第48話:直の肩たたき
「おーれはジャイアン、ガーキ大将~」
秋姉の満面の笑みを見て高くなりすぎたテンションを下げる為、夜の街を散歩する俺
あんな顔をする秋姉を見たのは久しぶりだ。
きっと雪葉の作文が凄く嬉しかったんだろう、俺もめっちゃ嬉しかったし
「……ふふ」
後で雪葉にお小遣でもやるか
そう思い、開けた財布は三百七十円のみ。肩たたき券でも良いかしら
しかしそんな物を十歳の妹にあげて、喜ぶだろうか?
「うむ~。ん? お、直也君か」
ジャージ姿の直也君が、こちらへ向かって走って来ている
「フッ、フッ、フッ……あ!? お兄さん! こんばんはっス!!」
直也君は走るのを止め、直立不動をした
「あ、ああ。こんばんは」
相変わらず真面目だな。……此処は一つからかってみるか
「俺は君の兄になった覚えは無い」
冷たい目と声で言い放つ
「っ!?」
俺の言葉に直也君は絶句し、肩を震わせた
「……なんちゃって~嘘だ…………よ?」
「も、申し訳ございません!!」
去年、親父が会社の上司にした時の様な、見事な90度のお辞儀。
お前は高嶋〇伸か? 等と十代には分からないツッコミを入れそうになる
「お、俺、俺、なんて失礼な事を……」
直也君の瞳に、涙が滲む
「な、直也君? 冗談だからね?」
「上段……。分かりました! 来て下さい!!」
手を後ろに組んで、歯を食いしばる直也君
「な、直也君?」
「上段蹴り、ガツンと喰らわせて下さい!!」
「い、いや違うって」
「はい! 血が出る迄打って下さい!!」
「人の話しを聞け!」
十分後
「す、すみません。俺、なんかテンパっちゃって」
「い、いや良いさ」
ようやく落ち着いた直也君を公園に誘い、ベンチに座る
「喉、渇いただろ? 何か飲むかい」
「はい! 直ぐ買って来ます!!」
「こらこら」
自販機目掛け、走り出そうな直也君の手を取り、座らせる
「俺が買って来るよ」
「そ、そんな!」
「後輩にカッコつけさせてくれないか?」
120円でカッコつくかどうかは微妙だが
「……佐藤さんは普段からカッコ良いです」
直也君は遠慮がちに俺を見つめ、ポソリと呟いた
「直也、お前……ってなんだこの空気は!?」
思わず告白しそうになったじゃないか!
「と、とにかく奢るからな! コーヒーで良いか!!」
「は、はい! ゴチになります!!」
「よかよか」
三分後
「肩たたき券ですか?」
「ああ。雪葉にあげようかと思ってるんだけど……喜ぶかな?」
「う~ん。雪葉ちゃん、肩凝ってるんですか?」
「前に揉んだけど、ぷにぷにだったな」
「でしたら肩たたき券よりも、お掃除券とかお買い物券の方が良いかも知れません」
「……なるほど。肩たたき券欲しいのは俺だもんな」
「佐藤さんは肩凝ってるんですか?」
「ああ、ってかお兄さんでも良いぞ」
「え? で、でも……」
「気にするなよ」
「あ、あざっす! 佐藤さんって、頼りになる兄さんって感じがすげぇするんで、何か嬉しっス」
「頼りになる? ……ふふふ。見る目があるじゃないか。出世するぞ?」
「こ、光栄です!」
「うむ~。肩凝りの話しをしていたら凝って来てしまったよ」
「お揉みします!」
即座に俺の肩を揉みはじめる直也君
「……ふふふ。気が利くな、お前。何処まで出世する気だ?」
「い、いける所まで頑張ります!」
「ふふ……どうだ? 俺のは硬いだろう?」
「はぁ、はぁ。す、凄いっス。た、たまらないっス」
夜の公園で怪しく笑う俺と、緊張で息を荒くしながら肩を揉む直也君。 そんな二人に、近所の人が組織の犬に連絡するのには、そう時間は掛からなかった
二時間後
「…………酷い目にあった」
職務質問から解放され、家に戻った俺。そして俺は、途中でコンビニに行かなかった事を後悔する事となる
「あら? 良いとこに帰って来たわね。今日は部屋で飲むから付き合いなさいよ」
「え? で、でも僕、明日学校が……」
「学校が……何?」
「…………はい。朝まで付き合います」
今日の災難
俺>>>>>>直>>>>>>>>>>夏
つづけないで……