秋のライバル 2
「…………流石ですね、秋さん」
「…………」
互いに相手の持つ竹刀を弾こうと、腕に力を篭める二人。剣先が震える
「あ、ありがとう秋姉」
無礼者が左手に持った筒から右手で竹刀を抜き、そのまま俺の胴を払おうとした所を、秋姉が同じく竹刀で止めて下さったのだ
「……ん」
「秋……姉? この子、秋さんの弟?」
「ん。……弟」
「そ、そうでしたか」
無礼者は力を緩め、竹刀を退く
「失礼しました。どこぞの変質者かと思っていましたので」
「本当に失礼だな、あんた!」
「宮田 かなたと申します」
宮田さんは竹刀を収めながら、俺に向かって頭を下げる
「宮田 かなたさん?」
変わった名前だな
「……どんな字で書くんだろ」
「…………剣です」
俺の独り言に、宮田さんは呟く
「剣?」
「……剣道の剣です」
「……な、なるほど~。良い名じゃないですかいなでござる」
何て言って良いのか分からず、口調がおかしくなってしまう
「……父が剣道の道場を開いているのですが、子が出来たら必ず名前に剣を付けようと…………。一番最初は剣子だったそうです」
「そ、それはまた……」
酷い名前だなぁ
「…………かわいい」
「え!?」
「え!?」
秋姉の呟きに、俺と宮田さんの声が重なった
「…………な、なんでも……ない」
恥ずかしげに顔を伏せる秋姉。この顔だけで俺は改名出来る
「……はっ!? と、とにかく、勝負してもらいますよ!!」
「……此処じゃだめ」
「なら私の家に!」
ズイッと身を乗り出し、秋姉に迫る宮田さん
「まてい!!」
「うわっ!? な、何ですか?」
「さっきから黙って聞いておれば何と身勝手な女子よ! 主ごとき秋様が出るまでも無いわ!! 此処は姫が家臣、佐藤」
「あ、名前要らないです余計な事、覚えたく無いので」
「さ、さと……うぅ」
名前の代わりに、涙がこぼれた
「……泣かないで」
秋姉はハンカチをポケットから取り出し、俺の目元を優しく拭く。シトラスの香りが心地良い
「うん! もう泣かないよ俺!!」
「……ん。偉いね」
俺の頭を撫で、微笑む秋姉。この微笑みだけで俺は…………
「………………」
「………………ふふ。俺は大丈夫さ、秋姉」
本気でドン引きしている宮田さんの顔に、俺の姉ラブモードは終了。
慌てて、いつもの紳士に戻る
「………………と、とにかく勝負してもらいますよ!」