めの一本勝負。突きと小手は禁止
「……それでは」
「……うん」
二人はニ歩進み、礼をする。そして三歩進んだ所で蹲踞し、次に竹刀を構える
秋姉は左諸手上段。対する宮田さんは中段、青眼の構え
「…………」
「…………」
互いの目を捉えたまま、動かない二人
「……す、凄いな」
二人の間に、見えない球の様な圧迫感を感じる
「…………」
その玉の中に、秋姉が一歩入る。だが、ほぼ同時に宮田さんも下がる
それを再び詰める秋姉。ゆるりと下がる宮田さん
秋姉の上段は火だ。相手の間合いを侵略し、打ち破る攻めの剣
対して宮田さんの中段は水の様に感じる。流れに逆らわず、さりとて自己は譲らない
「……勝負は一瞬で決まる。そう、星々の煌めきの様に」
つかさっきから適当な解説をしている俺は、男塾の冨樫気取りか?
「…………やぁ!!」
「うわっ!?」
自分のキャラ立ちに微かな迷いを感じていると、秋姉が気合いの掛け声をあげた。こんな大声出るんだ……
「ふぅ…………アァ!」
秋姉の気合いに、宮田さんが応える。そして初めて宮田さんの方から足を前に進めた
「…………」
「…………」
詰まる間合い。後一歩でお互いの剣は届く
上段は主に面を狙う構えだ。面へ振り下ろす速さは他の構えよりも遥かに早い。
青眼は自分の間合いを保ち、面や小手、胴を狙うカウンター型の構え。 小手が禁止されている今、上段に対しては胴を狙うのがベターだろう
『突きは勿論ですが……小手も禁止しましょう。秋さんの試合が近いのに万が一の事があってはいけませんから』
そう宮田さんは言った。 秋姉に対し自分が不利になる条件を出した宮田さん。一体何を狙っているのか……
「たあ!!」
掛け声と共に宮田さんが先に動いた。秋姉に向け右足を無防備に踏み込んだのだ
「っ!」
上段は下がり知らずの構え。秋姉も素早く踏み込み、宮田さんの面に向かって竹刀を振り下ろす
決まった。横で見ている俺ですら完璧だと思ったタイミングだ。
実際に試合をしている秋姉なら尚更そう思っただろう。だが、秋姉の剣はかわされていた
振り下ろされた瞬間、宮田さんは左足一本で跳ぶ様に後ろへ下がり、紙一重で剣先をかわす
「ヤー!!」
そして間一髪を入れず、竹刀を引き戻す秋姉に左片手下段からの胴。一本だ
「…………参りました」
「………………」
信じられないと言った風に、竹刀を構えたまま呆然とする宮田さん。
その宮田さんに対し秋姉は敗北を宣言し、礼をする
秋姉がこんな完璧に負ける所を見るのは初めてだな……
秋姉の上段は宮田さんの中段に比べ、間合いが広い。そして秋姉は懐に入られない様に、相手の間合い外から打ち込む癖がある。ようするに踏み込みが少し浅い
そこを宮田さんはつき、見事一本を取った訳だけど、この踏み込みの速さは……
「……凄いな」
地面を見てみると、竹刀を避けるのに跳んだ足跡と、踏み込んだ時に出来たと足跡がはっきりと残っている。
思い切り踏んだとしても、俺ではこんな風には残らないだろう
「ん…………」
俺の横に立ち、同じ様に足跡を見て頷く秋姉。
そして、未だ呆然としている宮田さんの前へと近寄った
「……強くなったね、宮田さん」
微笑みながら、相手を讃える秋姉。相手の事を認めた時に出す表情だ
「あ…………、あ……」
多分、秋姉に負けないぐらい努力をしてきた宮田さん。
強くなったと言う秋姉の一言は、きっと宮田さんにとって、何よりも聞きたかった言葉だったんだと思う。
宮田さんの表情はたちまち崩れ、ぽろぽろと涙を零し、子供の様にしゃくり上げた。だけど……
「……はいっ!」
と、凄く良い笑顔で返事をしたから
今日の冨樫
俺
続けたき