表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/518

春の巨大魚 3

『よ~し釣るぞー』


竿に素早く餌を付け、見事なキャストで湖の中心に針を落とす春菜。

 俺の方は餌を付けるのにすら苦労している


『春菜~、餌付けてくれよ』


『たく、仕方ねーな兄貴は』


春菜は少し嬉しそうに餌を付け、竿を俺へ渡す


『ほらよ』


『サンキュー』


『さ~て、釣るか!』


一時間後


『…………釣れないな』


『巨大魚専用の針と餌を使ってるからな。そう簡単には釣れないって』


二時間後


『…………釣れないな』


『奴は警戒心が強いらしいな。持久戦になるぞ』


五時間後


『あ~~~~! 釣れねぇぞこのやろう!!』


『落ち着けよ兄貴。奴の活動時間は夜から明け方なんだよ。まだ早い』


冷静に言う春菜。普段短気な癖して、こういう時に限って仏のような落ち着きを見せやがる


『まだ早いったってもう夕方だぞ? そろそろ帰る準備をしないと……』


『今日泊まりだぜ? 明日も休日だし、母さんには許可とってあるし』


『…………俺、帰って良いか?』


『……良いけどさ、兄貴は私の事、心配じゃないのか?』


横に座っている俺の顔をジッと見て、春菜にしては珍しい言い方をした


『…………分かったよ、付き合うよ』


本気で置いて帰れる訳無いだろ


『さっすが兄貴! んじゃ頑張ろうぜ!!』


『その前に腹ごしらえしないか? 腹が減って仕方がない』


『ん? そうだな、じゃあ弁当食べよう。母さんが用意してくれたんだ』


『お、そいつは嬉しいな』


いそいそと担いで来たスポーツバックを開け、弁当らしき包みを……


『…………母ちゃんが用意したんだよな?』


包みに触れた瞬間、寒気を感じた。何だこの悪寒は……


『ああ。台所に二人で食べてって置き手紙が……あ、あれ? 母さんの字あんなんだったかな』


『ま、まさか!』


あわてふためきながら弁当を取り出し、蓋を開けると……


《カア、カア……ガアアアアア!?》


鳴いていたカラス達が一斉に逃げた!?


『あ、秋姉の弁当じゃねーか!!』


『う……うげ』


『こ、こら、吐くな! 耐えろ!!』


秋姉、ごめん!


『えいやー!!』


強烈な刺激臭に耐え、弁当の中身を湖に投げ捨てる。

 すると、湖から魚が何匹もプカーっと浮かんで来た


『……大丈夫か春菜?』


『た、助かった……ありがとう兄貴』


『ああ。いつでも守ってやるよ春菜』


『兄貴……』


お互い、涙でぐちゃぐちゃになった顔を見つめ合いながら、俺達は生還出来た喜びを分かち合う


『……秋姉の弁当駄目にしちゃったな』


『……仕方無いさ。秋姉には俺から謝っとくよ』


余りの美味しさに、森の動物達が奪って行ったって事にしよう


『だけど食べる物、無くなっちまったな』


『私のバックにカセットコンロとカップラーメンが入ってるぞ。後は浮いてる魚を取って焼こう』


『……ほんと逞しいな、お前って』



「…………」


「…………凄いお弁当ですね」


「……僕の姉は本当に素晴らしい人なのですが、唯一料理だけは壊滅的なんです」


姉ラブな俺でも、あの料理だけは食えない


「私も料理が苦手だったのですが、練習している内に確か作れる様になりました。お姉さんもきっと……」


「…………ありがとう。その希望を胸に、毎日を生きてゆきます」


多分無理だろうけど

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ