第44話:夏の無実
母ちゃんの風邪が見事完治し、迎えた母の日
その日の夕方、我が家は大変な盛り上がりを見せていた
「旨い酒、旨い料理! 後は綺麗どころの芸者だけってね!!」
母の日の為、昨日から下準備をしていた(俺が)料理の数々。
それら料理や夏紀姉ちゃん秘蔵の酒が、リビングの長テーブルに所狭しと並んでいる
「あ~美味しい! 久しぶりだわ、こんなに美味しいお酒」
料理をつまみながら、機嫌よさ気に酒を飲む夏紀姉ちゃん。酔いどれLEVELは3と言った所か
「ほら飲みなさい! 役不足だけど今日はあんたがあたしのホストよ」
夏紀姉ちゃんが俺のコップ半分にブランデーを注ぐ。
そしてウォッカを入れてちゃんぽんにしやがった
「さあ飲めや歌えや! 此処は桃源郷!! ほら一気よ、一気!」
「………………」
何故、酔いどれ姉ちゃんを誰も止めないかって?
それは……
「目~が~ま~わ~る~わ~」
「うう…………夏姉は鬼だぁ」
「…………お酒、二十歳を過ぎてから……まだ……だめ」
「すぅ……すぅ」
俺と夏紀姉ちゃん以外、全滅しているからだ!
そう、何を隠そう母ちゃんと春菜、秋姉は酒がとても弱い
夏紀姉ちゃんの巧みな話術で、飲まされた二人。そして無理矢理飲まされた一人! 今や我が家は酔いどれ一人に支配されていた! ちなみに雪葉はお休み中
「な、夏紀姉ちゃん。俺もそろそろヤバイんだけど?」
かれこれ一時間は飲まされ続けている
「ふふ。……夜はこれからよ? 二人で甘い夜を過ごしましょう?」
夏紀姉ちゃんは俺の顎に手を沿えて、優しく撫でたが……
「全然甘くねー!」
むしろ胃から酸っぱい何かが喉を掛け上がってますがな!!
「ウダウダ言わないで飲みなさい! 飲んで吐いてまた飲んで、それを血が出るまで続けてこそ酒に強くなるのよ!」
「そんな某体育大学のシゴキみたいな飲み方はいや~」
テーブルから逃げ出す俺を、夏紀姉ちゃんが追う
「え~い飲まんか~」
「た、助けて~」
そして部屋の角であっさり捕まり、ゴリラ並の怪力で抑えられ追い詰められた俺! どうなる!
「お兄ちゃん!」
――奇跡が起きた
雪葉がむくりと起きて、俺を呼んだのだ!
傍若無人な夏紀姉ちゃんに怒っているのか、いつになく勇ましい顔付きをしている
そして雪葉はズンズンと俺達に近寄り、俺達の間に割って入った
「ゆ、雪葉?」
流石の夏紀姉ちゃんも、いつもと違う雪葉の剣幕に戸惑う
「ど、どうしたんだ? 雪葉」
俺もなんだかビクビクもんだぜぃ!
「お兄ちゃん!!」
「は、はい!!」
雪葉は俺の顔をじっと見上げ……
「……チュウして? 雪葉にでこチュ~」
急に甘え始めた!?