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秋のライバル 3

「……私闘は、だめ。それに制服……汚れるよ?」


あくまでも勝負を挑む宮田さんに対し、やんわり断わる秋姉


「脱ぎます!」


そう言い宮田さんは、スカートの端を両手で掴んでグイッと下ろした


「ま、待って! 街中で脱ぐのは……ブルマ?」


「ちょっと待って下さいね。リボンが外しずらくって……」


続いて、上も脱ぐ宮田さん。学校指定なのだろうか、白い体操服だ


「よし。……これで良いですか!」


キリっとした表情で、宮田さんは秋姉を見据えるが……


「ブ、ブルマに体操服。そして竹刀。何てマニアックな……」


「な、何ですかその変質者を見るような目は! 言っておきますが動き易いんですよこれ!!」


そうは言うが、宮田さんの顔は真っ赤だ


「…………へぇ」


取り敢えず頷いておく


「……わ、私だって脱ぐ事になるとは思っていませんでした。此処までしたんです! 是か非でも勝負させて頂きますよ!!」


そう言って宮田さんは、竹刀を中段に構え、剣先を秋姉の左目に向けた。俗に言う青眼の構え


「……剣道を私闘の道具にしたら駄目。勝負するならじゃんけん」


相変わらず冷静な秋姉。素敵だ……


「じ、じゃんけん?」


「ん、じゃんけん……だめ?」


「じ、じゃんけんと言われましても……」


「ん……」


困り顔の秋姉と宮田さん


よ~し、此処は俺が!


「俺とじゃんけんで勝負しろ! 掛かってきやがれ宮田さん!!」


「受け入れるのが早いですね!? ……まぁ良いでしょう。負けたら大人しく退散しますが、勝ったら秋さんと勝負させて頂きますよ」


「何を言っておるか、この愚か者め! 主の相手は、この俺じゃ!! 俺が負けても秋姉とは戦わせんぞ!!」


「ち、ちょっと待って下さい! それじゃ私にメリットが……」


「俺が負けたら服を全部脱いで、宮田さんにやるよ! それで満足かこのスケベ!!」


「いりませんよ、そんなもの!」


「……そんなもの? 母ちゃんが買って来たパンツをそんなものだと! ゆ、許さんぞカカロッ」


「君、本当に秋さんの弟ですか? 余り……と言うより、全然似てませんね」


「悪かったな!」


どうせ俺は醜いアヒルの子だよ!!


「ん……虐めたら駄目」


秋姉は俺を庇う様に、そっと俺の前に立つ


「べ、別に虐めてませんよ。…………どうしても勝負駄目ですか?」


「…………明後日。試合場で」


「…………判りました」


ガクっと肩を落とし、頷く宮田さん


「無理を言ってしまい、申し訳ございませんでした。……秋さん、またいつか試合…………して下さいね」


宮田さんはバックと制服を手に取り、にこっと笑ったが、無理している事がまる判りだ


「…………ん」


そして、何かを言いたそうに頷く秋姉の気持ちもまる判り


「……それでは失礼します」


宮田さんはブルマ姿のまま振り返り、とぼとぼと公園の外へ向かって歩き出す


「……待ちなよ。何かあるでしょ?」


俺は、秋姉が聞きたがっている事を代わりに尋ねる


「…………」


プライドがそうさせるのか、宮田さんは何も答えない


「……秋姉、聞いてあげて」


「うん。…………聞かせて、宮田さん」


秋姉の言葉はいつも少ない。だけど、その言葉には偽りや、ごまかしは無い。 

 今も様子がおかしい宮田さんを本気で心配し、出来れば力になりたいと思って聞いているのだ


そして本気の言葉ってのは、必ず相手に届く


「…………明後日の予選出れないんです。今回だけじゃなくて、これから先もずっと」


秋姉の言葉を受けた宮田さんは、気弱げな声でそう答えた


「…………どうして?」


「……あ、明日、アメリカに……転校………………ぐす」


宮田さんの足は止まり、声には僅かな震えが帯び始める


「…………アメリカ?」


「…………はい。父の転勤で、父がどうしても家族で行きたいと」


「…………」

「……その事についてはもう納得しています。私も父の側にいてあげたいですから。ただ、どうしても試合の事が……秋さんとの試合が心残りだったんです」


体操服の袖で目元を拭い、振り返った宮田さんの瞳には涙など無く、真っ直ぐな視線からは強い意志を感じた


「そ、それで……秋さんがこの辺りに住んでいると聞きまして、もしかしたら秋さんに会えるかもって思い、先々週から学校帰りにこの公園に寄って鍛練していたんです」


顔を赤らめ、モジモジと照れ臭そうに宮田さんは答える……って言うかブルマ姿でモジモジされると、なんだかモジモジしたくなるぜ


「自分でも馬鹿な事しているって思っていたのですが、家に居ても落ち着かなくて……。でも、さっき秋さんを見掛けた時は本当に嬉しかった。何となく報われたって気がして……。あ、此処で試合をしてと言うのは、つい勢いで言っちゃいました。本気じゃないので忘れて下さいね」


笑顔の宮田さん。その笑顔は少し寂しげだが、どこかスッキリとしていた

 

「……一本だけ」


そんな宮田さんに秋姉はボソッと呟いて、


「……試合。しよう?」

と、優しく微笑んだ


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