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第50話:秋のライバル

インターハイ県予選が、明後日から始まる五月末の夜


秋姉は俺の部屋に来て、最後の仕上げに公園へ竹刀を振りに行きたいと言った


「…………付き合ってくれるかな?」


「もちろん!」


秋姉は夜の十時を過ぎると、決して一人では出歩かない。

 これは秋姉が高校一年生だった頃の親父の言い付けなのだが、律儀に守っている。

 俺が知っている限り破ったのは、合宿の時ともう一日だけだ


「……ありがとう」


「全然さ!!」


そんなこんなで夜の公園


髪を後ろに縛り、竹刀を片手にトレーニングウェアに身を包む秋姉。その姿もまた美しい


「…………ジュース、のむ?」


「ううん、良いよ。俺の事は気にしないで」


「ん…………すぅ」


秋姉は、一度深く息を吸い、ゆっくり吐きながら竹刀を上段に構え、前を見据える


その凛々しくも美しい姿は、俺のハートに一本勝ち!


「ふっ……はっ!」


一歩踏み出し、竹刀を振り下ろす。次の瞬間には竹刀を再び上段に構えながら元の位置に戻る


それを何度も何度も素早く反復する。十、五十、百……


秋姉の顔は次第に上気してきて、額には汗が玉の様に浮かぶ


周囲からは高秋の女剣士と呼ばれる程、爽やかで涼しげに試合をする秋姉は、天才等と呼ばれたりもするが、秋姉は基本、努力の人だ。

 料理なんかも相当努力してくれているのを俺は知っている。……し、知ってはいるんだけど


「……………ふぅ」


秋姉は竹刀を振るのを止め、一息ついた


「タオルだよ秋姉」


俺は、お蝶夫人にタオルを渡す岡ひろみの様に、いそいそとタオルを持って行く


「……ありがとう」


微笑む秋姉。俺はこの微笑みだけで、タオルを三百枚買ってこれる


「今年も予選、大丈夫そうだね?」


「…………ん」


少し考えた後、秋姉はしっかりと頷く。 

 それだけ努力をして来たと言う事だ


「……でも油断大敵」


「秋姉に油断なんて無いでしょ?」


試合はいつも全力。この真っ直ぐな気性と不器用さが、インターハイで優勝出来ない理由だと言われている


「……うん。……あ、あのね」


「さ、佐藤 秋さん!?」


秋姉が何かを言おうとした時、張り上げた女の声が公園に響いた


「な、なんだ?」


声の方を見ると、暗がりで良くは見えないが、制服姿らしき女が一人。

 ズンスンとこちらへ近付いて来る


「やっぱり佐藤 秋さんですね!」


そして俺達の前に立った女は、余り見慣れない制服を着ていた。右手にはバック、左手には竹刀を入れる包み。

 髪は秋姉より少し短いセミロングで、肌の色は秋姉には及ばないが、白くて艶やか。スタイルは秋姉には劣るが、均整が取れていて、容姿も秋姉には敵わないが、ツリ目がクールな美女。ようするに秋姉最高!!


「ん……宮田さん?」


「あ……。私の事、覚えていてくれたのですね。嬉し…………ってそうじゃ無いです! 

 え、えっと……こ、此処で会ったら百年目ですよ! いざ、尋常に勝負しなさい」


「何を下郎が!」


時代劇めいた口調しやがって!


「このお方をどなたと心得るか無礼者め! 打ち首にするぞ!!」


「な、何ですか貴方!? いつからそこに?」


「始めから居たよ!」


「う~~ん。居ましたかね? 記憶(眼中)に無いです。あ、すみませんが関係無い人はフェードアウトしてもらって良いですか?」


「な、何を~」


文句を言おうと、俺は無礼者に向かって一歩足を踏み入れる


バシンッ!


その瞬間、俺の前で二本の竹刀が弾けた

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