第46話:春の巨大魚
ピッポッパッポ……
トゥルルル、トゥルルル
ガチャ
「はい、大人悩み相談室です」
「あ、もしもし。相談に乗って欲しいのですけども」
「どのようなお悩みですか?」
「それが先日の事なんですけども、先日……」
『兄貴ー、巨大魚釣りに行こうぜ!』
日曜日の朝、部屋で月刊将棋クラブを読んでいると、部屋に春菜が飛び込んで来て、いきなりそう言った
手には釣竿、頭には麦藁帽子。なんて腕白なんだ……
『巨大魚? ブラックバスとかか?』
『……………ふ』
格好に呆れながら仕方なく話しに乗ってやると、春菜は鼻で笑いやがった
『な、なんだよ?』
『次元が違うって。つか兄貴は知らないのか?』
『何を?』
『伝説の巨大魚を』
~伝説の巨大魚~
むかし、むかし。麦藁帽子がよく似合う、元気な少年がおりました。その少年は釣りがとっても好きで、その熱心さから周りからには釣りキチなどと呼ばれ……
『それ漫画だろ?』
『違うって! 岡崎のじいちゃんから聞いたんだよ』
『岡崎のじいさんか……』
悪い人では無いけど、話しが大袈裟なんだよな
『とにかく、我孫湖に伝説の巨大魚が居るんだってよ。く~燃えるぜ!』
春菜は拳を握りしめ、力強くそう言った
「お元気な妹さんで良いじゃありませんか。私には弟が居るのですが、妹さんの元気を見習って欲しいです」
「いえ、まぁ元気無いのは良いんですけどね」
ガタンゴトンと揺れる電車の中。釣竿と釣り道具を持った俺達は何か間抜けだ
『つか春菜』
『なんだよ』
『……お前ブラジャーしてないだろ?』
色付きのTシャツを着ている為、はっきりとは見えないが、それでも形は分かる
『当たり前だろ? 釣りに行くのに、んな邪魔くさい物してられるかっての』
「……当たり前ですか」
「当たり前らしいです。あいつ来年は高校生ですよ? あいつ割とスタイル良いんです。電車内でも男どもの視線が気になって……」
「げ、元気があって良いじゃないですか。わ、私の母も下着をせずにコンビニとか行きますよ?」
「そ、そうですか。
……まぁ元気なのは良いんですけね」
「他にも何か?」
「ええ、実は……」