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母の風邪 2

「お兄ちゃん、雪葉は何すれば良い?」


雪葉は自分のお小遣で買った、ちょっと大人っぽい(雪葉談)花柄のエプロンを掛けながら尋ねる


「そーだなぁ」


雪葉はこの家で三番目に料理が上手い。お菓子作りが主だが、包丁等を使わせて危ないと言う事は無い


「鍋の下拵えは俺がやるから、米を研いでくれるか?」


「うん!」


地味な仕事でも素直に頷いてくれる。これが夏紀姉ちゃんなら


『研げは?』


と冷たく言い放ち、冷蔵庫からビールを取って部屋へと戻るだろう


「……本当にいい子だな雪葉は」


素直に育ってくれて兄ちゃん嬉しいよ! 何だか涙が出て来るぜ、ちくしょい!!


「ど、どうしたの、お兄ちゃん? キムチが目に染みるの?」


キムチを包丁で食べやすく切っている俺に、雪葉が心配そうに尋ねた。

 これが夏紀姉ちゃんなら……


『その涙、一滴でも食べ物に落としたらあんたの目からはキムチの汁が流れる事になるわよ?』


と、真顔で言いながら冷蔵庫からビールを取って部屋へと戻るだろう


「……本当、似なくて良かった…………いて」


雪葉を温かい目で見ていたら、包丁で指を切ってしまった


「お、お兄ちゃん!? 待ってて、今、絆創膏と消毒液持って来る!」


雪葉は俺が平気だと言う間も無いぐらいに、慌ててキッチンを出て行ってしまった


「……良い子や」


これが夏紀姉ちゃんなら


『あら、馬鹿でも血は赤いのね?』


とか言って俺を罵倒……


「する筈は無いか、流石に」


「あら、血が出てるじゃない? 馬鹿ね」


惜しいっ!


いつの間にか居たのか、キッチンとリビングを繋ぐドアの前で、夏紀姉ちゃんが腕を組んで俺を見ていた


「雪葉が慌ててキッチンから出て来たから何かと思って来てみれば……」


そう言いながら夏紀姉ちゃんは俺に近付く


夏紀姉ちゃんの格好は、へそが見える程、短いTシャツに、ボクサーパンツだ。

 相変わらず家に居る時はまともな格好をしない


「どれ? ふ~ん、ちょっと深いわね」


夏紀姉ちゃんは俺の指を手に取り、そのまま口に運んで……くわえた!?


「な、何事!?」


秋姉ならともかく、夏紀姉ちゃんがこんな事をするはず!?


「……偽物ですか?」


「…………あんなDVDを買って来るぐらいあたしって酷い?」


「へ?」


「…………まずい! 安い血だわ!!」


洗面所に、ぺっと吐き出す夏紀姉ちゃん


「な、何だそりゃ!?」


なんなんだ一体!


俺の困惑を余所に、水でうがいをし始めた夏紀姉ちゃん。

 それをア然としながら見ている俺


「お兄ちゃん! 絆創膏だよ!!」


そこへ絆創膏を手に、キッチンへ飛び出して来た雪葉


「あ、ありがとな」

何とも言えない気まずさを無視し、雪葉から絆創膏を受け取って指に貼る


「痛そう……あれ? 夏紀お姉ちゃん?」


居たの? そんな言葉が後に付きそうだ


「い、今頃気付かれるなんて……。どうせあたしは存在感の無い暴力女だわよ」


ぶつふつと独り言を言いながら、夏紀姉ちゃんはキッチンを去っていく。 背中の哀愁がなんだか泣かせるぜ


「どうしたんだろ、夏紀お姉ちゃん」


「気にするな、誰もが一度は悩む事さ。さ、料理の続き始めようぜ?」


「うん!」


そんでもって三十分後


「完成したぜ雪葉!」


「うん! 美味しそうだね、お兄ちゃん!」


「あら~、うふふ」


雪葉と手を取り合って喜んでいると、今度は母ちゃんがキッチンへ入って来た


「母ちゃん? 寝てなきゃ駄目だよ」


「大丈夫よ~。こう見えても母さん、強いんだから~。……くしゅん」


「あ~ほら。雪葉、母ちゃんを寝かせてくるからちょっと鍋、見ておいてくれるか?」


主に春菜のつまみ食いを防ぐ為に


「うん。……お母さん」


「大丈夫よ~」


雪葉にニッコリと微笑む母ちゃん。

 体を支えると、全体が凄く熱く、まだ熱が下がっていない事を教えてくれた


「……やっぱり母は強しって奴だな」


なにげなしに呟くと、母ちゃんは俺の頭を軽く撫で


「貴方達が居てくれるから母さんは強くなれるのよ~」

と、いつもの細目で優しい眼差しを俺に向け、そう言った


「……か、風邪早く治せよ!」


なんか照れ臭くて、思わず母ちゃんから顔を背ける。

 そんな俺に母ちゃんは珍しく間延びさせずに


「はい」っと頷いた



母ちゃんを部屋へ運んで三十分。ご飯が炊き上がり、鍋も完成だ


「うぅ……美味そう」


先程帰って来た春菜は鍋をのぞき見て呟く。

 普段なら即つまみ食いするのに、今日はしない


「……ただいま」


暫くすると、秋姉も帰って来た。急いだのか、額に汗が浮かんでいる


「おかえり。それじゃ、ご飯にしようか!」


俺は母ちゃんを呼びに、再び部屋へと入った


「ご飯出来たよ、母ちゃん」


「は~い」


部屋の襖を開けると、電気がついていない暗い部屋に光が入る。

 母ちゃんはこんこんと咳をしながら、よいしょと起き上がった


「リビングで食べれるかい?」


「此処で良いわよ~。風邪をうつす訳にいかないし、一人で食べるわ~」


「駄目だよ、母ちゃん。風邪の時はみんなで食わなきゃ」


俺だってそうしてもらって元気が出たんだ


「珍しく夏紀姉ちゃんも出掛け無いで夕食を待ってるからさ」


「……ありがと~」


母ちゃんは俺の頬にチュっとキスをした


「や、止めろよ~」


「あら~」


クスクス笑う母ちゃん。……照れ臭いぜ


「……じゃあ、ご飯食べよう」


「は~い」



それからみんなで夕食。母ちゃんを中心にワイワイ騒いで……


「全快よ~」


母ちゃんのHPが回復したぜ!


「みんなが居て、母さん幸せ~」




今日の家族愛


母≧俺≧春≧秋≧夏≧雪


続けてみたら?

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