秋の甘やかし 2
「ふんふふふ~ん」
「どうした? 機嫌良さそうじゃん」
ホームルーム前の教室。鼻歌を歌う俺に、太郎が声を掛けて来た
「ん? 分かるか? 分かってしまうか? ふふ……ふひひ」
勝手に頬が緩んでしまう
「……お前、超キモい」
「おっと失礼」
いつもの紳士に戻り、俺は涼やかに微笑んだ
そして朝のホームルームが始まり――
「あ」
っと言う間に昼休みだぜい!
「昼ダァーッ!!」
「うお!? な、なんだよ、そんなに腹減っていたのか?」
「ふふ、まぁな」
発想が貧しいな太郎よ。そういう事にしておいてやろう
「……なんかスゲー見下されてる様な気がすんだけど?」
「気のせいだ。それより俺は早く学食へ……」
その時、廊下がざわめき始めた
「あ、秋先輩だ!」
「美しい……さすが俺の女(妄想)」
「こっち見たぞ! 俺に気があるのか!? 参ったな、俺、彼女居るんだけど……いや貴女が望むなら僕は愛に生きましょう。さぁ秋、僕の胸に飛びごはっ!」
「なげぇよ!」
そして俺とちょっと似てるじゃないか!
「…………暴力、だめ。……ごめんね」
俺が蹴っ飛ばした山田に秋姉は蹴った所を軽く撫でながら謝罪する。なんつー羨ましい奴だ!
「い、いや良いっすよ。アイツと俺はマブでダチっすから……佐藤! 頭や股間も蹴って良いんだぞ! お前の友情! 受け止めてやる」
「俺の友情より鈴木の愛を受け止めてやれ。な、鈴木」
隣のクラスの鈴木が山田を睨む。山田の彼女だ
「…………てへっ」
「行こう? 山田君」
「ど、どちらへ?」
「体育館裏」
「た、体育館裏!? 何でそんな怪しげな所へ……ち、ちょっと、引っ張るな! やだ、止めてくれ~」
山田は悲鳴を上げながら連れ去られていった
こんな騒ぎの中でも、みんなは秋姉に夢中で気にもしない。むろん俺も
「あ、秋先輩! 写真撮っても良いですか?」
「ん」
「秋先輩~、握手してください」
「ん」
「秋先輩! 付き合って下さい!!」
「図々しぞテメェ!」
「ナメてんのかコラァ!」
どさくさに紛れて告白した奴は、俺が手を下す迄も無く、ボコボコにされてゆく
……我が姉ながら恐ろしい人気だ
「あ、秋姉。そろそろ食堂に……」
「うん。……暴力だめだよみんな。仲良く」
「はーい!」
「はーい!」
「はーい!」
コーラス隊の様に、クラス中の声が揃った瞬間だった
ざわ……ざわざわ
食堂。普段はそんなに混んで居ないが、秋姉が食堂へ入った瞬間、ほぼ満席となった
しかし、俺と秋姉の周りだけ空いている。そして俺に突き刺さる悪意ある視線!
「き、今日は混んでるね」
頼んだカレーとソバを食べながら秋姉に話し掛ける。ちなみに秋姉はオムライスだ
「…………そうだね」
視線に気付いてないのか、それとも慣れているのか、いつもと全く変わらない秋姉
「…………あ」
そんな秋姉は何かに気付いた様な声を上げて俺に手を伸ばす。そして
「…………ご飯」
俺の口許からご飯粒を取って、そのまま自分の口へ含んだ
「…………はしたなかった?」
少し恥ずかしそうに微笑む秋姉
この微笑みで俺は円周率3000桁まで言える
パリン、パリン、パリン
あちこちからコップが割れる音。そして更に強くなった憎しみを感じる視線
「何だか腹いっぱいになってきたよ……」
「……無理はだめだよ? 残しても良いからね」
「大丈夫さ! ここのカレー美味いし。オムライス美味しい?」
「うん……一口食べる?」
「うん」
「ん……はい」
秋姉は一口分スプーンで掬い、俺の口元に運ぶ
「あ~ん……美味い!」
普段の一億倍は美味い!
「……もっと食べる?」
「い、いやいいよ。視線がおっかないし」
もはや殺意と言っても良いかもしれない
「それじゃまた家で」
夢のような時間は不粋なチャイムの音と共に終わり、秋姉と食堂の前で別れる事となる
「ん。……お昼、楽しかったよ。また……」
「また一緒に食べようね秋姉!」
「……うん」
そして教室へ戻った俺。迎えてくれたのは怒りと憎しみの視線だけだった
「……………所詮俺は孤独な旅人か」
るーるるーとハミングしながら席へと座る
「それにしても秋姉は人気あるよな」
太郎へ話し掛ける
「学校一のアイドルだからな。美人で強くて頭も良くて優しい。一つだけ欠点があるけどな」
「欠点?」
料理か?
「ま、欠点って程でも無いけどな。それが良いって言ってる奴もいるし」
「ふ、ふ~ん」
あの料理が良いって言える奴って……鉄の胃を持っているのだろうか?
「……しかし、秋姉もそうだけど、本当うちの家族はみんな人気あるよ。てゆーか何で俺だけモテないんだ!」
顔か! 顔が悪いのか!
「…………気付けよシスコン」
今日のシスコン
俺∞
続かし