第5話:秋のお弁当
「あ〜」
昼休みの教室。俺の声が響く
「どうした?」
そう聞くのはダチの太郎だ
「弁当忘れた!」
今日は朝、行く所があり、いつもより相当早く家を出た
それでも時間ぎりぎりだったので、慌てて出たのだがそれが運のつき
「あちゃ〜、購買で買って来いよ」
山田は人ごとの様に言う。なんて冷たい男だ!
「今月、厳しいのに……」
ガックリ肩を落としていると、廊下の方で俺の名前が聞こえる
「お〜い、秋先輩が呼んでるぞ〜」
その声に、クラス中が廊下を見た
「秋先輩来てるの!」
「サ、サイン貰って来ようかな!?」
「何しに来た!? 何しに来たんだ!! まさか俺に告白かぁ〜」
俺は人目を気にしながら、コソコソと廊下へ出る
廊下では、下級生に囲まれた秋姉が、ぽつんと立っていた
「あ、秋姉!」
「…………あ」
秋姉はスルスルと生徒を避け、俺の前へ出る
「ど、どうしたの秋姉?」
「…………これ」
生徒達が緊張した面持ちで見守る中、秋姉は右手を挙げる
その手にあるのは沢山の猫が描かれている包み
これは……
「俺の弁当!」
「………わすれてた」
「ありがとー」
「ん」
そう言って秋姉は、やっぱりスルスルと生徒達をかわし、自分の学年へ帰っていった
「あ、秋先輩に弁当を持って来させるなんて……」
「お前の血は何色だ!!」
「ひ、ひぃぃ!?」
俺はクラスメート達に揉みくちゃにされながら、席へと逃げ帰る
「ふぅ、ふぅ……酷い目にあった」
どんな時でも席に着いたら追撃しない。それが僕らのルールです
クラスメート達は舌打ちをし、去っていった
「大変だったな。それにしても秋先輩……相変わらずカッコイイな!」
「ま〜ね」
弟として鼻が高い
「さすが我が学校が誇る剣士だよ」
「ま〜ね!」
秋姉は女子剣道部の主将をやっていて、昨年のインターハイで個人3位を取った実績がある
その戦い方は晴れた秋空の様に爽やかで、付いたあだ名が高秋の女剣士
美人で強くて、カッコイイ俺の自慢の姉だ!
「……ふひひひ」
「……お前、超気持ち悪いな」
「おっと、失礼」
俺は我を取り戻し、いつもの紳士へと戻る
「さ〜て今日のお弁当は何かな〜」
俺はワクワクしながら包みを解き、蓋を開け……………………………………………………………
「な、何じゃこりゃ〜!」
「はっ!?」
余りの光景に、一瞬意識が飛んだが、山田の声で戻って来た
そのお弁当は、TVなら確実にモザイクが掛かる様な色と形になっており、何とも言えない異臭が漂う
「く、くせぇ! くせぇ、くせぇー」
「さ、サ〇ンよ!? サ〇ンなのよ!!」
「う、うげぇぇえ。た、助け……」
クラス内は一瞬でパニックとなり、皆逃げ出したり気を失う
残ったのは耐性がある俺だけだ。そんな俺の意識も、もうじき途切れるだろう
「あ、秋姉…………」
そう、これは秋姉の唯一の弱点
秋姉は壊滅的に料理が下手なの……だ
…………グチャ
一時間後、病院で目覚めた俺は、弁当箱に顔を突っ込んで瀕死の状態だったと言う
その頃の剣道場
「秋先輩! もう一本お願いします!!」
「……うん。………喜んでくれたかな? あの子」
今日の戦闘力
弁当>>>>秋>>>>>クラスメート>俺≧山>父
つづけ……られるだろうか?